【早期化・激化する人材獲得競争】「来てもらえないと、人が採れない」学生、企業の対応/創刊75周年特集 | 建設通信新聞Digital

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【早期化・激化する人材獲得競争】「来てもらえないと、人が採れない」学生、企業の対応/創刊75周年特集

 大学3年生・院生向けの採用広報活動の解禁日は、政府ルール上では3月1日となっている。一方でマイナビが今年の解禁日から3日間、2026年3月卒業予定の大学3年生・院生約2700人に行ったアンケートでは、4割以上の学生が「内定を得ている」と回答した。同時期の内定保有率は年々増加傾向にある。早期化する採用選考に学生や企業はどう対応しているのか。27年3月卒業予定の大学3年生、企業の人事担当者に話を聞いた。

 5月25日。東京都江東区の東京ビッグサイトでは、インターンシップなどの就業体験イベントをPRするマイナビのイベントが開かれた。正午の開会前には、入り口前に長蛇の列ができるほどの盛況ぶり。3月の就職情報解禁に合わせた催しよりも活気がある印象だ。若者の多くは今春、3年生になったばかりの大学生だ。夏期休暇に合わせて開催されるインターンシップや、その先の選考も見据えた情報収集のために集まっていた。

5月25日開催のインターンシップフェア。 東京会場には、同時開催の3イベント合計で一日に2万人以上が訪れた


■単独で会社訪問

 先頭集団に並ぶ機械工学部のAさんは、某中堅ゼネコンを志望する。ウェブ会議ツール「ZOOM」を使ったオープンカンパニーへ参加し、志望度が高まったそうだ。

 オンラインの面談の際に「担当者から連絡先をもらった。後日、連絡してみたところ『では、会社見てみる?』と言われ」そのまま話が進んだ。実際にマンツーマンで会社を見学させてもらった。その結果、雰囲気に引かれ、第一志望になったという。

■ロマンが大事

 都市計画などを専攻するBさんの場合、志望動機はもう少し明確だった。「第一志望は飛島建設だ」。理由を尋ねると「南極で施工管理ができるのはここだけだ。唯一文明が発展しなかった大陸のインフラ、社会基盤を支えたい」と、熱の入った口調で淀みなく言葉が返ってくる。志望のきっかけは動画投稿サイトのユーチューブ。中学生の時に同社観測隊の姿に魅せられたそう。「夢は南極で施工管理をすることだ。決意は揺るがない」と、固い意志がにじみ出る。一方で、イベントのブースの中には引かれる企業があったとも。「オリエンタル白石だ。ロマンがある」。残業時間や初任給など、定量的な尺度は、会話の中に一切出てこなかった。

開場5分前、入り口には120人超の長蛇の列ができた


■半日で8社回る

 Cさんは、神奈川県から2時間かけてやってきた。「少しでも実際の社員さんの雰囲気が知りたかった」と、休憩を挟まず、半日で8社のブースを回った。ただ、多くのブースを回る理由はほかにも。「質問会に来た人を優先的にインターンシップに紹介する会社がある」との内情もあるようだ。

 「教授やキャリアセンターから『建築・土木は異様に早期化が進んでいるから、3年生のこの時期から動いていないと出遅れる』と言われていた。周りもこのくらいから動いている」

 志望職種は揺れている。「ゼネコン志望で来たが、試しにNEXCOなど道路インフラ系も見たら、そちらの方が楽しそうだった。ゼネコンしか知らなくてゼネコンと思っていた。建築・土木は広いジャンルだった」と話した。

 早期に自社の認知度を高めて、一人でも多くの学生に入社を志望してもらう。担い手不足が深刻化する中、企業の広報活動も熾烈(しれつ)だ。イベント出展の狙いや、現状の取り組みなどを聞いた。

■初動の早期化

 入口付近にブースを構えたオリエンタル白石。毎年この時期のイベントにブースを設けている。総務人事部の長谷野博さんは「学生が動き始めるのは例年この時期だが、動き出しはどんどん早くなっている」と話す。「毎週、ウェブでオープンカンパニーを開いているが、先週辺りから27年卒の学生が参加し始めている」とも。

 出展ブースのプレゼンテーション資料には、昨年の新入社員の給与明細を個人情報は黒塗りにした状態で載せた。「給与の高さは一つの“売り”」と話す。

 売上高に対する研究開発比率の高さもPRしている。「比率は大手ゼネコン以上だ。特化した技術で仕事を取っているため、他社は真似できない。得意分野に絞って事業を進めることで、値引きせず、利益が出る仕組みになっている」。高給、それを支えるビジネス構造を論理的に説明し、学生に納得感を持ってもらう戦略だ。

■早期に魅力発信

 「理系、特に土木・建築の学生は、選考を受ける企業数が少ない」と話すのはライト工業人事部の岡本健志さん。「文系出身者が何十社も受けることが当たり前なのに対して、数社しか受けないと聞く。その候補に何とか漏れないようにしていくには、早い段階から学生と接触し、魅力を伝えていく必要がある」と説明する。

 特に力を入れるのがインターンシップだ。「学生へのキャリア形成支援は従来、短期のものに力を入れてきた。ただ、27年卒向けからは、5日間以上のインターンシップの強化を図っている」という。「インターンシップの参加者は、その後の選考応募に直結しやすい」。特に改正三省合意(左欄に説明)を受けて「各社、インターンシップに力を入れてきている。われわれもしっかりと力を入れ、本選考につなげていきたい」と話す。

オープニングスクール


■夏に向け集客

 あるゼネコンは、この時期のイベントに毎年参加しているという。

 人事担当者によれば、解禁日以降の会社説明会から内定につながるケースは少数とのこと。企業名を認知してもらい、入社試験につなげる。そのスタートラインが夏季休暇に合わせて行う就業体験イベントとの考えだ。

 「ここに来てもらえないと、人が採れなくなる。夏に向け、この場でいかに集客するか」と思いは切実だ。「昨年のイベントでは60人ほどだった来訪者を、今年は100人にするつもりだ」と気合がみなぎる。

 一方で、昨今の早期化については、疑問を感じているとも。「学問に打ち込む前に、就職に向けて時間を割かなければならない。一長一短だが、短所の方が大きいのでは」と話す。

■1年生から研究

 「就活系のイベントで、ブースに1、2年生が来ることもある。インターンシップを開くと、『2年生ですけど、参加させてもらえませんか』といった問い合わせもある」と話すのは、あるゼネコンの人事担当者。「年々早期化が進んでいる」と話す。

 ビジネスモデルや企業方針など、自社のカラーをPRする一方、早期化に伴っては、採用ミスマッチや早期退職の防止に特に気を配っているという。

 「当社はこういう会社ですが、あなたの社会人のイメージと合ってますか、といったスタンスで採用活動に臨んでいる。良いことだけを話し、短期で辞めてしまうようなことはあってはならない」

■三省合意

 文部科学省、厚生労働省、経済産業省が合意した就業体験に関するガイドライン。22年6月に改正され、インターンシップの定義や運用方法が明確化されたほか、インターンシップで取得した学生情報を、一定の条件を満たせば採用活動に利用できるようになった。

 

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