九州電技開発の配電土木グループは8人体制。福岡市中心部の電力供給ルート構築に伴う調査・設計業務では、蝶高志課長、平井貴明係長、坂本望美係長の3人がBIM/CIMツールの操作を習得しながら、3次元モデルデータの活用によって業務の円滑化を実現している。蝶氏は「予想を上回るほど3次元活用の効果が大きいことを実感した。グループでは新たに3人の技術者にもBIM/CIM研修をスタートしており、他の業務にも活用の幅を広げていきたい」と明かす。
これまで同社は送電線や配電線など九州電力送配電からの仕事が大半を占めていたが、近年は再生可能エネルギー関連や無電柱化事業などの調査・設計を手掛けるケースも増えてきた。業務の対象は多岐にわたり、各担当は常に複数の業務を掛け持ちしている。最近では橋の中に電力ケーブルを設置する橋梁添架や、小規模変電所の調査設計も増加しており、より短時間で円滑に業務を完了する手だてとして、3次元データの活用を推し進めている。
橋梁添架では管や電力ケーブルの取り合いを3次元で詳細に検証でき、小規模変電所では設置後の状況を見える化することで、関係各所や住民との協議に3次元が有効に機能する。「われわれ3人が市街地の調査・設計業務を通して実感したように、新たな3人にもBIM/CIMの有効性を体感してもらい、業務ツールとして効率的に使ってもらいたい」と考えている。
3次元モデルデータを活用する際、グループ内では徹底してモデルを作り込むのでなく、短時間で効果的な成果を出せることを常に心掛けるようにしている。平井氏が「橋梁添架や変電所では1、2日程度で仕上げて説明する迅速さが重要になる」と言うように、3次元の活用を前提にするのではなく、あくまでも業務効率化の手段として、より効果を発揮する業務に限定して活用する方針で取り組んでいる。
福岡市中心部の調査・設計業務では、3次元モデルデータの活用によって業務の円滑化や設計精度の向上を実現した。しかしながら3次元化は自主的に対応しているのが現状で、しかも2次元設計の後に、その成果を使って3次元化する流れになり、業務量も時間も増してしまう。蝶氏は「将来的に3次元モデル業務の受注を実現していきたい」と期待している。その先に見据えるのは「3次元設計を確立し、成果としての3次元モデルデータを施工や維持管理にも展開していく」ことだ。
3次元モデルデータの活用は、設計の収まり確認にとどまらず、事業者や関係各所との協議を円滑化する有効な手段になる。企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)戦略が拡大する中で、配電や送電の分野でも3次元モデルデータの活用がクローズアップされる可能性を秘めている。同社が市街地で自主的に進める3次元対応が業務の円滑化に寄与している成果も、その後押しになりそうだ。蝶氏は「国土交通省のBIM/CIM原則適用の流れが、今後の民間インフラ事業にも着実に広がってくる」との期待を強く持っている。
社内では送電土木グループもBIM/CIMへの関心を示しており、3次元対応の準備を開始した。両グループを管轄する地中線技術部ではオートデスクのさまざまなツールを活用できるAECコレクションのライセンスを増強した。3次元モデルデータ活用の効果を実感した配電土木グループをきっかけに、同社はBIM/CIMへの一歩を力強く踏み出した。