大会は2000年、技術伝承や人材育成を目的に、とび・土工の技能競技会として始まった。当初は毎年開催していたが、18年から4年に1度に変更。現在の競技種目は、型枠やショベル操作など躯体工事全般に関わる六つ。
この日の参加者は、過去3年間の予選大会上位入賞者71人。若手からベテランまで全国各地の腕自慢が集結し、作業の安全性や所要時間、精度や仕上がりの美しさを競い合った。
ギャラリーには選手の家族のほか、トップレベルの職人技を生で見ようと、業界関係者や建設専攻の学生も多数訪れ、単日開催で600人超が足を運んだ。
緊張はねのけ優勝/子供の声援を力に/佐川海音さん(力丸建設)
「相当に緊張してました。昨晩はたぶん、全然寝られてないと思います……」。不安が入り交じる表情で夫の勇姿を見つめていたのは、とび2級競技で2023年予選会のチャンピオン、今回の本大会でも優勝を狙う佐川海音(25歳)さんの妻、亜沙菜さんだ。家族が見つめる中、本部テントから「始め」の合図が響く。パイロン1本を隔てて数m先のギャラリーから「パパがんばれ」と声援が飛んだ。平置きした父親の工具用キャリーケースに応援席を陣取った3兄弟の末っ子でこの日の応援団長、冴玖くん(4歳)が力いっぱい、声を出していた。
声援を受けた佐川さん。サングラス越しに表情が引き締まる。間くばりを終えると、間髪入れずにコンベックスを伸ばして墨出しが始まる。厳しい視線は、常に次の作業に向かう。単管パイプを組み上げると、手首のスナップを利かせて高速で締め上げる。あっという間に、課題の単管小屋が完成した。
大好きなお酒を2週間断って臨んだ本大会だった。結果は90分の制限時間に対して、54分でフィニッシュ。予選会で記録した、1時間5分の自己記録を10分以上短縮でき、「1時間を切ることが目標だった。思った以上にできた」と安堵(あんど)を浮かべた。採点の結果、総合点でトップ、見事優勝に輝いた。
一仕事が終わり、パパ、パパと連呼する子どもに笑顔を見せる。家族に囲まれ、「今日ぐらいは家族で外食。たくさんお酒が飲みたい」と父親の顔がのぞいた。
職人を見る目は変わってくる/遠藤和彦代表取締役会長
「AI(人工知能)が普及する中、手でモノをつくる現場の力は再認識され始めている。職人を見る目は今後、変わってくると思う」。閉会式で壇上に立った遠藤和彦代表取締役会長は、新たな時代の到来に期待を寄せた。
千葉県の職業訓練施設で始まった大会は今回で足掛け26年。技能伝承を通じた次世代の人づくりを目的にスタートし、近年は業界の魅力を外に発信しようと、一般にも大会を公開している。
会場には模擬店が軒を連ね、スタンプラリー、一般・学生向けの案内ツアーなど、工夫を凝らした催しが並ぶ。
今大会では、2024年のミス日本「水の天使」で女優の安井南(クリエイティブ・ラボ所属)さんもゲスト来場し、大会に華を添えた。
ただ、大きくなればなるほど気になるのが費用負担だ。私鉄2路線の最寄り駅にピストンバスを走らせ、道中には誘導棒を持ったスタッフが大勢待機。飲み物や軽食も無料で提供する。なぜ、そこまでするのか--。背景にあるのが、軌道に乗せるまでの地道な下積みだ。
遠藤会長自身、住宅街の一角で開催した際には、一軒一軒、あいさつに回ったという。ビラを片手に駅前で1枚1枚、案内を配ったこともある。だからこそ、大切に続けたい。
「大会は、建設産業の魅力向上に必ずつながる。子どもたちの中から建設業に進みたいという人が現れれば」。こう明かした上で、予選会を含む4年間を振り返り、「大成功に終わったと思う。皆さんのご協力に心から感謝申し上げる」と場を締めた。
大会支える縁の下の力持ち/オレンジのコンシェルジュも活躍
鮮やかなオレンジ色のビブスを着て対応していたのは、大会を陰で支える「コンシェルジュ」たち。当日、100人以上の一般来場者が訪れたが、こうしたギャラリーに競技の見どころなどを分かりやすく伝えるスタッフだ。この日は、10人が会場を巡回した。「トイレの場所も結構尋ねられますね」と話したのは、建築部部長の吉野元さん。「審査基準は」など、鋭いツッコミをしてくるのは「どちらかというと来賓の元請けさんで、やっぱり見ているところが違う。僕らも全部覚えているわけではないので」と苦笑いした。
そう話す頭上で、強烈なファンの音が鳴る。カメラを積んだドローンが飛び回っていた。会場各所にも三脚付きのビデオカメラが設けられ、担当スタッフがレンズを競技者に向けていた。
「仕上がりは同じでも、組み方はそれぞれ少しずつ違う。細部の技能伝承はこれまで、『師匠から弟子へ口頭で』が中心だったが、それでは、班の解散と同時に技術も途絶えかねない。技術を後世に残すため、記録を残しているんです」と口元を引き締めた。
技能オリンピック入賞者一覧
各競技の入賞者は次のとおり(敬称略)。
〈とび1級小屋組競技〉1位=布施龍一(向井建設建築直轄施工部船橋グループ)▽2位=佐々木健太(向井建設東北支店岩手営業所戸塚班)▽3位=奥山弘(大沼工業)
〈とび2級小屋組競技〉1位=佐川海音(力丸建設)▽2位=海藤聖夜(向井建設東北支店宮城営業所佐藤班)▽3位=酒井斗夢(向井建設建築直轄施工部技能グループ)
〈仮囲い競技〉1位=小林裕一、佐藤芳人、本橋壱真(渡辺工業)▽2位=福岡裕昭、山口和也、ナラン・バタラル・ドルゴーン(橋爪建設)▽3位=佐藤誠二、ケトウト・ジュリアルタ、イ・グデ・バユ・スリヤ(加々美組)
〈玉掛け競技〉1位=堤浩二郎、堤陽桜、武田凪矢(堤工務店)▽2位=大泉賢悟、山口大輝、幡野紳也(大空興業)▽3位=斉藤簾、武田翔太、吉澤哲二郎(YG)
〈油圧ショベル・オペレーション競技〉1位=井上聡(向井建設東北支店土木工事部)▽2位=野村健太(ヒラノ重機)▽3位=五十嵐尊治(向井建設機材部)
〈型枠「片持階段」組立競技〉1位=宮原崇人、本間健司(向井建設土木統括部型枠施工グループ)▽2位=石田将吾、遠藤碧(向井建設土木統括部型枠施工グループ)▽3位=佐藤健一、廣瀬由輝(向井建設土木統括部型枠施工グループ)
〈向井建設大会特別賞〉安部証二郎(向井建設東北支店青森営業所對馬班)
〈向井建設会長賞〉布施龍一(向井健津建築直轄施工部船橋グループ)
〈向井建設社長賞〉丸山和(第一建設)
〈徳友会会長賞〉佐藤健一、廣瀬由輝(向井建設土木統括部型枠施工グループ)
〈雄翔会会長賞〉佐藤誠二、ケトウト・ジュリアルタ、イ・グデ・バユ・スリヤ(加々美組)
〈職長会会長賞〉齋藤彪翔(向井建設建築直轄施工部技能グループ)




