【多様に広がる建設ICT活用⑧】応用技術 顧客基点の着実な成長/デジタルで誰もがつながる世界へ | 建設通信新聞Digital

5月1日 木曜日

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【多様に広がる建設ICT活用⑧】応用技術 顧客基点の着実な成長/デジタルで誰もがつながる世界へ

 応用技術(大阪市)が創立40年の節目を迎えた。環境シミュレーションと解析技術を出発点に事業領域を広げながら、着実な進化を遂げてきた。さらなる成長に向けて船橋俊郎社長は、経営理念に通じる「顧客基点」の重要性を改めて位置付ける。新たな柱として近年の業績拡大を牽引していきたDX事業を軸に、同社はどのような成長の道筋を描くか。建築、土木、まちづくり、製造の事業分野で誰もがつながる世界の実現を目指す「to BIM」「to CIM」「to ENG」「to DIM」の最前線を追った。

設計から施工、そして運用へ

■BPO体制が強みに

 『to BIM』はBIMの「つくる」「つなぐ」「使う」を多角的に支援する。2019年7月に提供を始めたRevit導入支援アドイン『BooT.one』は数百社の企業が活用する主軸ツールだ。DX事業統括責任者の小西貴裕代表取締役専務は「機能拡充に合わせ、顧客サービスも進化を続けている」と説明する。

 ユーザー層は多様化し、ゼネコンや設計事務所に加え、専門工事会社や地域建設会社などにも活用が広がる。中小規模の企業もBIMを導入し始め、Revitをより効果的に使いたいとBooT.oneの活用に踏み切る流れが鮮明になっている。呼応するようにサポートデスク体制も充実してきた。DX事業統括カスタマーサクセスグループの菅井雄史マネージャーは「1日5件ほどの相談が舞い込む。BIM活用に合わせて社内標準化に踏み込む企業もあり、問い合わせの中身もより高度化している」と明かす。Revitを全面導入する企業に専用サポートチームを置く試みもスタートした。

 BIMの裾野が広がり、導入目的も多様化する中で、DX事業統括コンサルティングサービスグループの崔烈浩BIMコンサルタントは「先に答えを提示するのではなく、企業側の課題や目的を聞き、それに見合った顧客基点の面線で最適解を示している」と強調する。トランスコスモスと連携したBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)サービス体制もコンサルティングの強みになっている。現在は20人体制を確保し、トレーニングやファミリ作成なども幅広く支援する。

 BIMの国際規格ISO19650を認証取得する企業の増加を背景に、ISO取得に向けた研修事業も動き出した。トランスコスモスが21年11月に認証取得したことを足がかりに企業からの研修依頼が拡大し、英国国家規格協会日本拠点のBSIジャパンと連携した集合研修もスタートした。DX事業統括コンサルティングサービスの関美恵氏は「企業は取得を準備する中でBIMのワークフローを確認する流れになり、結果としてCDE構築につながっている」と話す。それをきっかけに企業とBIMプラットフォームの構築に向けたコンサルティングに発展するケースも増えている。

 クラウドサービス『ConnecT.one』もBIM普及を下支えるソリューションの1つだ。NonBIMユーザーにも対応するサービスとして好調な「ConnecT.one QS」は仮設部材、躯体体積の拾いや、データ出力をサポートし、仮設足場の主要メーカー各社が採用に踏み切る。美保テクノスと共同開発しているBIMプロセスの見える化ツール「(仮称)Insight」も新たなラインアップの1つだ。小西氏は「地域建設会社に向けてBIM導入のハードルを下げる有効なツールになる」と期待する。

 田尻浩人ソリューション第二本部副本部長は「ConnecT.oneは既存システムと連携してより円滑にBIMのデータ活用を支援するだけに、企業と深く連携しながらより使いやすいシステムとして構築する流れになる」と説明する。BIM対応が難しい協力会社だけでなく、近年は施主が工場の設備を管理するマネジメントツールとして活用するケースもある。

 to BIMの業績はライセンス系サポート事業が全体の2割、残り8割をシステム開発・運用が占める。小西氏は「バランス良く伸びている。今後は運用サポート需要がさらに高まる。to BIMがまわり始め、維持管理段階をサポートするto DIMとも密接に連携する流れが出てくる」と先を見据えている。

BIM研修

■共創サイクル実現

 製造業向けに特化したワンストップサービス『to DIM』は3年前から取り組み始めた。これはto BIM、to CIMに続く3つ目の柱となる。建設段階で構築したBIMデータを建物完成後の維持管理段階に有効活用する流れを強く意識している。DX事業統括責任者の小西貴裕代表取締役専務は「建設DXと製造DXをつなぐ『共創』サイクルの実現を目指す」と力を込める。

 製造工場がライン増設に伴う改修を進める際、建物や設備のBIMデータがあることで計画立案が円滑化し、日頃の建物運営面でもBIMデータを有効活用することで的確な建物管理も可能だ。部品製造系のメーカーに見積もりシステムをパッケージ提供するなど「既に強い結びつきがあることもto DIMを推し進める原動力になっている」と続ける。

 現在は部品のBIMデータ化を支援する業務も進めているほか、BIMを活用した様々な空間シミュレーションサービスも提供している。建設段階のBIMデータを工場の製造工程につなぐ提案にも力を注ぐ。「そうしたコンサルティング事業だけでなく、トランスコスモスとの連携によって、システム導入支援やトレーニングなどの事業は今後さらに伸びていく」と強調する。

3次元ウェブGISプラットフォーム「まちスペース」

地域のニーズに新たな切り口

■SaaS型解析を展開

 応用技術の原点でもある環境シミュレーションと解析技術を基盤にして、インフラ整備やまちづくり分野などで活動するエンジニアリング本部の山崎徹執行役員本部長は「近年、特に解析需要のニーズが広がっている」と説明する。自然災害の頻発化や環境問題などを背景に、河川氾濫時の避難やダムの水質改善、さらには交通のシミュレーションなど多様な依頼がある。

 例えばスマートフォンの移動履歴情報から人の流れを分析し、それを公園の計画立案などに利用するケースもある。「まちづくりに関連した解析のニーズは多様化し、自治体や地域ごとに課題も異なる。これまで蓄積した知見を生かして新たな切り口を見つけながら対応している」と強調する。

 その1つが「to ENG」を旗印に展開するSaaS型の解析技術サービスだ。今月にリリースした3次元ウェブGISプラットフォーム『まちスペース』は、PLATEAUで公開されている3次元都市モデルを使って簡易なシミュレーションができる。エンジニアリング本部国土創生情報部の廣澤邦彦環境コンサルティングユニットtoENGビジネス推進担当は「利用者が範囲を自由に設定して解析できる。現在のメニューは日影解析だけだが、いずれは風や騒音などのメニューも拡充する」と力を込める。

 解析時間は2、3分と短く、しかも解析結果も関係者間で共有できる。建築物の計画立案データとして活用できるだけでなく、取り込んだ都市モデルを統合して解析することもでき、まちづくり視点からも利用できる。「官民需要だけでなく、一般の人の利用にもニーズがある」と期待している。

■原則化の裾野支える

 エンジニアリング本部が担う事業は多岐にわたる。山崎徹執行役員本部長は「国土交通省でBIM/CIMが打ち出されたタイミングを見据え、本部内に建設情報ユニットを設置し、BIM/CIMへの対応を強化してきた」と説明する。「to CIM」の前身となるインフラBIMへの対応は2012年にさかのぼる。当時は3人体制だったが、現在15人体制にまで拡充している。

 当初はBIM/CIMツールの導入やモデル作成の支援が中心だったが、現在は企業と連携してシステム開発にも積極的に取り組む。山根隆弘営業統括マネージャーは「24年4月から国土交通省のBIM/CIM原則適用が動き出したことで、開発メンバーを増員して、ゼネコンや建設コンサルタントの業務効率化を下支えするツール開発も含め幅広く活動している」と強調する。

 上村元太営業部主任は「残業規制の動きを背景に働き方改革を推し進める流れも広がり、BIM/CIMデータを活用して業務の自動化につなげたいというニーズも拡大している」と強調する。多様化するBIM/CIMの要求に対して「土木のことを知っている開発エンジニアがいることも当社の強み」という。そうした人材3人を含む計8人がシステム開発を下支えしている。

 発注者側でBIM/CIM導入を支援する流れも定着している。国交省のBIM/CIM原則適用がきっかけになり、道路や鉄道などの民間事業者もBIM/CIMデータ活用に舵を切っており、同社では事業者のコンサル役としても蓄積したノウハウを提供している。

 国土創生情報部建設情報ユニットの竹重和馬CXテクニカルマネージャーは「いずれ原則適用の枠組みが高度化する流れが色濃くなれば、基準やルールも変わり、当社としての役割も進化する」と考えている。同社はto CIM事業を通じて100社を超える企業と結びつきがある。山根氏は「システム販売の部分も含めれば300社に達する。それだけBIM/CIMの裾野が広がっている裏返し。これからもBIM/CIM普及を先導してきたい」と力を込める。

BIM/CIMモデル(監査廊)

顧客に寄り添う姿勢変わらず/社長 船橋俊郎氏

 船橋俊郎社長は「これからも『触媒』のような会社であり続ける」と力を込める。化学反応時に物質自らは変化せず、他の物質の反応速度に影響する働き方をする「触媒」の性質を自社に当てはめ、「当社が『触媒』になり、ある状態(課題)から、さらに高度な状態(価値)へと、企業を飛躍させる」ことを強く訴える。創立40年を通過点に同社はいかなる進化の道筋をたどるか。経営の舵取りを聞いた。

  ――着実な成長を遂げてきた

 「当社は環境シミュレーションと解析技術からスタートした。国産CADの開発にも挑戦してきた。オートデスクの汎用CAD『AutoCAD』はAPI(アプリケーション・インターフェイス)を強化し、ITベンダーとの共創によって存在感を強める発想を持っていた。当社は自ら徹底的にカスタマイズしていく戦略を置き、企業とともにシステム開発を進めることを軸に活動してきた」

 「その考え方が企業の研究部門から評価され、数多くのシステム開発を受託してきた。バブル崩壊による開発費削減の厳しい時代もあったが、あくまでも要素技術の追求にこだわり続けた。当時から重要視していたのは顧客に寄り添う姿勢であり、この考え方はいまも当社の根幹に息づいている」

 「成果の1つとして住宅キッチンプランニングCADがある。主要ハウスメーカー各社が導入し、シェアは9割を超えるまでに成長した。このように独自技術に挑戦する姿勢を常に貫いてきた。このほかにもプレハブ構造検討やロードサイド店舗向けのCADに加え、土木系設計ツールなども手がけた。顧客基点で事業を進めていく考え方は創業者の思いが根っこにある。これからも課題を価値に変える“触媒”のような会社であり続ける」

  ――近年の事業は

 「この10年間はBIMを中心にしたDX関連の事業が業績の牽引役になっている。ゼネコン各社がBIM導入に舵を切り、その流れを支える役割として活動し、多くのかかわり方をしている。並行して住宅設備や建材系メーカーを中心にDX関連のシステム開発についても引き合いが増えている」

 「現在は、製造業へのモノづくりソリューション提供、CADベースの自動設計システム開発、建築・土木分野向け構造解析・積算システム開発、防災・環境シミュレーション、まちづくり計画・アセット維持管理支援サービス、BIM/CIMコンサルティングサービスという大きく6つの事業領域で活動している。それぞれの領域に植えた草木が育ち、ようやく森になり始めている」

  ――2024年12期から5カ年の中期経営計画がスタートした

 「当社の将来に向けてとても重要な転換点が到来している。まさに次のステージに向けてステップアップしていく5年間になる。企業は人材確保がより難しくなり、デジタル技術を使って業務の大幅な改善を図ろうと動き出している。DXの時代が鮮明になる中で、当社はこれまでのように顧客のリクエストにインテグレーションし、DX戦略を伴奏する役割として活動していく」

 「これからは事業のあり方を大きく進化させていく。特に人数に左右されない事業手法をより重要視する。5カ年計画初年度の今期は前期比5.1%増の売上高78億円を見込む。計画最終年度の28年12月期には売上高100億円の大台を目指している。その半分をBooT.oneのようなサブスプリクション事業で占めていきたいと考えており、当社が掲げる『to BIM』『to CIM』『to DIM』『to ENG』の各事業領域で新たなサブスプリクションの種を植え、育てていく」

 「そのためにも当社の生命線である技術力を社員ひとり1人がどれだけ引き上げることができるか。仕事へのかかわり方や考え方も変える必要がある。重要なのは顧客目線を持ち続けることである。技術屋だった私自身も、バブル崩壊後の苦しい時代に営業部門に異動になり、顧客と直接向き合う中で、顧客基点の部分に解題解決のもっとも重要なヒントがあることを知り、顧客に寄り添うことの大切さを実感した。まさに技術力とは人材力であり、顧客目線で考える力が当社の生命線に他ならない」

共創パートナーと密接な連携/専務 小西貴裕氏

 応用技術の成長を牽引しているDX事業の統括責任者を務める小西貴裕代表取締役専務は「共創パートナーとの連携」を強く意識している。進展し始めた建設DXと製造DXの流れを融合する取り組みも本格的にスタートする。「建設DXと製造DXをつなげる『共創』を橋渡しする役割として存在感を示していきたい」。これまでの歩みとこれからの歩みについて聞いた。

  ――成長期の歩みは

 「2017年12月期からスタートした5カ年経営計画『OGI Vision 2020』を期に、成長の階段を上り始めた。事業のあり方が大きく変化した時代でもあった。企業のシステム開発とエンジニアリングサービスを軸に活動してきたこともあり、これまでは自分たちの技術をアピールする商材はなかった。トランスコスモスと連携した人と技術の融合によるワンストップサービス『to BIM』『to CIM』『to DIM』も本格的に動き出し、まちづくり分野への『to ENG』も新たな切り口の展開を始める」

 「この5年間を振り返れば、提供したシステムを使って企業の業務を支援する事業の流れが色濃くなり、売上げの拡大とともに、株価も上昇した。まさに事業の成長期を迎え、特にBIM事業が大きく進展した。21年12月期からの3カ年経営計画『OGI Challenge2023』に入ってからは、事業基盤をより強固にするため、ブランド力や知名度のアップも図ってきた」

 「to BIMを筆頭にto CIMやto DIMの事業も拡充し、加えて住設、エクステリア関連事業も拡大基調となり、存在感を見せ始めたまちづくり分野のto ENGも含め、着実に業績を積み上げてきた。計画最終の23年12月期には売上高74億円、営業利益9億7000万円を確保し、24年12月期からスタートした現行5カ年経営計画『OGI GrowUP2028』への弾みをつけた」

  ――これからの歩みは

 「現行5カ年経営計画では計画最終の28年12月期に売上高100億円、営業利益15億円を目標に設定している。建設業の人手不足はより深刻化するほか、旺盛なデジタル投資もいつまでも続くとは限らない。われわれ自身の事業のあり方も変化しなければ、この目標を達成できない」

 「これまでは設計、施工の段階に注力したシステム開発や業務ツールを提供してきたが、これからは維持管理の段階にも目を向けていく。例えば製造工場では建設段階のBIMデータを、運用後にも有効活用することで、製造ラインの計画立案も詳細にシミュレーションでき、出荷量などに合わせた詳細なライン検討も可能になる。顧客の成功(事業)を支援するために建設DXと製造DXをつなげる『共創』を橋渡しする役割として存在感を示していきたい」

 「製造業から、製造設備を的確に管理するために施設内のBIMモデル化を依頼されるケースも出ている。新設の工場を建設する際、完成後にどう管理運営すべきかを事前シミュレーションするための相談もある。BIMを使って設備を可視化する切り口が顧客のニーズとして広がっている。今後重要視する『共創』の実現は、当社単独では成立しない。様々なパートナーと連携し、エコシステムとして確立していきたい」

  ――BIM事業の方向性は

 「大手・準大手クラスのゼネコンや設計事務所のBIM導入は着実に進展しているが、中小規模の企業はまだ広がっていない。この領域のBIM普及を下支えしていきたい。設計から施工まで一貫してデータをつなげることでBIMの効果は最大限に発揮できる。そのためには正しいBIMのプロセスを構築することが重要になる。当社としてCDE(共通データ環境)のサービスメニューを確立することも新たな事業の柱になっていくだろう」

 「既に美保テクノス(鳥取県米子市)と地域建設業向けのBIM導入支援ツールを共同開発しているように、共創パートナーとして一緒に成果を出していく流れは今後さらに増えていくだろう。共創パートナーとは、導き出した成果を同業他社にも公開し、業界全体でBIMを有効に使っていく。こうした非競争領域の取り組みを通して、BIM普及を後押ししていきたい」



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