ゼネコンが鉄骨積算や建て方計画に詳細化した鉄骨構造モデルデータを利活用する流れが広がりつつある。鉄骨専用CAD『FAST ZERO』を展開するファーストクルーが、BIMソフト『Revit』との相互データ連携を実現するアドインツール『FAST ZERO for Revit』をリリースしたのは7年前。井戸義彦取締役開発部長は「その使われ方はわれわれの想定を超えるものに進化している」と明かす。
FAST ZERO for Revitは鉄骨ファブリケーターとの連携ツールとしてゼネコン向けに販売を始めた。同社はBIM導入に舵を切ったゼネコン各社がRevitの構造モデルをFASTで詳細モデル化し、それをファブリケーターに提供する流れをイメージしていたが、当時はまだファブ側が3次元鉄骨構造モデルを積極的に活用したいというニーズがなかった。
高橋伸明マーケティング部マネージャーは「ゼネコン各社にヒアリングする中で、実際には詳細化した構造モデルを別の業務に有効活用する動きが広がっていた」と強調する。Revitによる鉄骨構造モデルの作成では仕口や二次部材など詳細な部分のモデル化が難しく、FAST ZERO for Revitの活用によって詳細な部分までモデル化が可能になり、それが他業務への最適化を後押しする流れをつくろうとしている。
井戸氏は「大きくは鉄骨積算の数量把握と鉄骨建て方シミュレーションの流れがある」と説明する。積算では「コスト削減」、建て方シミュレーションでは「生産性向上」の最適ツールとしてFAST ZERO for Revitが活用され、ゼネコンの中には具体的な効果を上げている事例も出てきた。
積算への活用は、倉庫や工場など大型S造建築プロジェクトが増加する中で、ゼネコンが自社で厳密な鉄骨数量を把握して発注したいとのニーズに合致した。高橋氏は「これによって従来比で4%のコストダウンを実現したゼネコンもある」と明かす。
鉄骨建て方シミュレーションへの活用では、クレーン施工計画策定支援のRevitアドインソフト『K-D2 PLANNER』を提供するコベルコ建機との連携効果が後押しした。FAST ZERO for Revitで詳細構造モデルを作成できるため、そのデータで「製品単位の鉄骨重量が把握でき、適切なクレーン選定や現場での運用計画立案が可能になる」とつけ加える。
現在はクレーンシミュレーションの活用事例が中心だが、仮設を含む建て方計画の部分にも活用を検討するニーズもあることから、井戸氏は「施工計画への活用を踏まえながら、新たな機能の開発も準備している」と強調する。ゼネコンの中には鉄骨発注のために詳細化した構造モデルを、施工計画にも段階的に使おうと検討を始めた動きも出てきた。高橋氏は「ユーザーの生の声を常に把握しながら、詳細構造モデル化というFAST ZERO for Revitの強みをさらに打ち出していきたい」と語る。
ユーザーの9割はFAST ZEROを使う鉄骨ファブリケーターが占めている。FAST ZERO for Revitはゼネコンを中心に全体の1割ほどにとどまっているが、近年はBIM導入拡大を推し進めるゼネコンへの営業強化の一環からファブリケーターや図面作成会社などが購入するケースも見られるようになった。
主力のFAST ZEROは定期的にバージョンアップを進めている。最新3.0版ではRC柱梁との取り合いを強化したほか、梁5本以上の取り合い仕口対応も強化した。井戸氏は「最新版では需要が高まる物流倉庫への対応などファブリケーターのニーズを反映しながら、大きく5つの機能強化を実装した」と説明する。
ゼネコンのBIM導入が拡大する中で、同社はFAST ZERO for Revitの強みである鉄骨詳細モデルの活用方法をいかに提案できるか。高橋氏は「コストダウンに加え、生産性や品質の向上などゼネコン側のニーズや活用事例を常に把握し、新たなソリューション展開に結びつく仕掛けをユーザーに広く提示していきたい」と力を込める。