【伸展する関西の建設ICT⑪】BIMモデリングを清流化 大林組 × 応用技術 | 建設通信新聞Digital

4月26日 金曜日

B・C・I 未来図

【伸展する関西の建設ICT⑪】BIMモデリングを清流化 大林組 × 応用技術

 

大林組、トランスコスモス、応用技術が開発したBIMモデルリングの進展度(LOD)を管理するシステム『Smart BIM Conection』(SBC)の販売が始まった。大林組では先行導入のプロジェクトが動き出し、応用技術では他のゼネコンや設計事務所へのトライアルも進行中だ。大林組の谷口隆二氏(デジタル推進室iPDセンター技術管理部技術管理課)と中村達也氏(同センター制作一部製作一課)、応用技術の菅井雄史氏(ソリューション本部toBIM推進部)と木村征爾氏(同)に、SBCの導入効果について聞いた。

 

複数人が遠隔からリアルタイムに進捗を共有

 

◆正しい情報を管理する共有ツール『Smart BIM Conection』販売開始

谷口隆二氏

 

 

 

–SBCの運用が始まった

谷口 SBCはクラウドとRevitアドオンで構成するモデリング進捗管理システムである。大林組ではパイロットプロジェクトとして5件ほどのプロジェクトでSBC導入のスモールスタートを切った。モデリングに着手する段階にあった案件の中から、東京と大阪で工場やオフィス、医療福祉施設などを選定しており、建物用途を限定せずに運用を始めた。当社では2020年度から請負金額10億円以上のプロジェクトにBIMを全面導入しており、着工時には各現場にBIMモデルが供給されている。デジタル推進室のiPDセンターが中心になり、モデリングの支援や作業を担っている。

中村達也氏

 

中村 私はiPDセンターと設計部を兼務し、設計モデリングの支援を行っており、SBC利用者の立場にある。以前からモデリングの進捗管理を含めたモデリング管理ツールがあればという思いを強く持っていた。SBCを実際に利用し、作業効率とモデル品質の向上に対し効果的だと感じている。

谷口 これまでモデリングの進捗管理は担当者同士がメールやチャットツールなどで確認しながら進めていた。この伝達の際にBIMモデルから切り出した2次元データを使用することで、最新情報の所在が曖昧になることがあった。BIMモデリングでは複数人が同時に作業を進めるため、どの情報が正しいのかを管理することが重要だ。この情報管理が正確にできれば、手戻りなどが減り、業務の質も大幅に向上する。

中村 SBCには入力要素の状態管理機能があり、要素の進展状態をBIMモデル上で視覚的に確認することができる。これによって最新の正しい情報がBIMモデル上で共有できるようになった。状態の共有は、次作業を明確にする効果がある。

谷口 BIMモデリングでは、誰かが整えたモデルを別の誰かが編集してしまうトラブルがある。この問題は、各要素の状態が見えない事に起因している。SBCの状態管理機能は、無用な作業や手戻りを低減する。

中村 昨今のテレワークの普及などにより、机の上の図面や、対面の会話などから相手の仕事の進捗を把握することができなくなった。SBCの導入によって、BIMモデル上で互いの様子が伝わるようになり、モデリングが円滑になった。SBCを通じたコミュニケーションが、オフィスで行われていた日常的なコミュニケーションの代わりになっている。

谷口 SBCは設計段階のモデリング作業だけでなく、施工現場での活用も視野に入れて開発した。現場では変更が生じる度に図面に書き込みをして回覧し、関係者に変更内容を共有していた。SBCを使用すれば、確定・不確定が一目で分かるようになり、現場内での情報共有も行いやすくなる。運用を始めたプロジェクトはまだモデリングを進めている段階だが、施工管理段階での利用までつなげたいと考えている。

 

コミュニケーションツールとしても機能

 

菅井雄史氏

–販売もスタートした

菅井 大林組が導入を始めたことで、他のゼネコンからSBCに対する問い合わせが増えている。当社としてはBIMの本格導入に踏み切った大手・準大手クラスのゼネコンを中心に営業をスタートしており、並行して各社の協力会社にも展開していきたい。中には大林組のレベルまでBIM対応力が整っていなくても導入できるのかとの相談も少なくない。むしろ今後、BIMの一元管理を進めようと考えている会社であれば、その流れを整える手段としてSBCは有効に機能する。複数が同時に状況を把握できるため、現在のような在宅ワークが増えている状況下にも使い勝手が良い。

谷口 SBCによってモデルリング作業の流れを整えることは、開発の大きな狙いの1つである。BIMモデリングの流れを良くすることは、掛け声だけでは実践が難しかった部分がある。例えばゴールやマイルストーンの設定、プロパティの入力時期管理などがそれにあたる。SBCが提供するプロジェクト管理機能を用いれば、モデリングの清流化が実現する。

 

木村征爾氏

木村 販売に合わせ、中堅ゼネコンや設計事務所など5社でトライアルもスタートした。既に設計段階だけでなく、施工でも有効に活用していきたいとの評価をもらっている。デジタル化への一歩と考えている社もある。物件を横断的に管理するツールとして可視化機能を充実してほしいという要望も出ているほか、当社のRevit支援パッケージ『BooT・one』と連携してほしいとの要望もある。こうした声はより効率的にRevitを使い切りたいという裏返しであり、大林組と相談しながら今後の新たな機能強化に役立てていきたいと考えている。

菅井 SBCの導入時にどのくらいの準備をすれば良いかというような問い合わせも多い。当社としてはヘルプデスクを充実させ、あらゆる相談に応えていく。今後、外販が本格化すればさまざまな問い合わせも増えてくるだろう。

谷口 SBCはモデリング管理情報をクラウドに登録する。この登録情報がシステム上で非常に重要な役割を担うため、タブレット端末を含め、どこからでも編集・閲覧を可能とした。現在導入しているプロジェクトでは、モデリング管理情報における細かな問題点の洗い出しや、運用面でのノウハウ蓄積を行っている。これらを踏まえて社内の幅広い展開へ進んでいきたい。いずれは全国のモデリング状況をSBCサーバー上で管理していく。そうなれば物件ごとの進捗が総覧できるようになり、リソース配分の検討など、組織のマネジメントツールとして機能してくる。

 

複数の物件進捗をグラフ化した画面

 

SBCのLOD管理表

–今後は

菅井 SBCをきっかけに、本格的にBIMを導入しようという逆の動きに発展する可能性もある。先行する大林組の成果を見て、導入を決める会社も多いはずだ。既に大林組の協力会社からの問い合わせも増えている。一方でSBCをベースに構築したBIMモデルだからこそ、質の高いモデルだと評価されるケースも出てくるだろう。SBCは良質なモデルを生むツールでもある。

中村 今後、実施物件が増えれば、SBCによる進捗把握から、モデリング作業上の負荷が集中する状況や段階を定量的に把握できるようになる可能性もある。それができれば、仕事の進め方や業務のあり方にもフィードバックできる。SBCは数値でモデリング進捗を表現している。経験則ではなく、客観的な指標に基づいてモデリングを管理することができれば、働き方改革にもつながる。

木村 応用技術では「つながるBIM」を提唱している。いま、ゼネコン各社がBIM導入に踏み切ったことで、専門工事会社にもBIMが広がりつつある。SBCは社内の情報共有だけでなく、企業間のデータ連携を下支えする役割も担える。

谷口 開発時から「『作るBIM』から『使うBIM』へ」というコンセプトを掲げてきた。社内でも「使うBIM」を意識する流れが浸透している。これから問われるのはモデルの質であり、SBCは流通するモデルの質を担保するツールである。現在の大林組では既に100以上のSBCライセンスが稼働し、部分利用などで展開が進んでいる。導入効果をこれから積極的に発信し、水平展開していきたい。

 

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