【BIM2022】BIM出発点にデジタル戦略進展 大和ハウス工業×応用技術 | 建設通信新聞Digital

4月30日 火曜日

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【BIM2022】BIM出発点にデジタル戦略進展 大和ハウス工業×応用技術

 BIMを出発点とした大和ハウス工業のデジタル戦略が進展している。BIM推進室の発足から5年。組織は建設デジタル推進部へと進化し、ことし4月からは建設DX推進部として200人超の推進体制にまで拡充した。BIMの取り組みは19年からスタートしたデジタルコンストラクション(DC)プロジェクトの流れと折り重なり、デジタルトランスフォーメーション(DX)へと向かおうとしている。大和ハウス工業の南川陽信上席執行役員流通店舗事業本部副本部長(技術系)建築系設計推進部長建設DX推進担当、河野宏上席執行役員技術統括本部副本部長住宅安全担当環境担当、宮内尊彰東京本社技術統括本部建設DX推進部次長と、BIM導入を支える応用技術の船橋俊郎社長、高木英一執行役員DX推進本部長の5人に「BIMから始まるデジタル戦略」の方向性について語ってもらった。

建設プロセスにおけるデジタル戦略のメビウスループ

--大和ハウス工業はデジタル戦略の組織を進化させてきた

大和ハウス工業 南川陽信氏

 南川 2017年に立ち上げたBIM推進室は翌18年にBIM推進部、20年には建設デジタル推進部となり、ことし4月からは建設DX推進部が発足した。19年にはDCプロジェクトも設立し、当社のデジタル戦略はBIMとDCの両軸で動いている。先行するBIMは建築と集合住宅の両分野で、設計段階の完全BIM化を完了し、今期は施工段階のBIM化をさらに推し進める。

大和ハウス工業 河野宏氏

河野 DCプロジェクトではBIMの動きと連携しながら建設現場の無人化や省人化の確立を目指している。管理・監理、施工、設計、次世代工業化、システム構築・運営・人財の5つのワーキンググループを置き、建設業が抱える課題を整理しながら、制度面や技術面から検討を進めている。わたし自身は環境担当も担っており、カーボンニュートラルの取り組みとDCを連動し推し進める。

大和ハウス工業 宮内尊彰氏

 宮内 BIMの取り組みでは、設計から施工への円滑なデータ連携環境を整えている。もっとBIMを活用していくため、使うBIMNの確立を今期の重点方針に掲げている。設計段階では構造から見積もりへのデータ連携が既に実現しているほか、意匠の連携項目も着実に増えている。設計から施工への橋渡しが重要になるため、作るBIMの部分をきちんと仕上げようと、かなり詳細な部分までモデルを作り込むようにしている。

 南川 統合した設計モデルを見積もりや工場、工事にも連携させているが、まだ完璧でない部分もあり、その精度を高めていく。いまは全体最適化を進めていると受け止めてほしい。当社の強みは工場を持ち、設計から施工、維持管理までを一貫して進められる点であり、維持管理データは次の商品開発にもつながる。一気通貫で生産性を高め、その次の方向性として自動設計についても取り組む。まずは顧客の要求から自動的にある程度の設計の枠組みが構築できるよう開発を進める。

 河野 DCロジェクトではICTを活用した現場管理の無人化についても取り組んでいる。現場にウエブカメラを設置し、現場の状況を携帯情報端末やパソコンからリアルタイムに確認できるもので、既に3月末時点で現場の67%に導入した。その画像データを蓄積しており、AIによって自動判定する仕組みも開発を進めている。

--大和ハウス工業のデジタル戦略を支える応用技術の役割は

応用技術 高木英一氏

 高木 当社が提供するRevit支援パッケージ『BooT・one』は利用者の声を反映しながら成長しているツールである。きちんとBIMと向き合い、全体最適に向けてデータ連携を推し進めている大和ハウス工業からは、より多くのリクエストをもらっている。テンプレートはユーザーごと異なるが、ファミリについては大和ハウス工業のものがスタンダードになっており、業界に広く活用されている。

 宮内 538件のBooT・oneコマンド数のうち、半数は当社のリクエストを反映したものと聞いている。われわれが日頃取り組む枠組みが機能として使えるだけでなく、逆に他のBooT・oneユーザーが使っているコマンドをわれわれも活用できることはBIM推進の観点からも大きな力になっている。当社グループのBooT・one利用状況は2500ライセンスにおよぶ。大和リースやフジタなどが受注したプロジェクトもわれわれと同じBIMプラットフォームで建設を進めており、これは当社の枠組みが業界内に広く普及してきた状況でもある。

 高木 われわれシステム側にいくら優れた技術があっても、どう使っていくか、現場が何に対して困っているかを把握できないと、自己満足のシステムになってしまう。大和ハウス工業からは、より多く現場目線でのリクエストをもらっている。ユーザにとって、Revitを使いこなすだけでなく、業務でこの様に使っていきたいというコマンドが増えており業界に広く活用されている。

 宮内 4月に発足した建設DX推進部は200人超の体制だが、実は応用技術の親会社であるトランスコスモスから施工BIMにたけた20人ほどの人材に参加してもらい、さまざまなチームに加わって力を発揮してもらっており、当社のデジタル戦略の下支えになっている。
 船橋 われわれのグループは技術的にシステムを構築する役割と、顧客の将来の悩みを聞き、それをシステム化していく役割も持っている。トランスコスモスはシステムを提供した後の現場定着を支え、現行システムから徐々に新システムに移行する際のお手伝いをしている。今後もグループを挙げて大和ハウス工業のデジタル戦略を支援していく。

--BIMを出発点にDXをどう推進していくべきか
 高木 当社が進めるtoBIMサービスは、トランスコスモス(t)と応用技術(o)がBIMに導くという意味を込められている。建設業では今後、先行している大和ハウス工業のようにBIMを出発点としてDX推進に向かう流れが進展する。人と技術を一体化して提供するtoBIMの要求はさらに拡大する。ベースとなるBIMデータを統一することがDX推進の近道であり、大和ハウス工業が目指す自動化や無人化の基盤としてもBIMが大きな役割を担うはずだ。

応用技術 船橋俊郎氏

 船橋 一般的に生産システム改革を推し進める際、新たに取り入れるべき作業もあれば、逆に従来進めてきた作業を取りやめる選択も出てくる。これまでの慣習を捨て、新しい部分に注力することで大きな成長につながるケースは多い。取り除くもの、残すべきものを明確に区分けしないとシステム改革はできない。大和ハウス工業のように、現場の小さな声にまで耳を傾けることはとても重要だ。

 宮内 当社はデジタル戦略の段階を着実に登っている。デジタイゼーションからデジタライゼーション、そして今、DXに向かう階段に足をかけた。DX推進では事業部門からの要望を受け始まる課題としてのDXと、会社として責任として取り組むべきテーマのDXがある。

 河野 環境の視点はまさに企業としての社会的役割の1つであり、以前から取り組んできたことで、社内のリテラシーも高い。一方でデジタル推進の視点はまだ取り組み始めた段階で、社員の意識としてまだ薄い部分もあるが、現場からはさまざまなアイデアや意見は上がっている。見えない成果ではあるが、着実に伸展している。

 南川 設計の自動化も将来を見据えた取り組みの1つだ。人を増やせば、その分だけ仕事(量)をこなせるが、人材は限られ、自動化できる部分を突き詰めていけば、それによって確保できた時間を、クオリティーの高い部分につかっていける。今期は自動化の検討を大きく前進させたい。
 
河野 今期から5カ年中期経営計画がスタートした。持続的成長モデルの構築という目標を掲げている。DCプロジェクトとして突き詰める現場の無人化とは、技術者を減らすという意味ではなく、むしろ技術者はより価値の高い仕事に力を発揮してもらうという狙いがある。挑戦を繰り返し、DXの新たな扉を開いていきたい。

 南川 BIMの視点から言えば、究極の姿として設計も施工も同じ1つのワンモデルとして進める仕組みを確立していきたい。そうなれば組織の各部門が円滑にデータを活用でき、ものづくりの進め方自体も大きく改善できる。それがDXにもつながっていくはずだ。

一気通貫型建築系BIM プラットフォーム