近年、宇宙への輸送手段は機体の積載量増加、低コスト化などの進歩を見せている。その一方で、従来の技術では宇宙空間で大規模な構造物がつくれず、人間が活動できる空間領域が狭いことが問題視され始めた。その課題解消にSpace Quarters(東京都渋谷区、大西正悟代表取締役)は、宇宙建築ロボットシステム「DAIQ(ダイク)system」を開発して挑む。大西氏は「宇宙構造物も『場所を貸す』ビジネスであることは不動産と似ている。大空間を実現できれば活動の幅も広がり、事業性が高まる」と展望する。
◆パネルを溶接し施工
同システムでは、まず小型のロボットと足場、金属製パネルを宇宙に打ち上げる。宇宙空間で足場を組み、続いてパネルを仮組みしてパネルの継ぎ目を電子ビーム溶接で接合。このパネルを接合したものが地上でいう外壁を構成する。最少3台から複数のロボットを連携させて自動操縦で施工を進める。
地球上との作業環境の大きな違いは地面がないこと、真空であること、宇宙線が飛び交っていることだ。これらの違いへの対応や、コンマ数ミリの溶接精度を確保するため、溶接技術、ロボット、パネルをセットで開発する。現在は2027、28年の宇宙空間での溶接実証実験に向けて準備を進める。
現状の宇宙ステーションは、直径4メートル程度の円筒状のモジュールを打ち上げ、宇宙空間でつなぎ合わせてつくる。打ち上げ時にかかる加速度などでモジュールに物理的な制約があり、同時に滞在できる人数が5人前後となる。同社は20人程度が滞在可能な規模を当面の目標とする。
◆現在の宇宙は「過疎地」
早くから関心を寄せたのはアンテナを軌道上に置く衛星事業者だった。従来、宇宙で大型構造物を実現する場合、折り畳んでロケットに積み、宇宙空間で展開する方式が採用されている。この方式では大型化と高精度化がトレードオフになる課題がある。それを背景に、同社は23年にスカパーJSATから静止軌道上での大型宇宙構造体建築手法の検討業務を受注した。
同社は、24年に大林組と月面のレゴリス(表土)を使った月面基地建築技術の共同研究を開始するなど、建設業界からの関心も高まってきた。高橋宗徳COOは「当社がつくるのはあくまでも構造物だ。温度管理や給水の設備など内部で快適に過ごすためのもの、何をするための空間かというコンセプトづくりなどは別途必要となる。もちろん地球上とさまざまな違いはあるが、これらに関して建設業界の知見が生きる可能性がある」との見方を示す。大西氏は「『宇宙産業』という呼び方は距離感が遠すぎる。現在の宇宙は『過疎地』だが、将来的には地球や複数の大型宇宙構造物を輸送機がつないで経済圏を構成すると考える。海外進出のような感覚で宇宙進出を検討してもらいたい」と語る。
◆空間も用途も広く
現在、宇宙ステーションの内部空間はR&D(研究開発)の実験で使われることが多い。立体構造のある細胞を培養する際に自重でつぶれにくい、比重の違う物質を混ぜやすいなどの利点があるためだ。高橋氏は「現状でも、狭さのため特別な実験器具を製作するなどの手間がかかったり、実験がわずかな回数しかできないなどの声を研究者から聞く。当社の方式で空間の大きさ・形状の制約を減らすことができれば、利便性や快適性が高まる。映像撮影や観光など研究以外の用途も期待できる」と見込む。
将来について大西氏も「現在の宇宙が注目される理由の一つに資源がある。例えば月には核融合の燃料となるヘリウム3が豊富にあり、火星と木星の間の小惑星群には豊富な鉱物資源がある。これらを開発できれば人類の持続可能性が高まる。その開発拠点のためにも、宇宙空間や月面における建築物の大規模化は必要となる」と宇宙資源の活用の観点からも意義を強調する。
















