【BIM2022 高砂熱学工業×オートデスク×応用技術】設備BIMの標準化に道筋 | 建設通信新聞Digital

5月2日 木曜日

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【BIM2022 高砂熱学工業×オートデスク×応用技術】設備BIMの標準化に道筋

 高砂熱学工業が、設備工事業界のBIM標準化に乗り出した。その狙いとは何か。同社でDX推進本部を管掌する横手敏一取締役CDXO常務執行役員と、戦略的提携の覚書(MOU)を結んだオートデスクの鴻野圭史社長、羽山拓也技術営業本部建設業界担当エンジニアリーダー、BIM導入支援を担う応用技術の船橋俊郎社長、高木英一執行役員DX推進本部長の5人に、施工段階における設備BIMの向かうべき道筋を聞いた。

--提携のきっかけは

高砂熱学工業 横手敏一氏

 横手 5年ほど前から高砂熱学工業ではBIMの調査、研究を始めた。建物を引き渡した後、運用管理段階でもグループ全体として付加価値を提供する枠組みを模索する中で、ライフサイクル(LC)全体を見据えたビジネスが、各プロセスを一貫してデータでつなBIMの考え方と一致し、当社として本格導入を決めた。ソフトを比較検証し、2021年6月にオートデスクのRevitを標準ソフトに定め、MOU締結に至った。
 鴻野 高砂熱学工業との提携は、社外的にも社内的にもインパクトがある。これをきっかけに日本の施工段階における設備BIM導入への追い風は強まるだろう。われわれのビジネスの観点から見ても国内設備企業との連携は初の試み。オートデスクはテクノロジーの会社であり、顧客のニーズに応え、より良い製品を開発することが使命である。導入サポートや教育についてはパートナー企業の応用技術と連携して取り組む。
 船橋 社を挙げて支援する。Revitを使いこなす人材の教育サポートに並行し、Revitを効果的に使うための支援ツールの開発も進める。近年、応用技術のBIMコンサルティング部門にはデジタライゼーションへの移行に関する相談が増えており、BIMを出発点にデジタル戦略に向かう流れが具体化しつつある。プロジェクト関係者の垣根は薄れ、ともに効率化を突き詰めようという時代が来る。設備工事業界では高砂熱学工業が先陣を切った。

オートデスク 鴻野圭史氏

 横手 高砂熱学工業が重要視するDXのキーワードの1つに「つながる」「つなげる」がある。当社だけでなく、設計から施工、そして維持管理に向け、建物のライフサイクル全体を通してBIMデータがしっかりと流れるようにしていきたい。縦の流れに加え、業界としての横のつながりも意識する。1つの共通言語としてBIMが動き出せば、業界として生産性や品質・安全性が上がり、さらには利益効果も高まる。労働時間の上限規制が始まる24年が迫る中で、働き方改革も推し進めることができる。

高砂熱学とオートデスクが目指す「設備BIM」の未来プラン


--横のつながりをどう作っていくか

オートデスク 羽山拓也氏

 横手 施工段階における設備BIMの標準化に対し、業界の仲間と一緒に基盤づくりを進めていきたい。共通言語でプロセス改革を推し進めることができれば、いろんな視点から価値提供ができ、業界として社会全体に対しても貢献できる道筋をつくれると考えている。関係者とともに非競争領域の議論をスタートしたところだ。
 羽山 オートデスクが支援しているRevitユーザーグループ(RUG)の中で、 標準化に向けた共通課題の整理が加速している。105社が参加するRUGの中で設備分野に関連するのは80社超にも及ぶ。設備工事会社だけでなく、 ゼネコンや設計事務所、さらには協力会社の設備担当も含んでいる。設備BIMの議論は先行していた設計段階から施工段階に移行しつつある。 高砂熱学工業の担当者はファミリ整備分科会のリーダーも担っており、そこを出発点に施工段階の設備BIMの在り方を議論していくことになる。
 高木 建物の機能として、室内の快適性やエネルギー消費の最適化を担う設備分野の役割は重要であり、BIMを建物データベースとして捉えた場合も、そこに設備のデータが入っているか否かでBIMモデルとしての価値は変わってくる。高砂熱学工業の目指すBIMは3次元モデリングを前提としたつくるBIMの捉え方ではなく、業界の標準化を前提に使うBIMを展開しようとしている。

応用技術 船橋俊郎氏

 鴻野 オートデスクでは関係者間で情報共有、コラボレーションできるクラウドベースのプラットフォーム『BIM360』などのソリューションを取りそろえている。最終的にプロジェクト関係者だけでなく、設備業界としてのつながる場として貢献できればと考えている。業界としてメリットを享受するには業務の標準化が必要であり、プロセスの定義も見える化しないといけない。これまでの流れを変えたくない考えも当然あり、そこを乗り越えるのは大変な作業であり、そこを応用技術が担っていくことになる。
 船橋 注目すべきは、高砂熱学工業が設備専用CADではなくRevitで建物モデルのワンモデル化を進めていくことだ。ワンモデルのワークフローを構築することで設計変更にも迅速に対応でき、その情報を工場につなげることができれば、BIMを軸としたサプライチェーンも実現する。それを物流にも連動することで、将来的には同業各社と連携した共同調達の流れにも発展することだろう。
 横手 実は、高砂熱学工業では「T-Base」という施工オフサイト化の取り組みを進めている。設備業界内でBIM標準化が整えば、工場での一貫生産が可能になり、生産量が増えれば製品コストも下がる。データ標準化によって品質・安全も担保でき、脱炭素の視点からも効率よく環境に優しく生産もできる。われわれはBIMをきっかけにDXを推進する。DX推進のコンセプトのもう1つには「わくわく感」があり、その意識を業界全体として感じることができれば、働き方改革も大きく前進するはずだ。
 鴻野 オートデスクが提供するプラットフォームも「つながる」がキーワードだ。つながるBIMを実現する上で、われわれ自身もプロダクツの企業から、プラットフォームを提供する企業へと進化している。まさにRevitは出発点であり、その先に「つながる」ために当社は幅広いソリューション展開に力を注いでいる。
 横手 今後はオートデスク、応用技術と議論を深めていく。場合によっては提案されたプラットフォームに対して、われわれ自身が変化適応し、従来の流れを変えるパラダイムシフトを実現する必要もあると思う。柔軟に最善の選択をしていきたい。一歩ずつ着実に進む。施工段階における設備BIMの未来を、2社とともに追い求めていきたい。

--具体的な連携成果は

応用技術 高木英一氏

 横手 空調設備の部分で、標準化の第1弾となる共通プラットフォームの構築をほぼ完了した。当社ではそれを実プロジェクトで使っていく。
 羽山 RUGに対して、当社から意匠、構造、設備の各分野でサンプルモデルを提供している。空調設備の施工モデルについては高砂熱学工業の成果の一部を公開しているように、RUGの中でも設計と施工がどうつながるかという非競争領域の議論がスタートしている。
 鴻野 海外でもそうだが、 非競争領域の議論が広がり、 その成果が出てくれば、BIMのデータ連携環境は新たなステージに向かう。 高砂熱学工業の動きは日本の設備業界として将来に向けた転換点と言える。
 高木 日本では2、3年前から非競争領域の議論は広がり始めた。 高砂熱学工業のように最初から非競争領域を見据えてBIM導入に舵を切る動きは少ない。 設備BIMにおける業界標準化の議論は、 高砂熱学工を出発点に広がりを見せるだろう。
 横手 まだ、最初の一歩への道筋をつくり始めたところだ。社内の議論では若手を中心に新たな発想を積極的に検討しようとしている。その道筋をつけるのが私の役割だ。地球環境に貢献する「環境クリエイター」を目指す当社は、今後、23年に迎える創業100周年を通過点に次の100年に向け、当社のパーパス(存在意義)とは何かを議論していく。BIMを出発点に突き進む当社DXは、環境やエネルギーに対し、これまでとは違う形での社会への貢献ができると期待している。

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