【現場最前線】37回もテレビでBIM会議! "段取り勝負"で挑む「釜石市民ホール(仮称)」 | 建設通信新聞Digital

4月20日 土曜日

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【現場最前線】37回もテレビでBIM会議! “段取り勝負”で挑む「釜石市民ホール(仮称)」

最難関の大ホールではトラス鉄骨の架設が進む

 東日本大震災で甚大な被害を受けた岩手県釜石市。その中心市街地に、市民文化の新たな総合支援拠点となる復興のシンボル、「釜石市民ホール(仮称)」の建設が進められている。施工は戸田建設・山崎建設JV。大量の地下水と地中障害に苦闘しながらも「常に先を読み、できることを前倒ししていく」という関宏和作業所長(戸田建設東北支店)の舵(かじ)取りのもと、工事は折り返し地点を過ぎた。「後世に引き継ぐ誇れる仕事をしよう」を合い言葉に、一丸となって今後、最難関となる大ホールの仕上げ工事に挑む。 市民ホールは、街なかに賑わいを創出する「フロントプロジェクト1」の中核施設。838席の大ホールは可動床と移動観覧席を装備し平土間式の小ホール(208席)、共通ロビーとフラットにつながり、多様な市民ニーズに対応する。先行整備した「釜石情報交流センター」を含め、設計はaat+ヨコミゾマコト建築設計事務所が担当した。市は建設に当たりECI(アーリー・コントラクター・インボルブメント)方式を導入。戸田JVは簡易公募型プロポーザルで選定され、実施設計段階から参画した。
 2015年12月に開館した情報交流センター工事では地下水位の高い地盤に苦労を強いられた。1m弱の掘削深さで大量の出水が発生。「地下水というより地下に急流があるようなイメージ」と関所長は振り返る。地中障害もあり杭工事では創意工夫を重ねて難条件を克服した。
 こうした経験を踏まえ、15年10月からスタートした市民ホール工事では、シートパイルの止水効果を試掘によって検証・確認した上で慎重に基礎工事を進めた。狭あいな敷地いっぱいに展開する施設配置のため、鉄骨建方は3工区に分け、200tと90tのクローラークレーン2基で効率よく建て逃げていった。RCとSRC、Sが複雑に絡み合う構造で「RC躯体ができないと鉄骨を建て込めない個所もある」など、まさに「施工手順が工程のみならず品質確保にも直結した」とも。
 このため全体工程をステップ1から10まで分け、「各段階で何をやるのかをビジュアル的に理解できるよう工夫した工程表」をつくり意識とイメージの共有を徹底した。BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)の導入も「大きな手戻りにつながるような問題を事前に解消し不整合をなくすことに大きな効果を上げた」と強調する。

作業所にあるホール内部の モックアップ

 テレビ会議形式によるBIM会議はこれまでに37回を数える。中心課題となったのが、大ホールの内装仕上げだ。音響特性を考慮して波形の形状とした壁・天井の集成材パネルは、原寸のモックアップを作製して取り付け方法や部材の納まり、目地や照明、スプリンクラーの設置個所、色合いなど「一つひとつ形にし、長く使い続けていく上で、あらゆるケースを想定しながら検証・確認」を繰り返した。
 「きれいにかっこよく」も合い言葉の1つ。場内では作業員一人ひとりに明るく声をかけ、誰よりも素早くごみを拾う関所長の率先垂範に、職長会「鐵1(てつわん)会」も「東北で一番の現場にするために誇りを持って妥協せず無限の可能性を追求しよう」をスローガンに掲げて応える。木村英史会長(向井建設)は「これほど敷地のない現場は経験したことがない。まさに段取り勝負。だからこそやりがいもある。安全を先取りしながら、いつまでも語り継がれるような品質の高いものを造りたい」と力を込める。

現場全景

 3月17日現在での工事進捗率は50%。ステップ9として舞台スノコのトラス鉄骨と大ホールのトラスシーリングスポット鉄骨の架設が進む。つり足場を全面的に設置し、フルフラットな作業環境でホール仕上げの施工効率と精度を確保していく。ほぼ全容を現した釜石の新たな「顔」に市民の期待も高まる一方だ。10月末に待望の竣工を迎え、年末には市民に長年親しまれてきた「かまいしの第九」がホールに響き渡るだろう。

◆工事概要
▽発注者=釜石市
▽設計・監理=aat+ヨコミゾマコト建築設計事務所
▽施工=戸田建設・山崎建設JV
▽規模=RC・SRC・S造地下1階地上4階建て延べ6955㎡
▽工期=2015年10月16日-17年10月31日
▽敷地面積=5293㎡
▽建築面積=4617㎡
▽建設地=岩手県釜石市大町1-1ほか

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