目的は施工力向上/専門工事業同士 異例の合併/北九州市の型枠2社 | 建設通信新聞Digital

5月10日 金曜日

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目的は施工力向上/専門工事業同士 異例の合併/北九州市の型枠2社

宮城会長(右)と加納社長
 イワイ工業、加納工務店という北九州市に拠点を置く型枠工事業の2社が2023年8月に合併した。人手不足による建設業の倒産が増える中、人員確保による施工力の強化が狙いだ。合併して半年がたつが、「1+1=2」以上の効果を発現している。異例の専門工事業同士の企業合併は、果たして人手不足の解決につながる好事例となるのか。 イワイ工業は1971年に創業。ピークのバブル期は、職人140-150人を抱え、20億円程度の売り上げだったが、合併直前は職人56人、売り上げは6億円弱にまで落ち込んだ。1969年創業の加納工務店も、ピーク時の職人50人、売り上げ8億円から、25人、3億円程度と減少している。
 企業合併に向けて、2019年にイワイ工業の宮城泰治社長(当時、現会長)が加納工務店の前社長に直談判し、協議がスタート。イワイ工業は後継者問題を抱え、20年に社長に就いた加納工務店の加納康志社長(当時、現イワイ工業社長)も、人手不足で先行きに不安を抱いていた。
 作業は時間をかけて丁寧に進め、21年には社内や同業者、元請け企業に発表した。従業員には目的がリストラではないこと、元請け企業など取引先には、業務内容や経営方針に変更がないこと、安心して任せられる施工力の要望に応えたいことを強調した。
 合併後の今期の売り上げは10億円を超す見込みで、合併前の2社の合計を上回る。職人は80人となり、北九州市八幡西区までだった仕事場が福岡県宗像市や古賀市までといったように範囲を広げ、また、2社の顧客以外からの受注もあり、着実に仕事量を増やしている。今後、ウェブサイトを使った建設業や会社のPR活動など新たな事業を考える余裕もできた。
 宮城会長は「事業を継続することで雇用や建設業界を守り社会的責任を果たす。自分たちにできること、それが企業合併だった」と語る。加納社長は合併を進めるに当たり、「従業員や職人のモチベーションをそがないことに細心の注意を払った」とし、引き続き安心して働ける環境を整える。
 帝国データバンクによると、23年の建設産業の倒産件数は1671件で、前年比38.8%増と急増した。背景の一つに人手不足があり、受注は確保できているにもかかわらず、支払い先行で手元現金がショートする黒字倒産も見られるという。
 専門工事会社の零細化が全国的に進む中、人手不足が倒産の追い打ちとなっている。「会社は創業者や経営者の所有物ではない」「29もの許可業種の重層請負になる建設業の構造的見直しが必要ではないか」と宮城会長。事業継続の道を模索した2社の選択は、今後の専門工事業者の企業経営の在り方や建設業の構造改革に一石を投じる試みといえる。