【建設産業の全体最適示す】
建設経済研究所の新理事長に10月7日付で吉田光市氏が就任した。担い手不足や災害の激甚化、インフラの老朽化などの課題が深刻化する一方、技術の進化にも対応しなければならない建設業の状況を「変革期にある」と捉えた上で、「建設産業の役割を十全に発揮できるよう力を尽くしていきたい」と抱負を語る吉田理事長に、今後の業界発展のために必要なことや研究所が果たすべき役割を聞いた。--建設産業の現状は
「2025年度の建設投資は名目値で76兆7000億円と、前年度比で5%弱伸びる見通しを立てている。10年度を底に建設需要は着実に伸びてきた。災害の激甚化やインフラ施設の老朽化などを考えると、今後も潜在的な需要は大きいだろうが、むしろ供給サイドの問題が顕在化している。そのニーズにしっかりと応えていくことが今の最大の課題と言える」
--その課題解決には何が必要か
「一つは担い手の確保・育成だ。私が国土交通省総合政策局の建設業課長を務めたときに『建設産業政策2007』の策定に関わったが、その頃は団塊の世代が定年を迎える時期で、政策の大きな柱の一つに人材の確保を加えた。それから、正直、ここまでの状況になるとは想定していなかったが、人材の問題は深刻化している」
「新4K(給与・休暇・希望・かっこいい)に取り組むことで魅力ある産業とし、若者だけでなくシニアや女性、外国人など多様な人材が活躍できる環境を整えていくことが大切だ」
「もう一つは生産性向上であり、AI(人工知能)の活用やDX(デジタルトランスフォーメーション)を進めなくてはならない。建設業は基本的に受注産業で計画的な仕事の管理が難しい面があるだけに、産業全体で人や資材が閑散となる時期をなくしていくことも重要となる。これは建設業固有の問題かもしれないが、無駄をなくすことで大きな効果を発揮できる。本当に待ったなしの状況で、今やらざるを得ない時期に来ていると認識している」
--研究所としてどう取り組むか
「建設産業は非常に多様なプレーヤーが関わる。大手ゼネコンや地場の中小企業、専門工事業者、資材産業のほか、広義的には工事発注者も加わる。従事者としても技術者、技能者、事務職員などさまざまだ。それぞれの主体によって課題は異なり、互いの利害が相反する場合もある。それぞれにきめ細かく寄り添って見ることが大切だ。一方で、われわれはいろいろな知識を収集し客観的に分析できる立場にある。少し引いたところで全体を俯瞰(ふかん)し、社会資本整備を推進するために何が必要か、建設産業の全体最適を示していく」
「情報の交差点として業界内だけでなく、業界外に対しても交流し、建設業を適切に理解いただけるよう発信していく存在でありたい」
* *
(よしだ・こういち)1982年3月東大経済学部卒後、同年4月建設省(現国土交通省)入省。2013年国交省官房建設流通政策審議官、15年3月復興庁統括官、16年6月国交省官房長、17年7月国交審議官、18年12月損害保険ジャパン日本興亜(現損害保険ジャパン)顧問、20年6月阪神高速道路社長などを歴任。67歳。
◆記者の目
好きな言葉に宮大工の小川三夫氏が語った『不ぞろいの総持ち』を挙げる。日本最古の木造建築物である法隆寺の部材は均一のものがなく、それぞれの木の癖を生かし組み立てたことで1300年以上の年月に耐えられる構造を持つ。「組織でも同じことが言える」と指摘し、さまざまなバックグラウンドを持つ職員がそれぞれの個性を生かせる職場を目標とする。関係する人々全員が持ち味を発揮して仕事ができる建設業界を目指そうとする姿勢に心強さを感じた。
建設経済研究所の新理事長に10月7日付で吉田光市氏が就任した。担い手不足や災害の激甚化、インフラの老朽化などの課題が深刻化する一方、技術の進化にも対応しなければならない建設業の状況を「変革期にある」と捉えた上で、「建設産業の役割を十全に発揮できるよう力を尽くしていきたい」と抱負を語る吉田理事長に、今後の業界発展のために必要なことや研究所が果たすべき役割を聞いた。--建設産業の現状は
「2025年度の建設投資は名目値で76兆7000億円と、前年度比で5%弱伸びる見通しを立てている。10年度を底に建設需要は着実に伸びてきた。災害の激甚化やインフラ施設の老朽化などを考えると、今後も潜在的な需要は大きいだろうが、むしろ供給サイドの問題が顕在化している。そのニーズにしっかりと応えていくことが今の最大の課題と言える」
--その課題解決には何が必要か
「一つは担い手の確保・育成だ。私が国土交通省総合政策局の建設業課長を務めたときに『建設産業政策2007』の策定に関わったが、その頃は団塊の世代が定年を迎える時期で、政策の大きな柱の一つに人材の確保を加えた。それから、正直、ここまでの状況になるとは想定していなかったが、人材の問題は深刻化している」
「新4K(給与・休暇・希望・かっこいい)に取り組むことで魅力ある産業とし、若者だけでなくシニアや女性、外国人など多様な人材が活躍できる環境を整えていくことが大切だ」
「もう一つは生産性向上であり、AI(人工知能)の活用やDX(デジタルトランスフォーメーション)を進めなくてはならない。建設業は基本的に受注産業で計画的な仕事の管理が難しい面があるだけに、産業全体で人や資材が閑散となる時期をなくしていくことも重要となる。これは建設業固有の問題かもしれないが、無駄をなくすことで大きな効果を発揮できる。本当に待ったなしの状況で、今やらざるを得ない時期に来ていると認識している」
--研究所としてどう取り組むか
「建設産業は非常に多様なプレーヤーが関わる。大手ゼネコンや地場の中小企業、専門工事業者、資材産業のほか、広義的には工事発注者も加わる。従事者としても技術者、技能者、事務職員などさまざまだ。それぞれの主体によって課題は異なり、互いの利害が相反する場合もある。それぞれにきめ細かく寄り添って見ることが大切だ。一方で、われわれはいろいろな知識を収集し客観的に分析できる立場にある。少し引いたところで全体を俯瞰(ふかん)し、社会資本整備を推進するために何が必要か、建設産業の全体最適を示していく」
「情報の交差点として業界内だけでなく、業界外に対しても交流し、建設業を適切に理解いただけるよう発信していく存在でありたい」
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(よしだ・こういち)1982年3月東大経済学部卒後、同年4月建設省(現国土交通省)入省。2013年国交省官房建設流通政策審議官、15年3月復興庁統括官、16年6月国交省官房長、17年7月国交審議官、18年12月損害保険ジャパン日本興亜(現損害保険ジャパン)顧問、20年6月阪神高速道路社長などを歴任。67歳。
◆記者の目
好きな言葉に宮大工の小川三夫氏が語った『不ぞろいの総持ち』を挙げる。日本最古の木造建築物である法隆寺の部材は均一のものがなく、それぞれの木の癖を生かし組み立てたことで1300年以上の年月に耐えられる構造を持つ。「組織でも同じことが言える」と指摘し、さまざまなバックグラウンドを持つ職員がそれぞれの個性を生かせる職場を目標とする。関係する人々全員が持ち味を発揮して仕事ができる建設業界を目指そうとする姿勢に心強さを感じた。













