【建築士会全国大会】「山とまちと木造建築」テーマに木の文化継承する役割を見つめ直す | 建設通信新聞Digital

4月29日 月曜日

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【建築士会全国大会】「山とまちと木造建築」テーマに木の文化継承する役割を見つめ直す

 「山とまちと木造建築」を大会テーマに、全国から約3800人の建築士が参集した日本建築士会連合会(三井所清典会長)の第60回建築士全国大会「京都大会」は、わが国の多様な気候風土や長い歴史が育んできた「木の文化」を未来に継承・発展させていく上で、建築士が果たすべき役割を改めて見つめ直す場となった。 京都開催にふさわしい大会とすべく、主管する京都府建築士事務所協会では3年前から大会テーマを掲げて準備を進めてきた。木造建築を取り巻く環境・経済・技術を整理し、未来につなげていくため積み重ねてきた活動の集大成となった記念フォーラムでは、人工林資源活用による森林保全を目的としたNPO法人サウンドウッズ代表理事の安田哲也氏が「山」、生家の京町家「秦家住宅」を一般公開している秦めぐみ氏が「まち」、阪神・淡路大震災を契機に木構造住宅研究所(現MSD)を設立・主宰し、住宅医としても後進の育成に尽力する三澤文子氏が「木造建築」について、それぞれの実践を通じて提言。この3人に大工棟梁として伝統建築を担ってきた木村忠紀氏をパネリストに加え、高田光雄京都府建築士会副会長をコーディネーターとしたパネルディスカッションでさらに議論を深めた=写真。
 このなかで安田氏は「木の文化と林業を未来につなぐことが建築士の役割」であり、林業にとって建築士は「山から出る一番いいものを使ってもらわなくてはならない特別の存在」だとする一方で「いまのままでは建築士が木の文化と林業を絶やしてしまう」と指摘。森づくりを担う森林所有者の意欲を高めるためには「収益確保が不可欠」であると強調するとともに、「建築士が木の価値を適正に評価し、適材適所に生かす力量を備えることが必要」と語った。
 秦氏は「住宅を公開することで受け継がれた文化をいまの時間軸に組み込み、さらに使い込んでいけるような知恵と工夫が必要であることに気づいた。それは日々の生活に潜んでいるものであり、文化は住まいを舞台に蓄積されていくもの」だとした。
 三澤氏は「いま分断されている山とまちが、あたかも血が通うように生き生きと健康な関係を取り戻すための1つの方法が山で育った木材をまちに運び、木造建築をつくること」だと提起した。
 討論では木村氏が「施主と設計者、施工者の関係がいま崩れている」とし、特に「図面に自分のやりたいことだけ描いて単価を無視している。その上、架構図も描けないような設計者が多い」と苦言を呈し、「住まい手も住宅を財産として守り育てるという感覚がなくなっている。もう少し全体が賢くなってほしい」と話した。これに対して、安田氏は「どうコミットしていいか分からない世代も多いのではないか。木の見立てはキャリアや時間の厚みが必要。寛大な気持ちで若手を鍛え、経験を共有してもらいたい」と述べ、秦氏も「求めないわけではなく知らないだけ。窓口を見えやすい形にしてほしい」と呼び掛けた。

◆釿始めで厳かに開幕
 記念フォーラムに続いて行われた大会式典では、平安時代から御所務めの大工である番匠が新年や建築現場での仕事初めの時に行ってきた伝統的な儀式である「釿(ちょうな)始め」を番匠保存会が厳かに披露。「京きやり」の朗々とした歌声とともに開幕した。

まちづくり委員会の5部会などがセッション

 今回の大会では、まちづくり委員会の中に今年度から設置された「景観」「防災」「歴史」「街中(空き家)」「福祉」の5つのまちづくり部会が取り組む活動をセッションの形で初めて発信。参加した全国の建築士がこれを共有した。

街中(空き家)・歴史・景観まちづくり部会合同セッション

 「空き家問題と歴史・景観まちづくりにおける建築士の役割」をテーマとした街中(空き家)・歴史・景観まちづくり3部会合同セッションでは、歴史的まちなみ景観に危機的状況をもたらすものとして「歴史的建造物の空き家化による維持管理不全」に着目。具体の事例を交えながら空き家の利活用を促し歴史的景観を維持する手法やその過程で発生する問題点を議論し、そこで果たすべき建築士の役割について活発に意見交換した。

女性委員会+福祉・防災まちづくり部会合同セッション

 女性委員会+福祉・防災まちづくり部会合同セッションは「コミュニティケア型仮設住宅地を考える」をテーマに、女性委員会が実施した災害時の福祉避難所の運営状況調査や、福祉まちづくり部会の「新たな集落づくりにつながる復興住宅の取り組み」、防災まちづくり部会からは行政と連携した事前復興計画づくりや木造仮設住宅の供給支援の取り組みについて報告があり、それぞれの知見を共有した。

青年委員会

 このほか、青年委員会セッションでは全国7ブロックで選抜された地域実践活動報告があり、長野士会の「風穴のある場所の価値」が最優秀賞、京都士会の「ヤマケン木のテントプロジェクト」が優秀賞に選ばれた。環境部会は「各地の気候風土型認定住宅認定指針策定に向けた単位建築士会の取り組み」、情報部会は「実務者にBIMがもたらす効果」をテーマとしたセッションを行った。第5回全国ヘリテージマネージャー大会では「歴史的建築物の活用による地域創生」について、最新の動向を共有しつつ議論を深めた。

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