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10月5日 日曜日

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【次代を担う建築家、大阪・関西万博に込めた思い】山田紗子氏/ずらして自然と一体感醸成

休憩所3


 「自分たちを取り巻く世界から得た感性を、ありのまま建築に投影することが次の時代の社会をつくる」。山田紗子建築設計事務所の山田紗子氏はこの信念の下、建築に向き合っている。そうして出来上がった建築は“歌の調べ”のように、気づいたら身体に染みつき、人々の日常になっていく–。色彩がダイレクトに飛び込む休憩所3も、“音”を感じるリズミカルな施設に仕上がっている。

山田氏


 対象敷地のそばには約1500本の樹木が植えられた「静けさの森」があり、与えられた敷地は「森が街になり始める際」のイメージを持っていた。だからこそ、「植物と人工物が対峙(たいじ)するのではなく、森と人工的な環境が一体となった建築をつくりたいと考えた」という。

 設計条件をみると、この休憩所には通信会社の機械設備置き場や応急手当室、トイレなど、多様な機能の設置が求められていた。こうした機能は通常目立たないように配置されるが、ここではあえて、「それぞれの機能のボリュームを生かし、樹木の塊と同じような大きさで、植物と互い違いになるように配置」し、建築が森の一塊として立ち上がる空間を考案した。

 しかしそれだけでは、樹木と人工物の一体感は生まれない。そこで考えたのが、「建物のボリュームやアウトライン、サインを含めた色の広がりを少しずつずらしていく」方法だ。「配置の工夫だけで自然との一体感を生み出すことに限界を感じていた」とき、「色やサインなど、空間を構成する一つひとつが建築の大切な要素」という捉え方をすることで、「さまざまな人や物を自然に受け入れる心地よい場所を目指せる」との思いに至った。

 色へのこだわりを強くしたのは、「街には色の塊があふれているにも関わらず、私たちはそのことを気にかけない。色が生み出す空間の立体感やつながり、楽しさを再発見するようなつくり方があるのではないか。形と同じくらい、色は建築環境をつくる重要な要素であるはずだ」との思いがあったためだ。

 実際にこの休憩所では、淡い紫色や水色、黄色など、さまざまな色が、建築物の輪郭と少しずつずれながら、空間の一部として一体化している。

 この“色”への見方は、万博というある意味で特殊な、挑戦がしやすい場所に限った話ではなく、「普通の街にも当てはまる」という。例えば、万博以前に自身が設計を手掛けた住宅『miyazaki』やバー『AWT BAR』にこの特徴が表れている。

 今回、公共的な施設の設計は初めてとなったが、「パブリックな場所はこれほどまでにさまざまな人が来て、多様な動き方をするのだという驚きと感動があった」と実感を込める。

 利用者の様子を見ていると、「日陰を見つけて座っていたり、ご飯を食べたり、ただたたずんでいたり。駅のように自由に出入りし、思い思いの時間を過ごしている様子が、身構えずに使ってもらえている証拠で、良い場所になったと感じた」

 最後に10年後の自身の未来像を問うと、「私たちはまだ影響力の強い存在ではない。社会の真ん中でがむしゃらに闘う、社会そのものだ。だからこそ、ある意味無責任でいられる」と前置きした上で、「社会を俯瞰(ふかん)する立場になったときには、『こうあらねばならない』と発信する役割を担っていきたいとも思う」と未来を見据える。

 

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