「こっちこっち」「クランプ持ってきて」。方々から掛け声が飛び、カン、カンと金属同士がぶつかる甲高い音が、冬の空に響いていた。爽やかなターコイズブルーのヘルメットをかぶって、真剣な表情で単管パイプを組み上げていたのは、海外にルーツを持つ技能実習生たちだ。この日は、所属する向井建設が隔週で開く講習会の日。一月前に来日したヘインさん(22歳)は、「最近締め方を覚えた」と話しながら、慣れた手つきで足場板を結束していた。
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ミャンマーの旧首都ヤンゴン出身。東南アジアに位置する同国は近年、政治や社会が大きく揺れ動いている。
ヘインさんは地元で高校・大学と進学し、弁護士を目指して法律の勉強に励んでいた。そうした中で起きたのが、2021年の政変だった。国内情勢は大きく変化した。
学び続けたい気持ちはあったものの、「先の見通しは立てにくかった」。不安の中、進路の見直しを迫られた。思案の末、4年生に上がる直前に大学を退学。新たな道として、日本で技術を磨くことを選んだ。
来日後、ほかの実習生たちとの寮生活が始まった。慣れない生活に戸惑うことも多かった。ミャンマーに残る親、姉や妹の安否も気になる。「はじめは何よりさみしくて、帰りたいと思ったこともあった」
その一方で、職場や寮の仲間は温かく接してくれた。
日々の様子を尋ねると「ついこの間、番線で結束作業をしていたら、職長から褒められた。先日はナットの締め方も教わった。職場のみんなは、とても優しい」と笑顔がこぼれた。
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現在は東京都品川区の新築オフィスビル現場で日々、修行を重ねる。日中は汗を流し、週末は日本語の勉強に励む。目下の目標は「一度に多くの部材を運ぶこと。まだあまり持てなくて……」。くしゃっと笑う顔は、どこかあどけない。だが今は、はっきりとした夢があるという。
「仕事が上手になりたい。技術を覚えて、自分の建設会社をつくる。いつか、平和になったミャンマーで」
思いどおりにならない現実の中で、それでも前を向く。爽やかな笑顔の奥には、静かな強さが宿る。
