鹿島の設備標準化を下支え
――協創のきっかけは
栗原 鹿島の設備部門では設備専用CAD「Rebro」を主体に活用する中で、近年はデータを使って様々な業務連携を進めていこうとBIMソフト「Revit」のデータ基盤整備に取り組み始めた。テンプレートづくりの豊富な実績をもつPLUS.1と、設備系に特化したコンサルと合わせて多くのファミリ実績をもつイズミコンサルティングに対し、当社の基盤整備のために力を借りたいと両社に業務を依頼した。社内では意匠、構造、設備のベースをそろえ、蓄積したデータを相互に利活用しようと動き出している。両社には当社の設備BIMのデータ基盤づくりを委託した訳ではなく、あくまで基盤をつくるためのロードマップや、整理すべき項目や整理の仕方などの提案を求めた。具体的には、テンプレートの管理方法や作り方をPLUS.1に依頼し、イズミコンサルティングには設計図面を書くことを前提にしたファミリの構成を検討してもらった。当社ではこれをベースに管理表を作成しており、最終的に社内でしっかりとデータ活用ができるRevitのデータ基盤を構築していく。施工側にデータを渡す際にはモデルの明確な定義が必要になる。見積もりへのデータ活用などの要望も上がっており、今後AIを活用して自動化の流れを形づくる上でも、基盤となるデータの定義づけが不可欠になる。そこで両社にそれぞれの強みを提供してもらった。
――両社の強みは
西井 イズミコンサルティングは省エネ計算、環境認証、防災関連の支援業務を軸に成長してきた。BIMに取り組み始めたのは10年前。BIMを使って空調の負荷計算を進めたいとの要望を受け、自社の空調負荷計算ソフト「STABRO」とRevitのデータ連携を実現したことが出発点になる。3年前には設備BIMデータを一元管理するクラウドサービス「B-LOOP」をスタートし、STABROや機器選定ソフト「SeACD」、省エネ計算ソフト「A-repo」などの自社製品をつなぐ連携環境を整え、多様化する設備関連のニーズに対してシームレスに対応できるプラットフォームを形成した。オートデスクとパートナー関係を結んだことを機に、Revitの操作サポートやモデリング依頼、さらには技術的な相談に対応してきた。24年1月には社名を変更し、BIMの領域でもコンサルティング活動を強化する方向に舵を切った。
長 いままでファミリ作成の業務依頼は数多く取り組んできたが、今回の鹿島のように、企業側と一緒にファミリの仕様検討をしてきた経験はあまりない。通常はファミリ製作を依頼され、ヒアリングしながら当社が仕様を決め、納品していた。鹿島から明確な要求事項があったため、何を重要視して検討すべきかが明確になり、とても円滑に業務を進めることができた。
高木 PLUS.1はBIMのコンサル会社であるが、設備系のエンジニアは少ないのが現状だ。設備の領域は空調、衛生、電気など多岐にわたり、要求の範囲も広い。鹿島の要求に対して設備分野の経験が豊富で多くの実績をもつイズミコンサルティングと連携して取り組めたことで、より最適な成果を示すことができたと考えている。
大島 意匠、構造、設備の各部門が連携してデータを活用する流れが広がっているが、いざ融合しようと思った時にデータが共通化できていないケースが多い。PLUS.1がこれまで建築と構造で培った知見を、設備分野で抜きん出ているイズミコンサルティングのエンジニアリング力と融合することで、鹿島のデータ標準化に少しでも貢献できたらと取り組んできた。
西井 PLUS.1のテンプレート作成に向けた仕事の進め方を目の当たりにして、とても勉強になった。さまざまな可能性を考慮しながら、最適解を導く流れを当社のコンサルティング活動でも取り入れていきたい。協創の枠組みでは互いのノウハウを吸収し、さらに高みを目指せる効果があることも実感した。
大島 PLUS.1は顧客が何を求めているかを明確化している。データ標準化のコンサルティングでは軸がぶれてしまうと、重箱の隅をつつくような議論をしてしまう危険がある。今回は鹿島から明確な方向付けがなされたことで、とても円滑に成果を導くことができた。
栗原 社内の関係者だけで基盤整備を進める際、新たな要件が出てくると、そこからまた議論を展開する流れになり、軸がずれてしまうケースがある。今後、データ標準化に向けた分類整理を進める。専門家の目線からそのたたき台を示してもらえたことは、とても大きかった。
――BIMコンサルティングのニーズは
西井 3年前からBIMのコンサルティングに取り組んでおり、年間4、5件のペースで依頼を受けている。もともとは自社製品を販売する戦略として、コンサルティングを進めてきた。鹿島からの依頼は、純粋なコンサルティングとなり、設備BIMの基盤整備に向けた最適解とは何かを追求する当社にとっても大きな一歩になった。
高木 BIMではアドインツールや、連携システムが増えるほど、パラメーターの数が増えてしまう。ソフトベンダーにとっては新たなパラメーターを増やした方が開発しやすいが、それはユーザー側の負担になりかねない。顧客側とソフト側のニーズを踏まえた中立的なコンサルティングを心がけている。
大島 最適解を導くことがPLUS.1のコンサルティングだ。今回、イズミコンサルティングとの連携は当社にとっての「協創」の初案件であるだけでなく、設備領域で取り組んだRevitコンサルティングの初弾になった点でも意義深い。
長 以前のコンサルティングではRevit操作サポートの相談が多かった。最近はデータ活用を求める企業からの相談が増えている。PLUS.1との協創で経験できたコンサルティングの流れを踏まえ、前段階のヒアリングがとても大事であることを実感した。今回はテンプレート整備についても学ぶことができた。これを今後のコンサルティングに生かしていく。
栗原 設備BIMでは、ファミリをどこまでジェネリック化するかが重要になる。設備は分野が広く、パラメーターを整理する上でも、種類が異なる、新しい設備機器をどのように扱うか判断が必要となる。そこをきちんと整理しておかないと、標準化は難しい。当社は設計意図が後工程にもしっかりと伝わるようなモデルをつくりたいと考えている。
――設備BIMの流れは
高木 今回の経験を次の設備BIMコンサルティングにも生かしたい。共通課題を解決することで、協力会社やメーカーなどのプロジェクト関係者もBIMに取り組みながら成長ができる。分野ごとにBIMの共通部分を統一する流れになれば、建設業界全体の底上げにもなる。
栗原 構造ではRevitファミリの整備を大手ゼネコン5社で取り組み、設備工事会社でもRevitを軸とした、研究連絡会が動き出している。BIMの流れは一気に進展し、データを後工程に活用する意識が広がり始めている。当社もデータ活用の基盤を整備し、次のステージへと踏み込んでいきたい。
西井 皆同じような悩みを抱えている。その共通点をイズミコンサルティングとしても整理し、設備分野の標準化に貢献したいと考えている。共通基盤を形成すれば、システム開発の面からも新たなチャレンジをしていける。
高木 協創の関係性では、われわれが持っているノウハウのすべてをパートナーと共有したいと考えている。お互いを高め合うことが一番大事であり、それが顧客を成功に導く。顧客、パートナー、業界を良い方向に導く3方良しのコンサルティングを目指す。
大島 BIMの進展に伴い、要望も多様化、高度化している。今回、設備BIMの領域でイズミコンサルティングと協創したように、われわれは常に最適なパートナーをこれからも増やしていく。