連載・地域建設業はいま 若手経営者のやりがい(下) | 建設通信新聞Digital

8月26日 火曜日

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連載・地域建設業はいま 若手経営者のやりがい(下)

【「未来つくる」不変の誇り/きれいごとでも理想追求】
 荒木克大陽開発社長、猪俣一成巴山組社長、細川一彦中越興業社長の3人の若手経営者は、バブル未経験の世代で、かつての“よき時代”を知らない。それどころか、入社早々に「コンクリートから人へ」を掲げた民主党政権が誕生し、どちらかといえば逆風の中を歩んできた。
 荒木社長は、人材や売り上げの確保といった経営上の懸念事項に加え、過疎化などの地域課題に対峙(たいじ)しなければならず、「常に危機感しかなく、やりがいと言われてもよく分からない」と率直に胸の内を明かす。
 自身の気持ちと重ね合わせ、「地域建設企業のバトンを受け取った人には、社業と地域の発展に対して『責任を果たすこと』を、自身のやりがいだと無理して思い込んでいるところがあるのではないか」と目を伏せる。そうした中で「他の業種にも共通すると思うが、社員の成長に励まされる」とし、「自助努力で解決できる課題は限られている。それでも社員や地域のために何ができるかを考え続ける中で、自分にとってのやりがいは見えてくるはず」と前を向く。
 猪俣社長は「周りからすれば、きれいごとに聞こえるかもしれない」と前置きした上で、「山積する課題と向き合うことに意味がある」と力を込める。
 「簡単に答えや成果は出ない」ものの、地域と地域建設業の存続に強い危機感を抱く国土交通省や地方自治体などと「同じ方向を向いて議論する土壌ができつつある」ことから、経営者として「(関係者と連携して)次世代のために未来をつくっていくことが大きなやりがい」との考えを示す。
 細川社長も社長業の苦労を身にしみて感じており、先代が家業を継がせることに後ろ向きだった理由が「今なら分かる気がする」と吐露する。それでも社員一人ひとりが生き生きと働く姿を目の当たりにすると、「一生をかけて社員を守り抜こうとの思いが強くなる」という。人材を中核とした経営基盤がより強固になれば、インフラ整備などを通じて地域に還元できるため、「結果として、自分自身のやりがいにつながっていく」と強調する。
 荒木社長は、少子高齢化による担い手不足、建設事業予算の減少など、地域課題の顕在化を受けて、「業界全体が変化しようとしていることは良い兆し」と捉える。「以前はとっぴと思われたアイデアも、今では受け入れられるようになってきた」ことを挙げ、若手経営者が地域で建設業を続けていくことへの意義を見いだす光明になり得るとの見方を示す。
 細川社長が「覚悟と思いを持っている」と話すように、やりがいには千差万別あれど、地域建設業の経営者は強い責任感の下、企業と地域の持続的発展を日夜模索している。
 猪俣社長は「きれいごとかもしれない」と再度繰り返し、「地域の建設企業にしかできない仕事、使命があり、それに誇りを持っている。だからこそ続けたい」と決意をにじませ、若手経営者の心の支えを代弁した。 (中川慎也)

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