【発想を豊かに選択肢拡大】"角煮まんじゅう"企業をM&A 地域建設会社が異業種参入する理由 | 建設通信新聞Digital

5月9日 木曜日

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【発想を豊かに選択肢拡大】”角煮まんじゅう”企業をM&A 地域建設会社が異業種参入する理由

 高知市朝倉地区に本社を構え、インフラ整備を通じて地域の安全・安心に貢献するミタニ建設工業。経営多角化を探る中で、M&A(企業の合併・買収)先として選んだのが、長崎市で角煮まんじゅうを製造・販売する「こじま」だった。社員約180人を率いる三谷剛平社長は、「1つのことにとらわれている時代ではない。できない理由や未来への不安にとらわれることは時間の無駄だと思う。“これもできる”“あれもできる”の成功例を積み重ね、社員の意識を変える」と成長を促す。地域建設会社の異業種参入に勝算はあるのか――。三谷社長にこじま子会社化の狙いを聞いた。

三谷 剛平社長


 4月21日、ミタニ建設工業は、こじまの全株式を取得して完全子会社化した。こじまが新しい風を社内に取り入れたいと第三者継承を検討している時、ミタニ建設工業が得意とするSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の発信力に魅力を感じ、『いまのわれわれに足りないのはこれだ』と、話を持ちかけてきたという。

 こじま(児島徳二郎社長)は、1995年に設立。従業員約60人で年商は5億円ほど。主力商品となる角煮まんじゅうの製造工場と販売店4店舗のほか、割烹料理店1店を手掛けている。

 この角煮まんじゅう、実は長崎名物のカステラを抜いて、いまや土産人気ランキング1位の座にある。自身もリピーターであり、継ぎ足し使っている秘伝のタレで煮込む豚の角煮を、国産小麦100%の生地で包むその味には太鼓判を押す。「商品のポテンシャルは高いが、認知度がその域まで達していない。そこに伸びしろを感じ、広い市場が見えた」と勝機を見いだした。さらに、「コロナ禍が終息すれば長崎には新幹線計画がある。関連して駅周辺再開発が進めば、観光需要も見込める」と踏み切ったという。

長崎市の店舗前で三谷社長(左)と児島社長。自社ホームページに呼び込むなど角煮まんじゅうの売り上げ強化に意気込む


 今回の経営多角化は、社員の意識改革を狙った思いがある。「10年後、20年後のミタニ建設工業を支えるのは、新卒で入ってきた若い力」と言い切る。土木工事を主力に、第61回BCS賞に輝いたオーテピア高知新図書館等複合施設を手掛けるなど、建築でも高い施工力を持つ同社。一方、担い手不足や売り手市場が進む中、「経営者として採用活動に最も時間を費やしている」と断言する。「成績が優秀だという理由だけで採用することはしない。価値観が合うかどうか」と独自の目線で選りすぐる。親ほど年の離れた職人と働く環境でコミュニケーションが取れ、「“この人(新入社員)と一緒に働きたい”と現場が思うかどうかだ」という。

 こうした採用と育成を両輪で回すには、会社も個人も「『あれはだめ、これはできない』の思考を『あれもできる、これもできる』に切り替える必要がある」と強調する。今回のこじま完全子会社化は、成功例をつくる1つのきっかけに過ぎない。「角煮まんじゅうにこだわっているわけではない」という言葉の意味はそこにある。「豊かな発想はアンテナを高く張り、結果として選択肢の幅が広がる」と信じる。

 選択肢の幅を広げる理由は、「受注産業からの脱却」だ。公共工事に大きなウエートを占める同社にあって、「今後、高知県の人口は想像以上のスピードで減少していき、それに引っ張られるように、事業量は間違いなく縮小していく。現状にしがみつき動けないのは、経営者の怠慢。受注依存型から抜け出すために、第2、第3の柱をつくっておきたい」との思いは強い。新型コロナウイルスの影響で観光産業や飲食産業が苦戦する中、「建設業は国土強靱化5か年加速化対策を追い風に(利益が出ている)いまが、外に打って出るチャンス」ととらえる。

 県内ではM&Aの動きが水面下で活発化している。「パイの総量が減る中、合併しなければ生き残れない状況になってくることは予想できるが、そうなってから手を打つのでは遅い」と攻めの一手を打った格好だ。

 「製造・販売できる事業がほしい」ことから実現した今回の事業譲受。「角煮まんじゅうのシェアトップ企業の年間売り上げが10億円。これを抜く」と自信をのぞかせる。4月には格安スマートフォンの販売を手掛けるエックスモバイルと代理店契約を結んだ。“これもできる”意識を芽吹かせて、四国建設業のリーダーとなれるか、その手腕に期待がかかる。



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