【伸展する関西の建設ICT⑯】座談会「建設コンサルタントの未来」 建設コンサルタンツ協会近畿支部ICT研究委員会 | 建設通信新聞Digital

4月27日 土曜日

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【伸展する関西の建設ICT⑯】座談会「建設コンサルタントの未来」 建設コンサルタンツ協会近畿支部ICT研究委員会


 
 BIM/CIM原則化が2023年度に迫り、インフラ整備の川上領域を担う建設コンサルタントの役割も大きな転換期を迎えようとしている。建設コンサルタンツ協会近畿支部ICT研究委員会の委員長でCIM分科会技術調査WG長の森博昭氏(中央復建コンサルタンツ)、同分科会幹事の大森映宏氏(協和設計)、同分科会橋梁WG長の赤坂好敬氏(ニュージェック)、同分科会道路WG長の逢坂直樹氏(国際航業)、同分科会河川WG長の漆谷悟氏(修成建設コンサルタント)、AI分科会委員の西本雄亮氏(日建技術コンサルタント)の6氏に「建設コンサルタントの未来」をテーマに、それぞれの考えを聞いた。

    逢坂氏      漆谷氏      森氏      大森氏      西本氏      赤坂氏



インフラ整備の橋渡し「主役」としての活動を



–7年目に入った研究委員会の現状は

  15年にCIMって何? というところから始まった研究委員会でしたが、現在はBIM/CIMにとどまらず、ICTツールの活用やインフラメンテナンスのDX化につなげる視点など、幅広く意見を交わしています。組織としては「CIM」と「AI」の2分科会に分かれて取り組んでいます。
 大森 CIM分科会では継続して「橋梁」「道路」「河川」「技術調査」の4ワーキンググループ(WG)で活動をしています。BIM/CIMの原則適用が前倒しされ、各WGとも21年度からはこれまでより一歩踏み込んだ議論に入り、課題抽出など積極的に取り組んでいます。
 西本 AI分科会は「事例」「開発」「調査」の3つのWGで活動しています。私は調査グループの所属で、今後は学識者を招いた講演会や意見交換会の場を作りたいと思っています。このほかに開発WGでは『Raspberry Pi』を使ったAIのプログラムを作ってみようという動きもあります。
 赤坂 橋梁WGでは導入ガイドラインがBIM/CIM活用の方向性に刷新されたことを受け、オンライン中心に改めてメンバー間での知識の深度化に務めているところです。
 漆谷 河川WGでもガイドラインへの対応や課題の洗い直しといった情報集約を進める一方、維持管理分野への対応も考慮しiPhoneに搭載されている『LiDARスキャナー』を実際に使ってみる試行も始めています。
 逢坂 CIM分科会ではUAVを使って写真測量3Dモデルを作成する企画を、大阪府貝塚市のドローンフィールドで実施する予定でした。残念ながら緊急事態宣言で延期せざるを得ませんでしたが、これからもさまざまな取り組みを進めていきます。
  技術調査WGも近畿地方整備局の近畿インフラDX推進センターの見学が、中止になってしまいました。発注者側だけでなく、外部との意見交換はとても貴重ですし、それが社会貢献につながる一歩になります。今後はソフトウェア会社などとも意見交換していきます。

iPhone LiDAR を使った簡易な測量の例


BIM/CIMで業務領域広げ社会に貢献



–BIM/CIM原則化を背景に、業務は変化するか

 西本 測量調査が専門ですが、測量データがその後どう使われるかを考えないといけない時代になりました。単純な作業ではなく、非常に高度なレベルが求められていると実感しています。
 赤坂 BIM/CIMは建設プロセスの上流から下流までデータがつながることが前提にあります。各地方整備局のi-Constructionモデル事務所などでは維持管理業務にBIM/CIMを活用する事例も出てきており、われわれも守備範囲を広げていくべきだと感じています。
 漆谷 確かに守備範囲が広がることは間違いないのですが、人材には限りがあり、企業としては選択と集中をせざるを得ない場面も出てくると思います。特に中小の建設コンサルタントにとっては、どこで勝負をかけるのか、今が将来の分岐点なのかもしれません。
 逢坂 人材不足は業界の課題としてありますが、一方で今後主流になる3次元にどう対応するかも重要です。建設プロジェクトを通してデータが一貫して流れることで、川上領域を担うわれわれのリソースが最後まで使われることには大きな意味も出てくるでしょう。
 大森 そうなると発注者、設計者、施工者に、エンドユーザーも含めた4者すべてを見据えないといけません。その全体をマネジメントすることが、われわれ建設コンサルタントの役割の1つとしてクローズアップされてくることでしょう。

活動の様子(CIM分科会による会議)



DX・ICT促進で魅力向上、新たな価値を創造



–BIM/CIMに対する各社の意識は

 赤坂 ことしに入りDX推進部を立ち上げ、そこが先進的な取り組みの中心となって活動を始めました。実践的に学び、若手を育てていこうという雰囲気がようやく浸透し始めたことは頼もしい限りです。
 大森 19年にBIM/CIM推進室を設置しました。21年からは新入社員に向けた3次元CAD研修に加え、新入社員以外の全社員を対象としたウェブ形式でのレクチャーなどの講習会も開いています。
 漆谷 週1回ペースの少人数ワーキングが活動の中心です。実際の業務に即しつつ3次元設計のあり方を自分たちなりに検証してみたりしています。20年あたりから社員の意識も変わり始めました。
 西本 私の所属する部署では若手中心ということもあり、3次元ソフトを扱える社員も多い。BIM/CIMや建設DXといったトピックにも敏感で、前向きな雰囲気になっています。
 逢坂 私の部署は比較的早い段階から3次元設計に取り組み始めていたので、他部署からBIM/CIMについて教えを乞われることが多く、それがきっかけとなって社内に新たなネットワークが生まれたという良い面があります。
  CADオペレーターのリーダー層に実践的な知識や技術を共有してもらうテクニカルミーティングや、管理職や管理技術者に向けて認識を深めてもらうためのマネジメントミーティングといった研修を続けています。組織もCIM推進室をICT戦略室とし、実践は現場に任せる流れに移行しました。
 大森 コロナを機にテレワークが増え、ウェブ会議も普通になりました。1年前は発注者との打ち合わせに頭を悩ましていましたが、いまは皆慣れてきました。そうした働き方の変化の中でも、社会インフラ整備のためのプラットフォームづくりを担う建設コンサルタントの領域は広がっていくでしょう。
 漆谷 インフラDXが進むことで土木工学をやってみたいと感じる若い人が増えたらうれしいとも感じています。この業界を目指す人材のレベルがより高まれば、将来的に建設業の発展にもつながります。
 赤坂 BIM/CIM原則化が打ち出され、建設コンサルタント業界が3次元設計への対応を始めました。当社も今はちょうど2次元から3次元への移行期に当たり、非効率にならざるを得ない場面もありますが、いずれは生産効率も大きく向上すると考えています。
  気になるのは、最終的にどこまで人間が介在すべきかという点です。
 西本 だからこそAIの活用が求められると思います。人間が全てチェックする昔ながらの方法が機能するならそれにこしたことはないですが、インフラの老朽化が進み、一方でわれわれ建設コンサルタントを始め、社会インフラの担い手は減っています。だから機械にできることはAIに任せ、微妙な判定はプロの目でチェックすべきだと思っています。
 逢坂 1次段階のスクリーニングにAIは十分機能すると思います。ただ、地下空間とかあるいは構造物の内部とか、人の目には見えにくい部分でもAIなら可視化できますが、最終的な部分はやはり人の目が必要になってくるのではないでしょうか。
  AIが効率良く作業してくれるようになれば、われわれはもっと知的サービスに時間を割くことができます。かつては図面を書き直したり数量計算書を作り直したり、徹夜覚悟の業務もしばしばありましたが、一番目指すべきはそういう作業の解消だと思います。

成果を広く発信(建コン協近畿第54回研究発表会の席上行われたICT研中間報告会)     




–建設コンサルタントの未来とは

 西本 誰にとっても扱いやすいBIM/CIMの普及が、効率化の一番の近道になるのでは思っています。また、若い人だからすぐBIM/CIMになじむとは限らないのも最近の傾向で、情報技術が苦手な若手をどう育てていくかも新たな課題と感じています。
 逢坂 設計のあり方については従来の概念に縛られることなく、ICTの技術で越えていかなければならないのだと思います。3次元への移行期にある今だからこそ設計者だけでなく発注者も巻き込みながら、共に考えていくべき課題ではないでしょうか。
 大森 BIM/CIMの原則化はわれわれにとっては非常に高いハードルであり、不安も拭えません。でも振り返ってみれば私が新人だったころはまだ図面を手描きしていた時代で、2次元CADに対する抵抗感もありました。それを乗り越えていまがあるのですから、現実を見据えて前に進むしかありません。
 漆谷 2年先の原則化を実現するためには利用ツールに対する課題も多く、技術革新が必要不可欠です。技術革新にチャレンジしていかなければ、理想には近づけません。しっかりと未来を見据えて、目の前のことから1つずつクリアしていくことが近道だと思います。
 赤坂 今後はBIM/CIMの高度利用がより進むことになるでしょう。BIM/CIMデータと連携し、風や気温の解析とか、あるいは建設副産物の排出量検討に適用するとか、その幅を一層広げることで業務の成果も変化していくでしょう。また、社会の要請を背景にリクワイヤメント(要求事項)の中にSDGs的な要素・指標が増えてくるとも考えています。
  ほとんどの土木技術者にとって、インフラDXはまだまだ夢物語のようなイメージがあります。でもベースはあくまで土木工学であって、そこにICTという最先端の技術を投入することで、私たちはデジタルツイン世界のお守り役になれます。建設コンサルタントはまだまだ世間の中で目立つ存在ではありませんが、インフラ整備の橋渡し役として、われわれはもっと目立ち、もっと前に出て活動しても良いと思います。社会インフラ全体のライフサイクルを橋渡しする主役として活動すべきでしょう。



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