新年度が始まり、期待のルーキーが建設産業界にも数多く入ってきた。現状、就活市場は“超”がつくほどの売り手市場。圧倒的に選択肢が多い中、それでも建設業界を選んだのはなぜか、この仕事でかなえたい夢は何なのか。4月1日に開かれた全国各地の入社式や入省式で、プロフェッショナルへの道を歩み始めた、その第一歩を総力取材した。
「道路は新しいけれど、あまり人がいない」。日本工営に入社した平賀千巴夜さんが、高校生の頃に訪れた福島県浪江町で目にした風景。それが、防災やまちづくりへの関心を深めるきっかけだった。大学時代に起きた能登半島地震では、平時のインフラ整備の大切さも感じたという。大学では地理学を学び、まちと人との関係を考えてきた。入社後は人工衛星データを扱う部署に。「情報をいろいろな分野で生かせる視野の広い技術者になりたい」。思いをまっすぐに語った。
ユアテックに入社した宮原楓佳さんは、子どもの頃から建築士に憧れ、大学では意匠設計を専攻したが「効率性や経済性が求められる建築設備の面白さに魅せられた」と建築設備業界を志望。「生まれ育った東北地方に恩返しがしたい」と、東北地方最大級の総合設備工事会社である同社への入社を志望した。エンジニアリング本部空調管設備部の一員として「一つずつ勉強しながら、先輩たちのような責任ある施工管理に取り組みたい」と志を高く挑戦していく。
◇父の姿に憧れて
親の背中を見て、建設業界を志した人たちも。
「体を動かし、自分の手で建物をつくりたかった」と話すのは角碧海さん。「幼少から見てきた」とび職人の父を追い、向井建設に入社した。志望を決定付けたのは昨夏の現場見学会。同社が携わる『Torch Tower(トーチタワー)』で高さ日本一を目指す現場に触れ、気持ちが固まった。既に目標も明確で「まずはやり方を覚える。どうすれば安全に早く、美しくできるか考え、どこでも一番活躍できるとび職人になる」。静かな語り口に決意がみなぎる。
地元の福岡県に本社がある縁に入社した江嵜隼人さんは、建築現場で働く父の姿を見て育ち、建設業界に自然と興味を抱いた。中でも、専門学校の建築工学科で培った得意分野の計算を生かせる建築積算の仕事を志した。将来に残る大きなものづくりに携わるのが夢で、「周りを引っ張りながらみんなで成長する」ことを意識する。「休みの日によく遊んでくれた父のように、プライベートとの両立を図りたい」と笑顔で語った。
大林組に建築職で入社した田辺創太さんは設計事務所を営む親の姿を見て建設業を目指した。建物のデザイン性にほれ込んで大林組の門をたたいたが、つながりはそれ以外にも。「大学2年生から始めた株式投資で選んだ銘柄が偶然、大林組だった」と意外な縁を話してくれた。売却後に株価が大きく上昇したのは少しもどかしい思いだったと苦笑する。将来は「人から頼られ、困ったことがあったら尋ねてもらえる人になりたい」と期待に胸を膨らませる。
◇学生の経験強みに
経験や強みを建設業に生かしたい--。
大学時代はダンスに情熱を注いできた勝間田菜那さん。チームとしてさまざまな壁を乗り越えてきた経験が大きな財産となっている。「持続可能な社会を創るため社会に少しでも貢献したい」との思いでカナモトに入社した。「自分の思いをかなえることができる会社だと感じた。これまで経験したことのない業界だが英語を強みにグローバル展開している同社で活躍したい」と意気込み、「自分の行動が少しでも社会に貢献できるような人間になりたい」と夢を語る。
「大学でランドスケープを学ぶ中で、自然と向き合いながら生活風景の基盤を作る土木技術の大切さを実感し、土木技術者を志した」という瀬下直矢さん。陸上土木だけでなく、海洋土木にも強みを持ち、「社会インフラ全体に幅広く貢献していること」が本間組を選んだ理由だ。「さまざまな経験を積むことができる環境で多くの技術を学び、人々が安全で豊かな生活風景を支える技術者を目指す」と夢をかなえるために研さんを続ける。
3歳からラグビーを続けてきた経験から、就活中に「施工管理に向いている」と言われることが多かったという磯野武大さん。道路舗装業界に対しては「生活に不可欠な道路を支え、貢献できる点にやりがいがある」ことに面白みを見いだし、世紀東急工業の門を叩いた。「安全な道を全国につくる技術者、組織づくりを目指す」と意気込む。「まずは現場のプロになる。将来的には素敵な現場をつくれる人を増やすなど、マネジメント職も目指す」と志も高い。
きんでんの森田大地さんは「設計から施工、その後の保守まで一貫して手掛けている高い技術力と、関西を基盤に全国、海外のプロジェクトをも手掛ける仕事の幅広さ」にひかれ、同社を選んだ。セールスポイントは行動力。幼い頃からスノーボードにのめり込み、大学時代に仲間とサークルを立ち上げたことも。「元気が取り柄。新人研修もきっと乗り切れる」と笑顔を見せ、「いずれはまちの象徴となるようなプロジェクトに携わりたい」と先を見据える。
◇災害から人々守る
日本のインフラを支えたい、強い意志を持つ若者も目立つ。
国土交通省技官として第一歩を踏み出した上町剛志さん。能登半島地震などで「インフラが急激に機能を失うと生活が脅かされる」事態を目の当たりにした。「インフラの幅広い課題を解決し、自治体や企業、住民を支援する」ため入省を志望した。初任地は中国地方整備局広島国道事務所。現場での学びに意欲を見せ、「信頼される人」を目指す。「さまざまな方の思いを尊重できるよう誠実に取り組みたい」と決意を示す。
中部地方整備局に入局した青木陽夏さんは「地元である中部地方の社会基盤整備に計画から維持管理まで関わりたい」と思い、同局を志した。社会基盤整備には「中学校の通学路に近かった東海環状自動車道本巣ICの建設現場を見て興味を持った」という。南海トラフ地震対策の重要性や社会基盤の老朽化問題などを踏まえ、「防災に携わって、災害から人々を守る一員になることを目指す」と目標を力強く語った。
高速道路会社を志望していた今井亮介さんは「自動運転時代に向けた先進的な取り組みを進めており、自らもその一員として高速道路の進化に携わりたい」との思いで、NEXCO中日本に入社した。「学び、成長し続けることで、自動車交通の変化に柔軟に対応できるエンジニアになりたい。当面は高速道路の建設や管理に関する知識を身に付け、現場や関係者との調整を円滑に進められる力を養いたい」と今後の目標を語った。
宮澤隆之介さんは、トーエネックへの入社を志した理由について「大学の部活動を通じて高度な技術が電力インフラを守っていることを改めて認識したため、生まれ育った中部地域の電力インフラを支えている点に魅力を感じた」と述べた。「周囲から信頼され、責任感を持って仕事に取り組めるような人」を社会人の理想像に見据え、「主体的に行動し、基礎的な知識や技術を身に付けて一日でも早く戦力になりたい」と意気込む。
◇夢の実現へまい進
新入社員たちは既に夢の実現に向けて動き出している。
「設備から地球環境問題を解決したい」。高砂熱学工業に技術職で入社した大村柚月さんは、大学卒業後に構造設計の道に進む考えだったが、建築学科の授業で設備を学ぶうちにこうした思いを募らせ、「環境クリエイター」を掲げる同社を就職先に選んだ。目指すのは女性技術者のロールモデルだ。「建設業は女性が少なく、働きづらい印象があった。学生に女性も働けると思ってもらえるよう頑張りたい」と力を込める。
国交省関東地方整備局の近藤志帆さんは、学生時代の海外旅行や留学経験を通じて、日本のインフラの質の高さを実感したことから「世界に誇る日本のインフラを守りたい」と建設行政に飛び込んだ。業界を取り巻く人手不足を根本から改善するには「行政の役割が重要」と捉え、ゆくゆくは「外国人労働者の受け入れなどに携わってみたい」と話す。新生活のスタートに際して「志を持って周囲から信頼されるような社会人になりたい」と前を向く。
下方淳さんは障害のある自身の事情を就職活動で打ち明けた際、多くの企業が支援体制や配慮の話に終始したと振り返る。しかし、入社した大成建設のリクルーターは違った。「今があるのは、そうしたさまざまな環境があったからこそだね」と語り、これまでの歩みそのものを肯定してくれたという。この一言が決め手となった。「技術の最前線で働きたい」と話す下方さん。その言葉には、技術者として自律し、自立していく強い意志がにじむ。
