スポーツXが運営するサッカークラブの福島ユナイテッドFCとVUILDは、福島県内に建設予定の新たなホームスタジアムの計画案を公開した。地域参加型の「みんなでつくるスタジアム」をコンセプトに「日本初の完全木造&世界初の循環型木造スタジアム」、住民参加による復興の象徴として建設し、世界に誇る「リジェネラティブ(再生型)」なスタジアムの実現を目指す。意匠設計はVUILDとボーダレス総合計画事務所、構造設計と環境設計、スポーツ照明コンサルタントはArupが担当している。
日本発のサステナブルな建築として伝統的な「式年遷宮」から着想を得た。福島県産の製材を積層することで全体を形成し、各部品は分解・再利用できる設計とし、地域資源の循環を推進する。また、建築の部材を作る過程でクラブ関係者や地域住民が「お祭り」のように制作に参加できる仕組みを導入するほか、植林や木工教育を通じて、次世代へ技術を継承し、資源・文化・技術を持続的に循環させる。
福島の盆地型気候を生かし、自然エネルギーを最大限に利用したパッシブデザインを導入する。屋根形状で夏は日射を遮り、冬は冷風を防ぐとともに、外壁の形状変化によって夏は卓越風を取り込み、冬は風を遮断する。さらに集水した雨水をろ過して再利用することで、冬季に蓄えた雪を夏季の冷房に活用する。敷地内で生産した再生可能エネルギーを蓄電システムに蓄えることで、エネルギーの自給自足の実現を目指す。最終的には、持続可能性と再生デザインを評価する世界最高水準の環境指標「Living Building Challenge」取得にも挑戦する。
5000席規模のスタジアムで重視したのは「小断面を周回させる」ことで、2階建て住宅規模の断面を一周させて全体を構成。コストを抑制しつつ、施工性を高め、人の手による建設が可能な「ヒューマンスケールのスタジアム」を実現する。平面計画は、法規的に耐火建築物になることを回避するため、建物を3000㎡以下に4分割し、断面は2階建てかつ高さ16m以下に抑えた。4棟の境界部をエントランスとし、動線と分節を兼ねる。1階には更衣室や控室、トイレ、売店などを配置。メインスタンド側2階にVIP席・実況席など主要機能を設け、バックスタンド側には収益性を考慮しホテル機能を導入する。
屋根には、小断面材を束ねることで形成するHPシェル構造を採用する。短手方向の跳ね出しと、長手方向の大スパンを両立させる。さらにシェル上に載せたトラスから懸垂曲面状に木材をつり下げることで屋根を形成する。HPシェルと懸垂曲面という二つの構造形式を組み合わせることで、スタジアムとして合理的かつ象徴性の高い架構を実現。福島の伝統的建築景観「大内宿」の茅葺きの三角屋根が連続するような外観を生み出し、地域性との調和を図るとしている。
また、建設方法にも特徴を持たせた。構成部材を地域参加者が運び、引き起こすことでシェルや懸垂屋根を組み上げる方式を計画する。祭礼における神輿や巨木建てに倣った祝祭的な建設プロセスとすることで、単なる工事を超えた「復興的建設の象徴」として位置付けるという。