連載・脱請負の奔流(上) | 建設通信新聞Digital

8月18日 月曜日

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連載・脱請負の奔流(上)

インフラ運営事業に長年携わってきた東山氏。社長や取締役を務める事業は、愛知道路コンセッション、大洲バイオマス発電、仙台空港、みおつくし工業用水コンセッション、三浦下水道コンセッションとその数に本人も苦笑いするほど
【従来業務を30%縮減/人材は高付加価値部門に/市民と共に社会課題を解決】
 急速に事業拡大を続けるインフロニア・ホールディングス(HD)。6日、三井住友建設への株式公開買い付け(TOB)が始まった。成立すれば大手に次ぐ売上高1兆円企業となるが、その目指す姿は従来のゼネコン像とは一線を画す。多くの経験を積み重ねてきた請負とその上流である投資・開発、下流である運営・維持管理へ拡大・強化する脱請負の融合を武器に突き進む。かつて準大手ゼネコンの一角だった前田建設がここ数年で革新企業へと変貌を遂げ、業界に新たな奔流を生み出している。 前田建設は創業100周年の節目となった2019年、「脱請負事業の全社的推進」を盛り込んだ中長期経営計画『NEXT10』を策定。改革の推進役として20年4月に「経営革新本部」を立ち上げ、総合インフラサービス企業への一歩を踏み出した。
 今年6月、インフロニアHDの岐部一誠社長から前田建設の経営革新本部長を引き継いだ東山基専務執行役員は経営革新本部立ち上げからの5年間を振り返って、着実な成果を口にする。「今までになかった新しい改革組織をつくり、DX(デジタルトランスフォーメーション)を活用した建設業の在り方、経営の考え方へと変革してきた」
 変革の柱の一つが、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)やBPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)の徹底による従来の業務・組織の刷新だ。「例えば、現場事務の業務は多岐にわたるが、給与計算や交通費の精算といった単純な業務にもそれなりに手間がかかってきた。そうした業務のBPO化を進めてきた」と説明する。
 BPOに加えて、不要な業務や簡略化できる業務の洗い出しを行うBPRによる業務縮減も並行して実施。「BPR・BPOによる業務改革によって現場や本支店での事務業務を約30%縮減した」と明かす。
 従来業務から解放された人材は、再生可能エネルギー事業やコンセッション(運営権付与)事業のファイナンス、契約、特定目的会社(SPC)の立ち上げといった高付加価値部門へと転換している。一般的に新規事業に多くの人材を投入することは難しいが、従来の業務・組織の刷新によって新たな稼ぎ手であるエネルギーやインフラ運営事業を一気に加速させている。
 そのインフラ運営事業の現状はどうか。東山氏は「われわれの強みは実績、件数だけではなく、運営を考慮に入れた持続的・永続的なスキームを持っていることだ。つくって終わりではなく、運営にも関わっていくという思想が他社との差別化要因になっている」と自信を見せる。
 積極的に力を入れている蓄電池など再生可能エネルギー分野では、インフロニアHD傘下に加わった日本風力開発のノウハウを組み合わせたシナジーを発揮する。重要となる地元調整などで全国に張り巡らされた前田建設の支店をはじめとするネットワークを生かし、急速に事業を具体化しつつある。
 一方で、脱請負事業の確立には、国内のPPP・PFI市場の拡大が進まないことや再生可能エネルギー事業での制度変更リスクといった課題がある。「私たちとしては社会課題の解決につながる事業だと考えており、公共の負担を減らすことにもなっている。成功事例も課題も共有していくことで、地方自治体やその先にいる市民とも一緒になって取り組んでいく必要がある」と力を込める。今まさに市場をつくろうとしている開拓者の意気込みが伝わってくる。