応用技術 地域建設業への道しるべ提供/美保テクノスの成功例が基盤
応用技術が、「誰もがBIMへつながる世界へ」をコンセプトに提供しているクラウドサービス『ConnecT.one(コネクトワン)』シリーズの新たなラインアップとしてBIM導入支援パッケージ『Insight』の提供を始める。社を挙げてBIMに取り組み、ISO19650も認証取得した美保テクノス(鳥取県米子市)と連携し、2年もの歳月をかけて開発した。船橋俊郎社長は「地域建設会社にとってのBIM導入の道しるべになれば」と強調する。
ConnecT.oneシリーズは、オートデスクのプラットフォーム上で情報共有できるNon-BIMユーザー対応のクラウドサービスとして、5年前から提供を始めた。初弾の3次元モデル簡易作成ツール『Sketch』を皮切りに、2022年11月に数量算出ツール『QS』を投入するなど、着実にラインアップを拡充してきた。
小西貴裕常務DX事業統括責任者は「クラウド上でBIMのデータを利活用する時代が到来している。その流れを後押しする支援ツールを今後も充実していく。誰もがBIMにつながる環境を整えるためにも、特にNon-BIMユーザー向けサービスの拡充をツール開発の重点テーマに位置付けている」と説明する。
QSは、BIMソフトのRevitデータから仮設部材や躯体体積などの数量把握を支援するツールとして、オートデスクの建設クラウドプラットフォーム『Autodesk Construction Cloud(ACC)』環境でデータの利活用を実現しており、仮設足場メーカーや建設会社を中心に導入が進む。今井智パートナーセールスリーダーは「Revitによる数量拾いをより効率的に支援できるため、QSは仮設足場の計画立案ツールとしても定着し始めている」と強調する。
同社は、建設会社や設計事務所への導入が進むRevit支援パッケージ 『BooT.one』に仮設足場関連の機能を拡充しており、QSとのデータ連携によって施工計画を立案しながらコストを導く流れも確立している。小西氏は「Revitをより使いやすくするBooT.oneと、クラウド上でプロジェクト関係者の誰もが情報共有できるConnecT.oneの連携強化をこれからも重要視する」と強調する。
ConnecT.oneの新たなラインアップとして提供を始めるInsightは、美保テクノスのBIMワークフローを題材に開発した導入支援のマネジメントツールだ。Revitを軸に設計から施工まで一貫してBIMに取り組む美保テクノスが実践する業務の流れを見える化し、その流れに沿って業務を進めることでISO19650を踏まえたBIMを実現できる。船橋氏は「美保テクノスの成功例をベースに、両社が知恵を出し合った」と付け加える。
販売ターゲットに置くのは、社を挙げてBIMに取り組む建設会社だけではない。これからBIMを導入しようと検討する建設会社こそ有効なツールになる。小西氏は「最初から全てをBIMでやる必要はなく、まずは自分たちで必要なポイントを整理し、そこを出発点にBIM化を進めていく。業務の流れを見える化することから始まる」と説明する。
同社は単なるツール販売にとどまらず、導入支援のコンサルティングも含めた対応を準備している。今井氏は「業務の流れに落とし込むことが必要になり、そのためのサポート体制も整えている」と強調する。導入支援は美保テクノスグループ会社のスペックとも連携しながら、全国各地の建設会社に向けてInsightを積極的に提供していく方針だ。
船橋氏は「BIMワークフローの確立がフロントローディング(業務の前倒し)効果を導く第一歩になる。それを支援する見える化ツールがInsightであり、Revitを円滑化に使いこなすBooT.oneと連携することで相乗効果を発揮する」と強調する。
応用技術は、BIM導入拡大の流れを見据え、 設計・施工段階にとどまらず、維持管理段階のデータ活用支援にも積極的に取り組む。 パートナー関係にあるオートデスクがACCを軸に建設ライフサイクルを通じたプラットフォーム戦略を明確に打ち出す中で 「ACCの下支え役として力を注ぐ」(小西氏)方針だ。
美保テクノス 導いた根拠を支援パッケージに/着工前までのプロセス見える化
地域建設業のBIMトップランナーである美保テクノス(鳥取県米子市)が、2023年2月に認証取得した国際規格ISO19650に基づき構築したBIMワークフローの成果を、BIM導入支援パッケージとして商品化する。施工に使える正しいBIMデータを設計段階できちんと作成することが成功の鍵を握ることから、自社の運用ツールとしても活用を始めた。野津健市社長は「苦労しながら行き着いたBIMのプロセスを見える化した。BIM導入に悩む同業の建設会社の役に立ててほしい」と語る。
BIM導入支援パッケージ『Insight』は、BIMデータ作成の進捗状況をクラウド環境でプロジェクト関係者がリアルタイムに共有するツールとなる。同社が実運用するBIMプロセスのノウハウを全て詰め込んだ。豊富なBIMコンサルティング実績をもつ応用技術(大阪市)が提供するクラウドサービス『ConnecT.one(コネクトワン)』の新たなラインアップとして、6月から美保テクノスでの実証試験を開始し、24年度内の販売開始を目指している。
設計・施工プロジェクトの全案件でBIMを導入する同社だが、当初は設計部門が作成したBIMデータの精度にばらつきがあり、施工部門が使いにくい状況があった。ISO19650で着工前までのプロセスを見える化し、設計部門の仕事の流れを明確に位置付けた。新田唯史執行役員BIM戦略部長は「試行錯誤しながら現在のBIMプロセスにたどり着いた。これはISO19650に基づき導き出した当社としての揺るぎない根拠であり、それをベースにInsightを構築している」と強調する。
同社では、着工前までに設計担当が決められたプロセスに沿って正しいBIMデータを構築する際、進捗(しんちょく)状況を管理するタイムキーパー役の担当者を「プロセスコントローラー」として位置付けている。25項目のチェックポイントを設け、それらの締め切りを守り、必要な対応が適切に行われているかを把握する情報共有ツールとしてInsightをフル活用している。社内では同時に複数のBIMプロジェクトが進行しており、管理者はその状況を一目で把握できるInsightのダッシュボード上で全体をマネジメントする。
山内英樹常務建築本部長は「運用して1年が経過し、正しいプロセスに沿って業務を進めることができるようになり、図面の精度も着実に向上している」と手応えをつかんでいる。次のステップとしては「設計担当のスキルに関係なく、施工部門が満足する成果を出せる枠組みを確立する」と明かす。これまで設計段階でばらつきのあるBIMデータを微調整して施工部門に渡していたBIM戦略部についても、LOD(モデル詳細度)を調整する役割へと進化させ、プロジェクトを通してBIM活用を支援する存在に発展させる方針だ。
野津社長は「施工現場の仕事が楽にならなければ、BIMを導入する意味がない」と考えている。設計から施工までBIMを全面導入した23年8月完成の同社新社屋を通して「現場担当が本業に集中できるように、着工前までに施工で使える正しいBIMの成果を示すことが最も大切」という結論に至った。BIMのプロセスを見える化するInsightは、同社にとって欠かせない業務ツールとなる。
同社は、全面導入するBIMソフト『Revit』を円滑に活用するため、応用技術のRevitアドインツール『BooT.one』を使い、組織としてのBIM導入レベルを引き上げてきた。新田氏は「正しいBIMプロセスに沿ってモデルを構築することが、BIM定着の重要なポイントとなる。何よりもプロセスの見える化によって仕事の進め方が明確にでき、若手の担当者もより早く戦力化できるメリットも生まれる」と強調する。
BIM導入の流れは、地域で活動する設計事務所や建設会社にも広がりつつある。一方でBIMソフトを導入したものの、思うように成果が出せない企業は少なくない。特に地域建設会社では予算も要員も限られる。野津社長は「当社のような完成工事高100~300億円くらいの規模の建設会社にInsightを活用してもらいたい」と考えている。