【プラモデルのように家を建てる時代の設計者像】VUILD 秋吉浩気CEO | 建設通信新聞Digital

5月9日 木曜日

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【プラモデルのように家を建てる時代の設計者像】VUILD 秋吉浩気CEO

自由形状を低コストで実現可能とした。床面積300平方メートルの建築工事費用は約1億円で従来工法比5-6割程度 (C)VUILD


 建築テック系スタートアップのVUILD(ヴィルド、川崎市、秋吉浩気代表取締役CEO)は、「建築の民主化」をビジョンに掲げ、木工用3Dプリンター「ShopBot(ショップボット)」などを通じて非専門家による建築物の設計・施工を支援する。秋吉CEOは「手先が器用でなくても、データの扱いが上手な人なら家を建てられる時代」が迫っていると指摘し、新時代に必要とされる設計者「メタアーキテクト」を提唱する。

ショップボットの外観。樹種を問わず、節や曲がりの大きい低級材も加工可能 (C)黒部駿人

 
◇木によるデジタルファブリケーションの意義
 秋吉CEOは、慶応大大学院でデジタルファブリケーションを研究していたころ、横浜開催の第9回世界ファブラボ会議で米ShopBot Tools社開発のショップボットと出会った。その後、同機の輸入・販売や活用支援などの事業に着手。事業拡大に伴いヴィルドを設立した。
 コンクリートや樹脂を素材とする3Dプリンターに対し、木を素材とする点や導入費用の少なさが同機のポイントとなる。国土の3分の2を森林が占め、さらに小規模な林業従事者が全国各地に分散する日本で同機を普及させれば、全国各地で地元の木材を地元で加工してものづくりができる。「木が素材だと、他業種の人と関わる余地が広く、仲間を増やしやすい」と大きな可能性を見込む。
 
 
 
 

デジタルファブリケーションを用いて建設中の教育施設(屋根部分) (C)VUILD


◇施主自ら住宅を設計・施工
 ヴィルドはこれまでショップボットを180台以上(7月現在)販売した。キットの状態で届きユーザーが組み立てる仕組みにより、導入費用が1台500万-600万円程度となる。ユーザーは全国に所在し、多くは林産地の小規模事業者が占める。
 さらに、同機で製作した部品で住宅を建てられるサービス「NESTING」(ネスティング)を2022年4月に開始した。住宅の設計データを施主自ら作成し、基礎・躯体・屋根を構成する部品の製作、施工まで施主自ら行うこともできる。建築物を「プラモデルのように組み立て可能」とし、非専門家による設計・施工を実現。同社は技術・法令に関する支援などを行う。施主負担の費用は安価な場合で床面積24坪960万円に抑え、性能はUA値(外皮平均熱貫流率)0・25を確保した。7月現在で40件以上の申し込みがある。
 これらの事業を通して、専門知識や技術のない人でも設計や施工に取り組める「建築の民主化」を目指す。「材料費の高騰や技能者の減少が進んでも家を建てられる」と建設業が抱える課題にも貢献する。
 

ショップボット操作の指導を受けている鹿児島県の小学生 (C)黒部駿人


◇建築の民主化とメタアーキテクトの登場
 同社はショップボットの使い方を子どもにも指導する。「小学生は、ゲームなどで3Dデータの扱いに慣れているためか、大人より習得が早い」。子どもたちは「デジタル大工」さながらに手作業では難しい複雑な木材加工に取り組む。指導経験から「専門家が建築物を建てるときの思考・ものづくりの技術が、今後は一般教養のように広まる」と予測する。こうした傾向は、建築の民主化に対して追い風となり得る。
 建築の民主化が進めば、設計者に必要な能力も変容する。「AI(人工知能)などの発達により、つくりたい建物をパースや図面に落とし込む作業は、施主自身で可能となりつつある。今後は、(AIの学習データにない)従来と異なる提案をする能力や、施主、関係者からいろいろなアイデアを引き出してまとめるファシリテーション能力などが必要となる」と考え、それらの能力を持つ設計者をメタアーキテクトと定義する。

(あきよし・こうき)建築家、メタアーキテクト。2017年にVUILD(ヴィルド)を創業し、「建築の民主化」を目指す

ネスティングの構造体(C)VUILD


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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