連載・建築設計事務所変革の萌芽(5) | 建設通信新聞Digital

10月23日 木曜日

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連載・建築設計事務所変革の萌芽(5)

【多様性のある建築を追求/想像力働かせ居心地良い空間/日立建設設計 伊藤博之(いとう・ひろゆき)社長】
 近年、既存建築物の用途を変更して再活用する事例が、規模を問わず増加してきている。こうした背景を踏まえ、日立建設設計の伊藤博之社長は、「多様性のある建築がこれまで以上に求められている」と指摘。多様性というのは、「誰もが使いやすく、生き生きと過ごせる空間」であり、そうした建築であれば将来的に用途が変わり、異なる人が利用するようになっても「自然と受け入れられる」と話す。
 多様性のある建築を実現する上で、設計者がまず考えるべき要素として、「人とモノの動線」を挙げる。効率的に動きやすい計画であれば、「ほかの用途にも柔軟に対応できる空間になる」と語る。さらに、通路でありながらコミュニケーションの場にもなるなど、多用途に活用可能な動線空間の重要性を説く。
 加えて、「国籍や性別などの垣根を越え、誰もが生き生きと働ける場づくりも重要だ」と語る。固定観念や常識にとらわれず、「どのような人がどのように利用するのか」を利用者の目線に立って計画することが欠かせないという。
 それは言い換えると、「想像力を働かせること」だ。設計者にはプロフェッショナルとしての仕事が期待されており、「依頼主の言葉の裏にある思いを読み解き、いかに使いやすく、居心地の良い空間を提供できるか。依頼主の想像を超える施設をデザインできるかが重要なポイントとなる」と強調する。そうすることで、将来的に用途が変わったとしても、使いやすさや居心地の良さというものは変わらず残り続けるのだ。
 同社の設計による居心地の良さを追求した事例では、自然採光を積極的に取り入れ、各所に木材を使用することで、従来の事務所のイメージとは一線を画した温かみのある空間のほか、近隣や多文化共生など、人と人が交わるコミュニティー拠点となり、経済・文化全ての「交錯点」になる空間設計がある。
 さらに、新築に伴い伐採された木を新施設の部材として再利用したり、在来水生生物のビオトープを再建したりするなど、「土地の自然を壊さず、地域と調和すること」も忘れない。
 こうした取り組みは、建築物が「地域に根差し、土地の風景となる存在であるべき」という考えに基づくもので、それが結果的に、利用者、地域住民、設計者、施工者など、関わる皆の「誇り」につながると信じる。
 誰もが使いやすく、誇りに思える建築であれば、用途が変わっても愛され、使われ続ける建築に育っていくのだろう。
 9月1日に創業60周年を迎えた同社。来年1月には本社を現在の東京・神田から上野へ移転し、新たな一歩を踏み出す。1フロアである利点を生かし、社員間のコミュニケーションをさらに促進することで、「多様性のある建築」づくりを追求していく。
【業績メモ】
 中期経営計画(中計)初年度となる2025年度の業績は、活発化する建設投資を追い風に、「非常に良好」と話す。生産施設の中でも、素材・化学や半導体関連、医療・医薬分野が好調で、今後数年の経営環境は「良好な状況が続く」と見通す。現行の中計最終年度となる27年度の目標達成に向け、着実に歩みを進めている。