連載・全建ブロック会議総括/つかめ上昇気流(下) | 建設通信新聞Digital

11月25日 火曜日

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連載・全建ブロック会議総括/つかめ上昇気流(下)

【政策的てこ入れに期待高まる/「良識ある元請け」の存続こそ】
 昨年6月に成立した第3次担い手3法の狙いは、社会資本整備・維持管理の担い手、災害時の地域の守り手である建設業が、その役割を果たし続けられるよう、担い手確保と生産性向上を推進し、地域における対応力強化を図ることだ。その中核である改正建設業法が12月に全面施行される。
 国土交通省では現在、労務費の基準の作成やその実効性の確保に関する検討が大詰めを迎えている。本省幹部は「新たなルールが商慣習として全国の現場にしっかりと根付き、適正な労務費の確実な行き渡りを通じて、技能者の処遇改善が図られるよう取り組んでいく。また、長時間労働を前提としない適正工期の設定や猛暑日への配慮、ICTの活用促進など、働き方改革と生産性向上にも引き続き取り組む」と力を込めた。
 業界側も担い手3法によるさまざまな課題の解決に期待感を示し、「法律の理念にとどまらず、現場が実際に改善されるよう国関係機関や地方自治体、民間発注者への働き掛けを強化してもらいたい」などと呼び掛けた。
 注目の標準労務費は、その全容がまだ明らかになっていないものの、「行き渡り」の観点からも、入札契約制度の改正を望む声は依然多い。現状、技能労働者の賃金も含めて工事に必要なコストは、設計価格(予定価格)として発注者によって積算されるが、一定のプライスダウンが求められる入札という過程を経ることで、受注者が工事に掛けられる費用は必然的に100%を下回る。改正業法は労務費を価格競争の原資にさせないことを企図しているが、そもそも、行き渡りの出発点の落札金額を、本来必要な予定価格にできる限り近づけたいという業界側の声が近年高まっている。
 建設業協会中国ブロック協議会は、週休2日の実施や時間外労働規制への対応、人材確保のための広告宣言などによる費用増加で本社の維持経費が増しているほか、運送業の働き方改革に伴うコストアップなども加わり適正な利潤確保が難しくなっていると訴えた。
 こういった点も踏まえ、多くの地区からは、中央公共工事契約制度運用連絡協議会(中央公契連)モデルにおける低入札調査基準価格・最低制限価格の算定式について、一般管理費や現場管理費、共通仮設費などの算入率の引き上げ、予定価格に対する上限値の引き上げまたは撤廃の要望が上がった。困難だとは分かりつつ、予定価格の上限拘束性の撤廃を訴える意見も消えない。
 特に人口減少が著しく、若者の流出も進む地方は、担い手不足が一層深刻化し、企業の維持も困難さを増す。自治体も人材不足で、発注がままならないところも存在する。「山間部など条件不利地域の工事は、誰もやりたがらず入札不調が多発している。そもそも競争させる必要があるのか」。社会構造が変化する中で既存の調達システムの在り方を問う声も上がる。
 設計労務単価に積算基準、低入札基準や予定価格の在り方しかり、さまざまな業界要望に対し、国交省側が会計法令などの関係で「現場の実態を把握して適切に設定する」と答えざるを得ない事情は分かる。それでも「政策的に何とかしてほしい」との意見は強まるばかりだ。
 全国建設業協会の今井雅則会長は全体を振り返り、「明らかに前年よりも議論は活発で、具体的な提案も出していた。それは実質事業量の減少などを背景とする地域建設業の危機感の表れであろう」との見解を示す。そして、「職人の賃金を上げ、協力会社にもしっかりと価格転嫁する。発注者からその分の全てをもらえないのであれば元請けが身を削るしかない。社員の処遇改善や働き方改革、生産性向上にもコストは掛かる。苦労しながらも、これらに取り組む『良識ある元請け』が生き残れるようにしなければならない」と展望する。
 「責任ある積極財政」を標ぼうする高市新政権に対する業界の期待はかなり大きい。予算を増額して実質的な事業量を確保し、利益率の良いもうかる産業に変われるか。今こそ、そのための上昇気流に乗る好機だ。  (赤島晃彦)