今年1月に構造ソフト(東京都北区)を完全子会社化したArentの鴨林広軌社長は「構造ソフトの文化を壊すつもりはない」と強調する。グループ化から半年が経過し、先行して取り組んできたのは営業支援の部分だった。構造ソフトの原泰紀社長が「そのスピード感には驚いた」というほど、営業支援の効果は既に成果として表れ始めてきた。
構造ソフトのような社員数20-30人規模の企業は営業や開発のリソースが限られているケースが多い。しかもソフト販売に代理店を使う場合は利益幅が小さくなってしまい、それによって本来であれば、力を注ぐべきソフトの機能強化に向けた開発投資を確保しにくい。鴨林氏は「グループ会社の強みをそのままに、弱い部分をArentとして補い、共に成長することが当社のM&A(企業の合併・買収)戦略だ」と続ける。
構造ソフトの一貫構造計算ソフト『BUILD.一貫』は中堅中小の設計事務所や協力事務所に支持され、工程表作成ソフト『現場ナビ工程』は大手・準大手ゼネコンの約4割が活用するなど建設会社を中心に導入が進む。原氏は「あえて企業からの受託業務は請け負わず、不特定多数のユーザーに受け入れられる汎用(はんよう)的な新機能の追加に注力することで、使いやすさとコストパフォーマンスを兼ね備えたツールとして確立してきた」と説明する。
Arentは、訪問準備に徹底してこだわるキーエンス出身者を社員として数人迎え入れている。グループ内に置く構造ソフト向けの営業部隊にはそのノウハウを実践しており、見込み客に商談の約束を取り付ける電話営業とともに、展示会などへの参加機会を増やす“攻めの営業”を積極的に展開している。鴨林氏は「営業活動の成果を徹底して数値化し、改善を繰り返しながら最適な流れを確立する」と強調する。
構造ソフトの営業意識も大きな進化を見せ始めている。この半年で原氏はArentの取り組みを参考にしながら商談のプロセスを改善してきた。提供するソフトには自信を持っていたが、営業が弱かったために「その良さを広く知ってもらう機会に恵まれなかった」との反省があった。これまでは問い合わせに対して担当者が単にソフトの説明をするだけだった。困りごとを聞き、どういう解決策があるかを具体的に示す提案型のスタイルに切り替えたことで、商談のテーブルに載る確率は「この4カ月で3倍にも引き上がった」と明かす。
大手・準大手ゼネコンの4割が導入する『現場ナビ工程』ではメンテナンスに合わせ、年1回のペースでユーザーへのヒアリングを実施している。Arentの営業担当と一緒に訪問する流れにシフトし、その際にDX(デジタルトランスフォーメーション)推進についても意見交換の場を持つことで、Arentのソリューションを販売するきっかけをつくる連携効果も生まれている。
鴨林氏は「そうした相互の密接な関係性構築が、アプリ連携型プラットフォームの強みになる」と確信している。心掛けているのはグループ会社に対して「決して上からの押しつけをしない」ことだ。「われわれがコントロールするような体制が、逆にグループ連携を阻害する要因になってしまう。その考え方は担当者レベルにも徹底させている」。強みをそのままに、弱い部分を徹底して支援するArentのグループ運営は、互いの信頼関係で成り立つスキームでもある。
両社間では営業、開発、経理の各担当者が週一ペースで1時間ほどの打ち合わせをしている。原氏は「もっと介入してほしいと思うほど、自由に取り組ませてもらっている」と強調する。これからは技術開発の連携フェーズに入る。強みをさらに強くする関係性がより鮮明に表れようとしている。