【教訓を未来へ】建築学会が東日本大震災10年を機にシンポジウム 歴代会長6氏がリレー講演 | 建設通信新聞Digital

4月20日 土曜日

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【教訓を未来へ】建築学会が東日本大震災10年を機にシンポジウム 歴代会長6氏がリレー講演

 日本建築学会(竹脇出会長)が6日、「東日本大震災10周年を機に頻発する複合災害を考える」をテーマに開いたオンラインシンポジウムで、震災発生以降の歴代会長経験者6氏が基調講演した。歴代会長は、震災後の学会の取り組みを振り返りながら、教訓を未来に生かすために建築界が果たすべき役割を展望し、分野横断の連携による共創の必要性などを呼び掛けた。


 リレー形式で基調講演したのは、震災発生時に会長だった佐藤滋早大名誉教授(任期2009・10年度)、和田章東工大名誉教授(同11・12年度)、吉野博東北大名誉教授(同13・14年度)、中島正愛京大名誉教授(同15・16年度)、古谷誠章早大教授(同17・18年度)と、現職の竹脇会長の6氏。

佐藤氏

 佐藤名誉教授は、学会の社会貢献を定款に盛り込むための最終決議をする理事会の最中に強い揺れに襲われた。「学会の社会貢献」は11年5月の総会で定款に加えられ、「復興は社会貢献の試金石になった」と振り返った。

 数々の復興プロジェクトは建築分野だけでなく土木なども含めた壮大な社会実験となり、多重防御と減災が新たな目標となる中で「拡張された建築」が、「一般化されたかと言えばされていない」との見解を示し、土木インフラと建築・まちづくりが一体となった共創の実現などについて、「冷静な復興プロセスの検証を通して次につないでいくことが重要だ」とした。

 
 
 
 

和田氏

 和田名誉教授は、津波対策は土木工学の範囲と考え、建築に関わる設計者、研究者がその被害について真剣に考えてこなかった点などを反省した上で、「研究者は蚕(かいこ)みたいなもので、自分の繭(まゆ)の中で物事を考える」とし、今後の災害対策には専門を超えた議論と連携が必要と指摘した。また、「科学、技術、人工物によって自然災害を防ぐことには限界があるのではないか」とし、「これから災害が発生しそうなところで防災対策を強化すべき」との考えを示した。「10年でやっと盛り土が終わったということではコミュニティーも元に戻らない」とスピードを速めた復興の必要性も強調した。

 
 
 
 
 

吉野氏

 続いて登壇した吉野名誉教授は、会長の任期中に取り組んだ震災対応を振り返った上で、今後の課題として、▽仮設住宅環境設計ガイドラインの提言作成と公開▽室内における放射能防除のための建築的対応▽気候変動による災害防止に関する委員会の立ち上げと提言▽低炭素社会推進会議の活動を通じた脱炭素社会実現への支援継続–を挙げた。

 気候変動による災害防止に向けては、湿気によるカビの発生などに伴う健康被害が豪雨水害で多く報告されていることから、家屋に浸水が生じないための土木的・建築的・疫学的対策に体系的に取り組むための新たな分野として「耐水建築学」の確立を提唱した。

 
 
 

中島氏

 中島名誉教授は、激甚化・頻発化する自然災害に的確に対応するには「いままでとは違う形での積極的な連携が求められる」とし、異分野の壁を乗り越える多分野連携の共通言語として「防災力の計量的リスク評価」を挙げた。計量的リスク評価によって、「予測、予防、対応の専門家の知見が統一された言葉で意思決定者の決断に貢献する」とし、多分野連携による防災・減災レジリエンス向上に速効性、実効性を持たせる評価手法確立の必要性を強調した。

 
 
 
 
 
 
 

古谷氏

 古谷教授は、土木学会と連携して設立に尽力した防災学術連携体での取り組みを振り返りながら、「建築学会単体では対応しきれない課題に、防災学術連携体で対応してきた」と分野を超えた連携の重要性を指摘し、「災害に抗するだけでなく、難を逃れるために建築、都市計画が果たすべき役割はまだまだある」と力を込めた。

 
 
 
 
 
 
 
 
 

竹脇会長

 竹脇会長は、東日本大震災や地球温暖化などに起因した激甚化する災害に対し、抵抗力と復旧力の両軸に基づくレジリエントな建築・都市のあり方を学会として検討していることを説明。新型コロナウイルスが猛威を振るう中、複合災害に対する検討を重要課題に挙げ、ソサエティー5・0やSDGs(持続可能な開発目標)の動向も踏まえながら、建築、都市・社会の相関を考慮した総合的なレジリエンスを展開する「マルチスケールアプローチ」の必要性を強調した。

 
 
 
 
 
 
 
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