【特集ptc】ARがDXの効果高める | 建設通信新聞Digital

4月27日 土曜日

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【特集ptc】ARがDXの効果高める

 建設現場の飛躍的な生産性向上を目標に、多様なテクノロジーの導入が進む建設DXの中で、AR(拡張現実)が注目度を高めている。グローバルなARアプリ『Vuforia(ビューフォリア)』シリーズを提供するPTCジャパンは、5月にオンラインセミナー「デジタル構築で生まれる新たなビジネス価値~施工から竣工後まで利用できるARソリューション~」を開催し、データプラットフォームとなるアマゾン ウェブ サービス(AWS)、建設現場で誰もが簡単に活用できるアプリ『ConstAR(コンスター)』などを紹介した。アマゾン ウェブ サービス ジャパン、日本システムウエア、PTCジャパンの取り組みを紹介し、ARの最前線を展望する。

Amazon Web Servicesで始めるデータと建設のDX -デジタルツインとその活用-(アマゾン ウェブ サービス ジャパン 岩野洋平氏)

 

アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 エンタープライズ技術本部建設不動産シニアソリューションアーキテクト 岩野氏

 DX(デジタルトランスフォーメーション)が進む新たな建設生産システムのメーンコンテンツとしてデジタルツインが注目されています。AR、IoT、AI、ロボティクス、ICT施工など最先端のシステムと組み合わせた生産性向上が進められる中、 その裏側ではアマゾン ウェブ サービス(AWS)がさまざまなデータ活用を支えています。 建設バリューチェーンの中でデジタルツインがどのように活用され、ARと結びついているのか解説します。
 グローバルな建設市場は成長に向けて高いポテンシャルがある一方、CO2排出量の25-40%は建物から排出されており、日本のディベロッパーや設計事務所、ゼネコンも排出量削減に向けてサステナビリティーを重視しています。また、建設企業は深刻な労働者不足に直面しており、日本では2024年の時間外労働規制が控えます。サステナビリティーと労働者不足の問題にDXでいかに対応できるかが問われています。
 そうした中、建設バリューチェーンの分野では、従来の計画調査、設計、施工、維持メンテナンスに加え、海外では「カスタマーエクスペリエンス(CX)」の向上が重視されるようになりました。そのため、設計から維持メンテナンスの共通データ環境(CDE)と合わせてデータプラットフォーム上にデジタルツインを構築し、AIを活用した洞察をCXの向上につなげることが重要になります。その中でARは非常に高いポテンシャルを持ちます。
 AWSは、デジタルツインを4つのレベルに整理します。レベル1はBIMなどの3次元表現を活用してデザインを視覚的に表現します。レベル2はIoTで得られるデータやメンテナンスデータなどを統合して情報把握する段階。レベル3は蓄積した設備機器データなどを分析して将来を予測し、現場の意思決定に活用します。レベル4は、刻々と変化するデザインに対し、更新可能なモデルを用いて実効性ある洞察を進める“リビングデジタルツイン”の段階になります。これをAWS上で運用します。
 特徴は、さまざまなテクノロジーを組み合わせて構築するデジタルツインの技術的な構成要素を幅広くカバーしていることです。IoT、ロボット、カメラ映像から収集したさまざまな情報をデータサイエンティスト向けに分析し、シミュレーションや工程管理、コストマネジメントなどの業務システムを動かすコンピューティングサービスやデータベースと組み合わせ、新しい価値、建設に関する体験の向上につなげています。

 具体例として、鹿島のリアルタイム位置情報サービス「3DK-Field」にAWSが採用されました。BIMとビーコンを使い資機材や人の動きをリアルタイムに把握し、現場を可視化します。データベースにAmazon Aurora、コンテナを採用したマイクロサービスアーキテクチャーを採用し、遠隔監視の効率化や労働時間の短縮、働き方改革につなげられました。
 さらに、コマツのDXスマートコンストラクションの開発とサービスの提供基盤としてAWSをご利用いただき、本来3年かかる開発を1年で完了させ、昨年の発表時点で1万4000現場に導入されるなど大きなインパクトを残されています。
 AWSは今後も、建設DXの向上に貢献していきます。

ARコンテンツの活用で建設業界の働き方が変わる/建設業界向けARサービス 『ConstAR』の紹介(日本システムウエア 大野博隆氏)

 

日本システムウエア サービスソリューション事業部ビジネスイノベーション事業部副事業部長 大野氏

 日本システムウエア(NSW)は、建設業向け、ARサービス『ConstAR』(コンスター)を提供しています。ARアプリのリーディング企業であるPTCが開発した『Vuforia Studio』(ビューフォリアスタジオ)を日本の建設業向けにカスタマイズし、ノーコードで手軽にARコンテンツを作成できるのが特徴です。「ARによる実寸画面参照」「BIMデータを活用したイメージ共有」「リモートでの作業支援」など、それぞれの要件にフィットしたARコンテンツを作成し、業務負担軽減と課題解決に貢献します。
 当社は、建設業界が直面する人材不足、技術継承、危険作業の解消といった課題の解決を目標に、PTCジャパンと協力して4月にConstARを提供開始しました。1年のサブスクリプション契約しかなかったVuforia Studioを月額制にすることで、プログラムを描くことなく、誰もが簡単手軽に利用できるARを目指しました。
 ComstARで作成したARコンテンツは、AWSのクラウド環境に公開することで、拡張性、可用性、セキュリティーなどが担保されます。エンドユーザーはスマートフォンやタブレット端末、ヘッドマウントディスプレー(HMD)などを利用して現場で閲覧します。
 NSWでは、AWSのクラウドネイティブアプリケーション化支援、設計・導入・24時間365日の監視・運用などをサポートします。現場のニーズに応え、HMDを活用した音声認識による100%ハンズフリーのウェラブルデバイス『Real Wear』や、遠隔作業を支援する『Vuforia Chalk 』を組み合わせて提供することもしています。

 ARを活用することで、最新技術を活用した“かっこいい”建設現場へのイメージアップ、クライアントや関係者との円滑な情報共有を実現するとともに、施工では3次元設計モデルを活用した現場の進捗状況の確認、作業の安全確認などで直感的な状況把握を可能にし、労働時間短縮、業務効率化に貢献します。
 例えば鉄筋組み立ての干渉チェックでは、これまで地中に埋め込む杭頭の深さ、向きなどの位置調整をアナログ作業で行ってきましたが、鉄筋モデルを杭頭と通り芯の位置に重ね、周囲の構造物との干渉などを確認して行うことができます。
 埋設物の工事では、地中の施工状況を撮影しておき、再び掘り返す際には、その時の施工写真を現地に重ね合わせて見ることで、地中の状況が理解しやすくなり、施工の検討に役立てることができます。最新のiPhoneやiPadにはLiDAR(ライダー)スキャナが標準装備され、特別なデバイスを購入せずとも3Dで撮影でき、現場でARを使いやすくなりました。
 作業手順の説明にも役に立ちます。例えば設備の操作ハンドルをどの方向に何回まわせば開放し、閉止するといった指示を動画の画面上に書き込むことできます。テキストベースでは分かりにくいものを動画ベースで説明し、初めての現場でも何がどこにあり、どう作業すべきか分かりやすく指示できます。
 これらの技術を活用し、現場の生産性向上に貢献します。

建設でのAR活用を検証で終わらせずに実用化へ/~Vuforia StudioのAR表示の位置ずれ補正技術~(PTCジャパン 松本智久氏)

 

PTCジャパン製品技術事業部スマート・インダストリー技術本部 松本氏

 建設現場でARを使用する時は、広い作業空間の移動に伴う誤差が拡大し、位置ずれが発生しやすくなります。PTCが開発、提供するARコンテンツ作成アプリ『Vuforia Studio』(ビューフォリアスタジオ)は、そうした課題に対応し、マーカーを設置せずに位置ずれを自動補正する「モデルターゲット」「エリアターゲット」と呼ばれるマーカーレス機能を搭載しています。建設現場での自動補正を実用化したAR技術を紹介します。
 Vuforia Studioは、プログラミングすることなく誰もが簡単にARコンテンツを作成できるアプリとして開発されました。作成したコンテンツはサーバーに公開し、スマートフォン、タブレット端末、HoloLensなどのスマートグラスといったさまざまなデバイスで簡単にARを利用できるのが特徴です。他システムで作成したデータを取得してARに表示できるほか、AR側のデータを他システムで記録するなど双方向のデータ連携を充実させています。

■モデルターゲット機能
 “位置ずれ”を防ぐ技術のうち、モデルターゲットは、デジタルツインを構築するBIMデータの外形と一致する形状(実物)を、デバイスに映し出す画面上で自動的に認識し、ARを重畳表示する技術です。
 まずはモデルターゲットのデータを作成するため、Vuforia StudioにBIMデータを読み込み、編集機能で3次元モデルの向きなどを指定します。現場で活用する際は、モデルターゲットになる白い輪郭線だけのBIMデータを使用し、画面に実物が入ると重ね合わせ表示を自動的に行います。ユーザーが移動するとARの位置が一度ずれるのですが、すぐに3次元データの重ね合わせを行い、正しい位置を把握し続けることができます。

■エリアターゲット機能
 現場など広域的なエリアのARの活用では、まず敷地形状を3Dスキャンし、エリアターゲットのデータを作成します。
 具体的には、3次元モデルの作成を得意とするMatterport(マーターポート)の3次元カメラで現場を撮影し、エリアターゲットジェネレーターに読み込んでエリアターゲットデータに変換します。続いてVuforia Studioにデータを取り込み、ARの標示物を相対位置に配置します。
 このエリアターゲット用のデータを現場に一致させることで、移動しても位置ずれが発生しないARを作成することができます。例えば長い距離を誘導する案内板のARを各所に配置しても、標示物が位置ずれを起こすことはありません。

■空間ターゲット機能
 2つのターゲット機能に加え、現場で実物大のBIMデータのARを表示し、指操作で位置を素早く合わせて整合をチェックする「空間ターゲット」も搭載しています。例えばパイプを検査する際、実物と3次元設計モデルを重ね合わせ、本数や位置などをチェックします。ずれなどがある場合はモバイル端末上で素早く位置合わせし、実物と比較することで、作業時間短縮やチェック漏れの削減に貢献します。
 このような実用的なAR技術の開発を今後も進めていきます。



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