連載・建築設計事務所変革の萌芽(14) | 建設通信新聞Digital

11月14日 金曜日

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連載・建築設計事務所変革の萌芽(14)

【不変の美と変化する機能/地球温暖化を建築でカバー/INA新建築研究所 加藤朋行(かとう・ともゆき)社長】
 不変の“美しさ”と時代に合わせて変化し続ける機能が溶け合った建築--。INA新建築研究所の加藤朋行社長が目指す建築の在り方だ。ここでいう美しさとは、“見た目の美しさ”ではなく、いつの時代でも万人に伝わる「簡潔さ」を指す。一方、機能は時代とともにそのニーズが変わる。現代、特に求められているのが、環境配慮機能だ。
 技術革新や経済活動の変化によって、これまで多様な形の建築や機能、用途が生まれてきた。現代の日本でいうと「超高層」がその例だ。未来を見ると、技術の進歩で「月への移住」が現実になる可能性もゼロではない。
 こうした中、現代の世界的な社会問題の一つが「地球温暖化」だ。建設業界も無関係ではいられず、近年、ライフサイクルカーボンの削減が求められているなど、建築と環境配慮機能は切っても切り離せない関係になっている。ただ、これまでのような枠組みでは課題解決は望めないだけに「“個”で対峙(たいじ)するのではなく、“集合体”で向き合っていかなければならない」と指摘する。
 例えば、密集していた個の集まりを再開発によって集合体につくり替え、緑の空間を創出することも一つの手段だ。再開発をするのであれば、「新築段階から将来的なリノベーションやコンバージョンを前提とした建物にする」ことも、ライフサイクルカーボンを考える上で「必要な視点ではないか」と提起する。
 超高層ビルを整備する場合の注意点もある。例えば「風」だ。「超高層という“大きな個”の視点に加え、さらに大きな“都市計画的な視点”で、風の通り道や制御の仕方を考える必要性がある」と強調。加えて、それは「日本のみではなく、世界、地球規模で考えることが求められる」と投げ掛けるとともに、「自然にどうやって迎合し、あるいはあらがい、対峙するのか。大きな視点で捉え、地球全体を成り立たせていくべきだ」と思いを込める。
 脱炭素への取り組みが、地球温暖化の速度に追いついていない現状もある。だからこそ、「温暖化という現実を受け止める必要がある。抑えきれない部分は建築でカバーしていくしかない」とし、「建築の形態が変わっていくという発想が出てきても不思議ではない」とみる。
 例えば、今以上に気温が上がり、生命の危機を感じるほどの暑さが続くようになった場合、「南向きが避けられ、北向きが歓迎される時代になるかもしれない。そうすると、今まで重んじられてきた南側に窓を設けないという選択肢も出てくる。日照の考え方も変わり得る。従来の当たり前が通用しなくなる」と見据える。
 変化するニーズに応えるとともに大切にするのが「不変の美しさ」だ。これは「余分なものを付け加えないこと。足し算ではなく引き算をしていくこと」で、この考え方は「建築の動線」にも当てはまる。建築が巨大・複合化する中で、「いかに簡潔に、複雑さを減らせるか」にこだわっている。
【業績メモ】
 前々期(2024年9月期)に過去最高の契約高を達成して以来、前期(25年9月期)を含め、「異次元の業績」を記録している。前期の設計収入は過去最高で、契約高と収入の両方で60億円超えを達成した。今期(26年9月期)も「非常に良い滑り出しを切った」が、工事費高騰を背景に、「今まで以上に丁寧に工期を管理していく必要がある」