八芳園本館の全面リニューアル/10月1日にグランドオープン/「庭の声を聞く」/既存建物を継承、日本庭園と親和性 | 建設通信新聞Digital

9月18日 木曜日

関東・甲信越

八芳園本館の全面リニューアル/10月1日にグランドオープン/「庭の声を聞く」/既存建物を継承、日本庭園と親和性

外観。左側がクラブフロアに登るエスカレーター
メインロビー
 八芳園(東京都港区)が白金台で進めていた本館の全面リニューアル工事が竣工し、10月1日にグランドオープンする。9月17日に開いた記者発表で関本敬祐取締役総支配人は「既存の建物をより良く継承することで、原点である日本庭園との親和性を一層深めることを目指した」と説明した。実施設計・内装実施設計全体デザイン監修を担当した山崎健太郎デザインワークショップの山崎健太郎氏は、記者発表後に日刊建設通信新聞社などの取材に応じ、「庭を生かすこと、庭の声を聞くこと」に特に重きを置いたと語った。
 全面リニューアルは、イベント会場を15会場から11会場に減らしつつ、MICE(国際的な会議・展示会など)機能として520㎡、収容人数256人(着席)のホール「HAKU」を設けた。クラブフロアには屋外から直接アプローチできるエスカレーターを設け、庭園を一望するルーフトップテラスも設置。メインロビーには、高さ約4mの大川組子アート「光風庭伝」を壁面に設置し、中央部に創作家具職人が手掛けたシンボルツリーを配置した。
 改修コンセプトである「日本の、美意識の凝縮」について山崎氏は「八芳園と対話しながら決めていった」とした。その上で、特に注意を払った点として「伝統や文化に対して無作法にならないこと」を挙げ、「大正時代の図面を見つけ、その後の増築が繰り返される時代の変遷も含め、しっかりと建物の経緯と先人の思いを具体的に読み解くようにした」と振り返った。「本来は収益を生むはずの床を減らしてでも、庭を中心に据えることで収益を確保するという八芳園の覚悟を感じた」という。
 屋外にエスカレーターを配置した特徴的な外観について山崎氏は「従来の婚礼主体の施設から、婚礼とMICEの施設に変える必要があった」とし、「婚礼とMICEでは来客数が数倍も違い、それを5-6階に配置するにはエレベーターではさばけない。エスカレーターを設置して動線を確保しつつ、婚礼場も確保することが難しかった」と説明した。こうした難工事を7カ月という短工期で実現したことに、「施工を担当した安藤ハザマのLCS事業本部が本当によく頑張ってくれた」とたたえた。
 メインロビーについて関本総支配人は、「松を中心に据え、光の移ろい、風の息吹、庭に宿る自然の力強さ、来訪者の幸せを願い、職人の技で表現した」と説明。「過去から未来へと続く日本の文化の精神を映し出し、来訪者の心に深く刻まれることを願う」との思いを語った。山崎氏は「建物の“ヘソ”の配置を考えた時に、庭園が一望できる3階のカフェを取り除いてロビーにすることにした」。そのロビーの設計に当たり「個人として伝統芸術を解釈してデザインするのをやめた」と強調し、「『文化は技術』という職人の言葉を受け、技術を主役として直接壁面に配置し、(組子後方から光を当てるのではなく)北面からの柔らかな自然光が当たるようにした」と語った。