【深化する関西の建設ICT③】座談会「建設コンサルタントの未来」 建設コンサルタンツ協会近畿支部ICT研究委員会 | 建設通信新聞Digital

4月27日 土曜日

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【深化する関西の建設ICT③】座談会「建設コンサルタントの未来」 建設コンサルタンツ協会近畿支部ICT研究委員会

 インフラ分野のデジタルトランスフォーメーション(DX)推進を掲げる国土交通省がBIM/CIMの原則適用時期を2023年度に前倒しする中、建設コンサルタンツ協会近畿支部ではICT研究委員会が中心になり、BIM/CIMの活用に向けた建設コンサルタントの進むべき方向性を幅広い視点から検討している。委員長兼CIM分科会技術調査WG長の森博昭氏(中央復建コンサルタンツ)、副委員長兼AI分科会幹事の高根努氏(オリエンタルコンサルタンツ)、CIM分科会幹事の大森映宏氏(協和設計)、同分科会副幹事兼橋梁WG長の赤坂好敬氏(ニュージェック)、同分科会副幹事兼道路WG長の逢坂直樹氏(国際航業)、同分科会副幹事兼河川WG長の漆谷悟氏(修成建設コンサルタント)の6人に、委員会活動の取り組みを通じてBIM/CIMとのかかわり方、さらには建設コンサルタントの将来像などについて語ってもらった。

(左から)漆谷 悟氏 修成建設コンサルタント/赤坂 好敬氏 ニュージェック/高根 努氏 オリエンタルコンサルタンツ/森 博昭氏 中央復建コンサルタンツ/大森 映宏氏 協和設計/逢坂 直樹氏 国際航業

――ICT研究委員会は発足から6年目に入った

  昨年と同様にCIMとAIの2つの分科会を置き、その下にワーキンググループ(WG)も設けて活動しています。国がBIM/CIMの原則化を2年前倒しする方針を示したところですが、具体的には国の要求水準(リクワイヤメント)にどう対応するかが最大の課題です。テクニックの問題もありますが、それ以上にフロー、つまり仕事の進め方を変えていくという視点が重要であり、この両面を軸に取り組んでいこうと考えています。

 高根 AI分科会は2年前からスタートし、基礎固めをしながら研究を進めてきました。特に24時間・365日作業が必要でスピードも求められる、もともと人間に向かないような作業を中心にAI活用が進むことが予測される中、技術調査WGでは今年度も引き続き近畿地方整備局や学識者との意見交換の場を設けるほか、事例収集WGでは建設コンサルタントとして開発すべきAIの事例集作成に取り組みます。新たにAI活用のWGも設置し「RaspberryPi」「Python」などを使った簡易なAIの試行にも取り組む予定です。

 大森 CIM分科会についても昨年と同様に技術調査、道路、橋梁、河川の計4つのWGで活動しています。昨年度は国の動きを注視しつつ、設計業務フローがいかに変化するかを中心に、BIM/CIMの照査に特化したシートの作成にも取り組み、先行して制定された橋梁編の照査シートについては近畿整備局から提供されたモデルに適用し、実運用上の検証も行いました。今年度はコロナウイルスの影響で活動開始が遅れてしまいましたが、引き続き各WGを中心に研究を進め、道路分野では詳細度に応じたモデル案の作成にも取りかかります。

――CIM分科会WGの取り組みについては

 赤坂 CIMモデルとは作成・更新と活用という2本柱で構成されますが、いまは3次元化モデルの作成ばかりに話題が集中しています。BIM/CIMとは業務効率化と働き方改革の一環で進められるべきで、活用に力点を置く必要があります。そこで橋梁WGではリクワイヤメントに対応していくにはどうすれば効率良くできるか、あるいは今後開発されるソフトの問題点など、有効活用の手法について検討していきたいと考えています。

 逢坂 実は道路分野におけるBIM/CIM活用の方向性はまだはっきりしていないところがあります。とはいえ全ての基盤データがつながっていくのが道路であり、その点においてこれから非常に重要で、かつ可能性がある分野と考えます。そこで道路WGでは技術者の視点が生かされるよう意見を出し合い、リクワイヤメントにも反映させようと考えているところです。ことしはWGのメンバーが入れ替わり、若い技術者がたくさん入ったので若手の柔軟な発想に期待したいです。

提供:オリエンタルコンサルタンツ


 漆谷 河川WGは橋梁や道路に比べると少数精鋭ですが、河川分野でニーズがある維持管理であるとか、あるいはいま積極的に進められている防災の分野を中心に、研究を進めています。わたしたちもコロナの影響でスタートが遅れ、時間があまり残されていない状況ですがリクワイヤメントへの対応はもちろん、どういったソフトが使えるのかといったソフト類の調査にことしは重点を置きたいと考えています。こうした場合にはこれが使える、とかより具体的な段階に踏み込めたらと思っています。

  2018年から20年までのICT研究委員会の取り組みについては報告書をまとめてはいるのですが、コロナウイルス感染症の流行拡大で報告会ができなくなってしまいました。とはいえ他支部にはない独自の取り組みを業界関係者の皆さんに広く発信したいとの思いから、近く報告の概要や動画を建コン協近畿支部のホームページに掲載する予定です。いま皆さんの話を聞いて改めて思うことですが、河川も道路も橋梁もすべて維持管理が重要であるにもかかわらず、リクワイヤメントに関し維持管理系の対応が進んでいないようです。そこが進まない限り、われわれがつくる成果品が生かされないことになってしまう恐れもあります。

 大森 まさに設計と施工がつながらず、どう活用するのかという視点が抜け落ちてしまっている感があります。目的を持って取り組むことが重要になります。

 高根 わたし自身、BIM/CIM業務に携わって実感しましたが、施工はもちろん維持管理も含め全体でコストダウンにつながる新たな可能性があります。計画から設計、施工、維持管理に至るまで一貫してコーディネートできるわれわれ建設コンサルタントの強みを生かすべきであり、それによってビジネスの幅も広がると思います。

 赤坂 わたしも同感です。これから必要なのはそういう全体プロセスの視点を持ったマネジャー的存在ではないでしょうか。いまの流れを加速化するためにも、事業全体を見渡す視点をもってコントロールする仕事がまさに求められていると思います。

――人材育成も重要になる

  中央復建コンサルタンツではCAD操作を中心とした技術者育成と管理職対象のマネジャー育成という両面から育成を図ってきましたが、今年度から働き方改革も意識して若手向けプログラムを始めています。若者の柔軟な発想をインフラ整備にどこまで取り込むことができるかを実証していきたいと思っています。「一気にBIM/CIMをやります」と発注者が言ったからこそできたことであって、一昔前ならこんなことは不可能だったと思います。

 赤坂 ニュージェックはことし4月に「人財育成センター」という部署を設置し、そこにBIM/CIMの専門部門も置いています。社内のグループから若手社員を選抜して派遣し1―2年間集中してそこで教育してもらいます。テクニックはもちろん、マネジャーとしての教育にも取り組んでいます。

3次元CAD講習会

 大森 実際にBIM/CIMに触れて、その有効性や可能性に気付いた人たちの発想をもっと取り入れていくべきとは思うのですが、積極的に人材や設備に投資できる企業と、そうでないところの差が出てきているのではないでしょうか。協和設計でもBIM/CIMに関する社内研修は実施していますが、実業務の中、毎週毎月定期的にできるかというと厳しい。遅ればせながら新入社員研修についてはことしからようやく3次元CADに関する教育をスタートさせたばかりです。

 漆谷 修成建設コンサルタントの場合、技術・マネジメントの両面ともまだこれからという段階で、実際の業務にどれくらい活用できているかというと正直まだこれからだと感じています。導入コストの問題もあります。実業務をこなしつつ「順次取り組みます」というのが、中小建設コンサルタントの実情ではないでしょうか。

 高根 3次元CADオペレーターの育成ひとつをとってみても、土木の専門知識がある程度必要になりますし、なかなか一朝一夕にはいきません。オリエンタルコンサルタンツでは3次元モデルをつくる人間と、BIM/CIMを使ってマネジメントする技術者のそれぞれを育成しています。

 逢坂 国際航業もどちらかといえばBIM/CIMは実業務で覚えるというスタンスですが、いまは働き方改革もあって、時間をきちんと区切らなければならない。教育ひとつとっても、以前と比べて時間がかかる。もはやかつてのように時間の制約なしに取り組めるような環境ではありません。将来的には学生のうちにBIM/CIMに触れ、ある程度まで慣れているようになるのではと思います。

――建設コンサルタントはどこへ向かうべきか

 漆谷 建設コンサルタントだからできることを考えると、維持管理業務も含めたプラットフォーム的なものが将来構築されるのであれば、いずれわたしたちはそこに向かって進むことになると思います。そこにあるデータの管理運営に当たるという仕事が、建設コンサルタント業務の中で大きなウェートを占める日が来るかもしれない。とりわけ維持管理は情報の蓄積が重要です。われわれコンサルタントはBIM/CIMモデルを効果的に活用し環境の変化に対応しながら、より良い方法を模索・提案していく必要があると思います。

 大森 建設コンサルタントの役割が設計者からプロジェクト全体のマネジメントへと移行しつつある中、われわれからも発注者に対し積極的に提案していくことも必要です。建設コンサルタントがつくったデータは維持管理も含め、施工者や発注者に活用してもらってこそ価値があります。それらをマネジメントする業務も今後は増えてくるでしょう。データを作り込み過ぎず、ある程度簡素化しながら積極的に活用してもらうという方向性が一番理想的であり、その視点を持ってアドバイスしていくのもわれわれの役目ではないかと思います。

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 逢坂 これからの道路づくりを考えていく上でいま、国がやろうとしている建設DXの仕組みを真に意義あるものにしなければなりません。そのためにも若い人たちが夢をもって道路に関する仕事に入ってくるようにしなければと改めて感じます。デジタルツインの進展により道路空間に興味をもつ若い人の数がこれから増え、建設コンサルタントが若者にとって魅力ある仕事になればと願っています。

 赤坂 建設DXが今後発展することは間違いありませんが、ツール先行で進んだBIM/CIMの反省を踏まえる必要があります。われわれは計画から設計・施工・維持管理そして更新に至るプロジェクトマネジャーとしての役割を果たしていくべきで、プロジェクトマネジメントを軸に発注者や施工者との橋渡しの役割を担っていく。その手段としてBIM/CIMを位置づけて上手に使っていくべきです。

 高根 特に土木のハード系分野は必ずしも異業種のAI開発者が積極的に参画したくなるような儲かるビジネスばかりではないと思います。ですが、熟練技術者も年々減り続ける中、インフラ整備・維持、国土防災の担い手でもあるわれわれは熟練技術者のノウハウを取り込んだAIを積極的に開発、活用すべきです。AIで何ができ、どういった利点があるのかをもっと業界の中で発信する必要があると思います。

  大学では情報系学部やデジタル関連の学科が急増していますが、これらを学ぶ学生たちの就職先として土木分野が認識されていないと聞きます。ゼネコンや建設コンサルタントにはこれまでどおり土木工学を学んだ学生だけが入ってきていますが、他から土木の世界に来てくれないのは、やはりまだ魅力がないと思われているからです。ならばわたしたちは市民のためのエンジニアとしてインフラ整備に携わりつつ、DXが進む建設業界で生き生きと働いている、そんな姿をしっかりと発信していくべきだと思います。建設コンサルタントはこれまで担ってきた労務役務の提供に加えデジタルツイン世界のお守り役、橋渡しをする者としても役割を広げていかなければなりません。

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