連載・地域建設業はいま 若手経営者のやりがい(上) | 建設通信新聞Digital

8月24日 日曜日

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連載・地域建設業はいま 若手経営者のやりがい(上)

右から荒木社長、猪俣社長、細川社長
3人のプロフィールはこちらからご覧いただけます。
 生産年齢人口の減少が加速する中、建設業でも担い手確保が叫ばれて久しい。ただ、対応策の柱である「やりがい創出」の対象はあくまで社員層で、経営層にまで目を向けられることはほとんどない。企業経営の舵(かじ)を取り、地域経営にも携わる地域建設企業の若手経営者は何をやりがいとするのか。新潟県に本社を置く大陽開発の荒木克社長、巴山組の猪俣一成社長、中越興業の細川一彦社長の3人に、経営者としての苦労を含めて語ってもらった。【地域経営も担う存在に/自ら舵取り役 責任全う】
 3人はともに40代で、3代目社長。若くして企業経営のバトンを託された。荒木社長は「(大陽開発の創業者である)祖父から家業を継ぐように幼少期から言われ続けて育った。そのこと自体に疑問を抱いたことはなく、別の道に進もうとも思わなかった」と明かす。
 猪俣社長は、中山間地特有の地域性と80年を超える自社の歴史を関連付けながら、「基本的には住民と顔見知りであって、誰かと誰かがつながっている。だから、自分のことも(巴山組の跡取りとして)認識されていた」とし、おのずと自身の置かれた立場を理解していったと振り返る。
 一方、細川社長は先代の父親から「継がせるつもりはない」と言われていたため、大学では文系学科を専攻し、建設業以外の職種を就職先に選んだ。年齢を重ねるにつれ、「家業(の未来)を意識するようになった」ことから、父親と相談し、20代後半で中越興業に入った。
 後継者としての意志が固まるまでのプロセスは三者三様だが、「理由はどうあれ、自分の決断で社長になった。その責任は果たさなければいけない。誰かに評価されるためにやっているわけでもない」との使命感は共通する。
 地域建設業は、社会資本の整備・維持管理を通じて国民生活を支えるとともに、除雪を含む災害対応を担う。自然災害の多発・激甚化を受けて、周囲から寄せられる期待が年々高まっており、“準公務員”と表される。にもかかわらず、相反するように担い手不足は深刻さを増す。3人が目下頭を悩ますのが、人材の確保だ。
 建設業は、中山間地域をはじめとする地方の主要産業であり、地域住民にとっては信頼の置ける就職先に位置付けられる。高度経済成長期の人口ボーナス期であれば、経営面のゆとりも後押しし、地域内の就職ニーズと建設企業の求人ニーズがマッチしていた。
 ただ、経済が長らく低迷し、企業側が採用を控えざるを得ない状況が続いた上、人口オーナス期への移行が重なり、以前のように人材を地域内で確保することは難しくなっている。「既に建設企業が地域の雇用を支えていた時代は終焉(しゅうえん)を迎え、地域外から何とか雇用を確保して地域を支えるという姿に変わってきている」と見る向きは少なくない。
 中越興業は、30年以上前に建築分野に参入。現在は東京、仙台にも拠点を置く。売り上げ目標を毎期達成し、事業規模を維持・拡大する上では、「計画的な採用と定着化も不可欠」(細川社長)なことから、数年前に採用担当の専任者を配置し、受動的採用ではなく、能動的採用に切り替えた。地域の内外から目を向けてもらうためにSNS(交流サイト)を駆使しつつも、「業界主観の自己満足なPRに陥らないように注意し、現場や社内のありのままの雰囲気を伝えるように心掛けている」とし、情報の受け手のニーズに応えることで、「毎年6人程度の高校、大学の新卒者が採用できるようなっている」という。
 荒木、猪俣両社長も同様のスタンスで新規入職に力を入れているものの、それ以上に「退職に気を遣っている」と口をそろえる。
 社員定着による企業の持続可能性が大前提である一方、一般的には都市部から離れれば離れるほどコミュニティーが密接なため、別の側面も見えてくる。「退職者とその後も生活圏を同じくする」ことは最たる例で、そこに根を下ろす建設企業にとっては地域経営の視点が切っても切り離せないものになっている。