【i-Con2022②】PTCジャパン ARが施工管理、品質検査を高度化 設計と施工 リアルタイムに情報共有 | 建設通信新聞Digital

4月24日 水曜日

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【i-Con2022②】PTCジャパン ARが施工管理、品質検査を高度化 設計と施工 リアルタイムに情報共有

 AR/IoTを活用した産業向けデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するPTCジャパンは、AEC(建築、エンジニアリング、建設)領域におけるサービス提供を加速している。2021年11月にオンラインセミナー「品質検査の業務課題をARデジタル活用で効果的に解決」を開催し、建設現場の施工管理・品質管理に役立つ最先端のAR/IoTサービスを紹介した。本特集では、同セミナーでのサムスンエンジニアリングによる海外事例や日本国内の建設DXの最新動向を紹介し、ARを活用した建設現場の今後を展望する。セミナーはオンラインで配信している。QRコードからも視聴可能だ。
 

AR技術を活用したAEC産業のビジネス革新方法と事例
―サムスンエンジニアリングのBIM AR事例の紹介―

「S-ARMS」を共同開発 品質検査の満足度高める

サムスンエンジニアリング クオリティーマネジメントチーム プロ
チェ・ジョンウン氏

 サムスンエンジニアリングとPTCは、BIMデータをシームレスにAR(拡張現実)に変換し、施工の品質管理に活用する「S-ARMS」を2021年4月に共同開発しました。7月からは“働き方に変化”をテーマに全社的な運用を開始しています。BIMデータの軽量化、現場へのデジタル情報マッピング、リアルタイムの設計変更と品質管理、設計チームと施工チームの協力体制構築など3次元モデルをARで活用するための基本機能と、現場実務に役立つ機能を追加しました。

 その1つが、施工の不適合個所などの「パンチ管理」です。工事終盤の未解決の作業や不適合個所をパンチ・リストにまとめ、見落としなく施工するもので、それらの位置をBIMの3次元モデルにマッピングし、ナビゲーション機能で現状を把握したり、色別表現機能で管理を効率化します。

 同じく工事終盤の配管テストやループテストを効率化する「テストパッケージの視覚化機能」を搭載しました。配管に実施するプレッシャーテストの進行段階の色別表示や段階別日付情報を提供するほか、ループテストの進行段階におけるループフォルダタグアイテムの色別表示を行います。

 仕事のボリュームが最も大きい配管の溶接や連結部分の情報を提供する「配管・溶接の現状管理機能」は、スプールの製作、設置、検査など段階別情報を色別に可視化するとともに、ジョイントの溶接、非破壊検査、溶接の後処理などの情報を提供し、施工管理を大幅に向上させます。

プレッシャーテストなどの進行段階を色別表示する


 さらに「ARチェックリスト」と、既存の品質予防管理システムを連携させ、アイテムごとに注意すべきポイントをARで表示し、現場で確認できるようにしました。「遠隔検査」は、AR画面を本社やベンダーと非対面で共有し、検査のリモート化を可能にします。


2つのモードで効率的にプロジェクトを管理

 S-ARMSは、これらの機能を効率的に活用するため、「コンストラクション」と「コンプリーション」の2つのモードで運用します。コンストラクションモードはスプールや非破壊検査などの施工に必要な機能を集約し、コンプリーションモードにはプロジェクト終盤で行う検査などの機能を集約しました。

 コンストラクションモードは、スプール管理においてARで配管を色別表示し、製作・運搬・設置などの状況を把握できるようにしました。例えば黄色のスプールを追いかけていけば、「製作は完了しているが設置は完了していない」といった現況情報を担当者が一目で確認し、作業指示を出せます。またジョイントごとの溶接情報や非破壊検査の有無、溶接後の熱処理などの状況を現場で把握でき、作業の抜けや手戻り防止に役立ちます。

 コンプリーションモードは、「パンチ管理」が主な機能です。従来は発注者と現場をウォークスルー検査し、不適合個所を手書きで記録しますが、化学工場のプラントなどは写真撮影が制約されることが多く、発注先の担当者が休んだりすると、不適合個所の確認が難しくなることがあります。そのため、S-ARMSでパンチの位置を3次元モデルに記録し、他の関係者もリアルタイムで共有できるようにしました。工事終盤に配管の系統ごとに行う数千ものテストパッケージにもS-ARMSを使うことで、確認作業を大幅に効率化できます。

 また、当社が取り組むEPC(設計・調達・建設)プロジェクトで作成するデータベースとの連携に重点を置いているのも特徴です。EPCは配管などのプロジェクト情報を保存し、最終的に発注者に引き渡すためにデータ管理を行います。ここにARを取り入れることで、より良い活用が可能となります。

スプール段階別情報の視覚化


 S-ARMSは、メキシコ、ベトナム、国内のプロジェクトに適用しています。工事終了段階にあるベトナムの現場ではコンプリーションモード、メキシコではコンストラクションモードを活用しています。今後もサウジアラビアやUAEのプロジェクトに適用できるよう準備しています。


施工の不適合を簡単に発見

 S-ARMSのメリットは、現場で誰もが施工の不適合を簡単に発見できるようになることです。それまでは、ミスを見逃していて、後から図面の間違いに気づくこともありましたが、現在は実物と3次元モデルを重ね合わせることで不適合をすぐに発見し、効率良く対応できるようになりました。

 機械、制御、ノズルなど設備のパッケージ化も進んでいますが、ARを使えば、アイテムの抜けやノズルの位置の間違いなどを簡単に検査できるため、いまは工場で100%検査してから現場に納品するようにしています。

 この結果、発注者の検査に対する満足度が非常に高まり、新たな機能を使って品質改善したいというニーズもあります。作業の円滑な推進にARが大きく貢献しています。


建設業DXの動向と品質検査のデジタル化に向けた取り組み・課題/AR、IoTがBIMと現場つなぐ

野村総合研究所コンサルティング事業本部主任コンサルタント
小宮 昌人氏

 建設業界は、深刻な人手不足と低い労働生産性の改善、コロナ禍への対応で、業務の遠隔化やデジタル化の必要性に迫られています。建設生産工程における計画・労務、設計、調査、測量、調達、施工、検査、維持管理のバリューチェーンに多くの課題を抱えるため、産業全体で試行錯誤しながらデジタル化を進めています。特に現場監督の業務の大きな割合を占める「品質検査・管理業務」のデジタル化を、どのように進めるかが論点の1つになります。

 その中で、建設DXの推進により、BIMや施工管理アプリを基盤にデジタルデータの集約が進む中、日々変化する現場の情報とデジタルデータのギャップを埋めることが課題となっています。そのギャップを埋めるキーテクノロジーとして、AR(拡張現実)とIoTが注目されています。

 建設業のデジタル化の構造は、計画・設計、測量、施工、検査、O&M(維持管理)の各工程を横断してBIMを活用し、各工程の3次元データに重機やドローンなどのハードやセンサーをひも付け、機・労・材の最適化を図ることにあります。例えば、測量段階にドローンや3次元測量機で取得した現況データをBIMにフィードバックし、施工段階のショベルやダンプの動作をマシンガイダンスで最適化し、BIMをもとに建設ロボットを動かす取り組みなどが進められています。

BIMと現況データの フィードバックイメージ


 ただ、足元ではデジタル基盤となるBIMと、日々変化する現場の現況にギャップが存在するため、そのギャップを埋めるのにIoTとARが役立ちます。IoTのセンシング技術を活用して現況データをフィードバックしてBIM基盤を修正し、今度はARを活用してBIMのデータを現場にフィードバックし、現況とのズレを確認します。

 一方、ARによる業務変革の課題として、デジタルツールの導入自体が目的化し、現状の業務プロセスにデジタル技術を単に置き換えるだけのケースがあります。これでは前工程で検査が完了しているのに次工程でも重複して検査してしまったり、ランダム検査で問題ない工程に全数検査を行い、過剰な工数がかかるなど、非効率なケースもあります。

 そうならないようにするには、どのような経営戦略やオペレーション戦略を実現したいのかを考え、それに必要なデジタル技術を選定、活用することが重要です。

 この際、各社の品質基準に施工フローと情報の流れをひも付けると、品質検査・管理として詳細にこだわり抜く領域と、抜き打ち検査などで効率化する領域など、プロセスの必要性や濃淡が明確になり、それに応じて業務を振り分けることができます。それぞれのプロセスの実行手段として、人手で詳細に行うべき領域、デジタル化・自動化する領域を分けることで、デジタルツールの効果を最大限に発揮できます。

 デジタルツイン時代・ポストコロナ時代のBIMや遠隔化を前提とするオペレーションでは、デジタル上で構想・設計し、シミュレーションで検証しながら改善を図り、その結果を現場にフィードバックすることがポイントになります。その中で、BIMと現場をつなぐIoTとARが非常に重要な役割を担うと考えます。



現場のデジタルツインを構築/施工手順、作業方法をARで表示

 PTCは、米国ボストンに拠点を置き、AR(拡張現実)/IoTの製品・サービスをグローバル展開するソフトウェア企業となる。ボルボやファイザー、トヨタなど5万社以上の顧客にAR/IoTを基盤とするサービスを提供するなど、ARソフトの技術開発におけるリーディングカンパニーに位置付けられる。主力製品は、AR開発プラットフォーム「Vuforia」シリーズで、IoTとARに関する高い技術力をベースに、BIMデータをARに変換し、スマートグラスやスマートフォンを活用して現場のデジタルツインを構築する。

非接触のリモートサポート・協業ソリューションを支援する「Vuforia Chalk」


 製品は、サービス形、プラットフォーム形、SDK(ソフトウェア開発キット)形の3タイプを提供している。サービス形では、熟練者の専門知識の記録や教育コンテンツの制作に強みのある「Vuforia Expert Capture」、ARを活用したデジタル作業指示書を作成する「Vuforia Instruct」、非接触のリモートサポート・協業ソリューション「Vuforia Chalk」などを提供する。プラットフォーム形は、ARのオーサリング、配布、ビューワプラットフォーム「Vuforia Studio」、SDK形は「Vuforia Engine」を提供している。

 これらの技術やサービスがAEC(建築、エンジニアリング、建設)のデジタルトランスフォーメーション(DX)に貢献し、従来の視覚化機能にとどまらず、検討、設計、施工、運営の各段階を通じ、生産性向上、作業時間短縮、コスト削減などに大きな効果を発揮する。

 例えば検討段階では、3次元モデルハウスの中でさまざまな資材やインテリアの3次元カタログを再現し、関係者が事前にデザインやレイアウトを把握し、設計検討を効率化する。

熟練者の専門知識の記録や教育コンテンツの 制作に強みのある「Vuforia Expert Capture」


 設計と施工段階では、非対面による関係者間の業務の実施に貢献する。設計BIMデータをARを通じて現場で活用し、品質チェックで生じた変更内容をリアルタイムに設計に反映させるなど、設計チームと施工チームの協力体制を確保する。安全教育にも活用でき、専門知識がなくても簡単にARコンテンツを作成し、データを配布することが可能だ。

 施設完成後の運営管理(O&M)段階でもARを活用した運営管理マニュアルなどを作成し、維持管理におけるゼネコンなどのビジネス領域の開拓を支援する。

 PTCジャパンの諸橋伸彦イノベーション&デジタルトランスフォーメーション事業部事業本部長は「作業者のスキルギャップの拡大、製品の複雑化と保全対象項目の増大によるマンパワーの限界、顧客や市場からの要求の増加により、さまざまな課題が山積している」とAEC産業の実情を指摘する。

 施工手順や作業方法をARで現実空間に重ね、品質検査作業指示として大きな効果を発揮できるため、諸橋部長は「マンパワーが限界にきている建設業界を、AR/IoTで効率良くし、ユーザーの成功体験づくりに寄与したい」と意気込む。



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