採用危機からの反転攻勢
ピーエス・コンストラクションは、2025年度入社の新入社員数が前年度の41人から26人まで落ち込むなど、採用活動で厳しい局面に直面した。しかし、当時の森拓也社長(現会長)の号令の下、全社を挙げて採用活動を強化。その結果、26年度入社では前年度比33人増の59人を確保し、V字回復を果たした。同社は何を変え、どのように動いたのか。採用改革の最前線に立った山田雅史管理本部人事部長に話を聞いた。
“三菱”が消えた
「採用数急減の最大要因は、社名変更に伴うブランド力の低下だった」。山田部長は率直にそう切り出す。同社は大成建設グループへの移行に伴い、長年親しまれた社名「ピーエス三菱」から「三菱」の名が外れた。この変化が、学生の動向に如実に表れたという。会社説明会への参加者数は前年並みだったものの、選考段階になると応募者が大幅に減少した。
「それまでは『三菱』で企業検索をしていた学生が多かった。結果として母集団形成の段階から漏れてしまったのではないか」と語る。
さらに、「三菱グループを離れることへの不安や、大手グループの下請けになるのではないかという懸念を抱く学生も少なくなかった」と指摘する。内定を出しても辞退率は高く、社名変更が採用活動に大きな影響を及ぼした。
この危機に対し、当時の森社長は「採用は当社の最重要課題。やれることは何でもやる」と全社に号令をかけた。そこで打ち出されたのが、全員参加による採用活動だった。森社長は、自ら先頭に立ち、役員や支店の管理部門だけでなく、現場社員にも「時間があれば母校を訪問してほしい」と呼び掛けた。その結果、多くの社員がリクルーターとして活動したという。
単に学校を訪問するだけでなく、一次選考から内定までのフォローを徹底。前年とは比較にならないほど学生一人ひとりと向き合った。
山田部長は「こうした草の根活動が、採用数回復の最大の原動力だったことは間違いない」と断言する。
初任給フィルターの壁
一方、山田部長はデジタルネイティブ世代である現在の学生の就職活動の変化にも着目していた。「今の学生は大手就職ナビサイトで条件検索を行う。特に初任給は重要な指標で、『30万円』という水準が一つの目安になっている。企業研究を始める前の段階で、給与条件による絞り込みが行われている。初任給が一定水準を下回ると、企業の魅力を伝える以前に候補から外れてしまう」という厳しい現実を指摘する。
そこで同社は25年度入社から初任給30万円への引き上げに踏み切った。売上規模が近い同業他社に先駆けて打ち出したことが、V字回復の一つの要因となった。
「学生に聞けば建前では『関係ない』と言う。しかし実際には給与水準を比較し、そこで企業をふるいにかけている。初任給30万円は、まず土俵に上がるために必要な戦略だった」と山田部長は冷静に分析する。
日建協超えの賃金ラインに
採用強化と並行し、同社は賃金カーブの見直しにも踏み込んだ。若手の給与を引き上げれば、中堅・ベテランとの逆転現象が生じる。同社はこれを機に、全世代の賃金テーブルを抜本的に見直した。山田部長は「単なる“初任給競争”に参加するのではなく、入社後も業界トップクラスの待遇で働けることを示したかった」と採用だけではなく、その後の定着にも心を配った。
そのため、日本建設産業職員労働組合協議会(日建協)の賃金データを参考に、ほとんどの年齢層で平均を上回る給与体系を整備した。
この改革により25年度の賃上げ率約10%増加に引き続き、26年度の改定による賃上げ率も最も課題としていた中堅層で約10%以上、全体でも約7%増を見込んでいる。
「人件費の増加を心配されることもあるが、この投資を行いながら最高益を出せている。人への投資が次の利益を生む。その好循環を信じている」と力を込める。
今後はさらなる広告戦略によるブランディング強化に加え、AI(人工知能)やDX(デジタルトランスフォーメーション)の活用による業務効率化も進める方針だ。ただ、その先に見据えるのは単なる効率化だけではない。
「AIで効率化して終わりでは意味がない。それによって生まれた時間を使って、社員にはさらに付加価値の高い仕事に挑戦してもらいたい。そのためのリスキリング教育にも力を入れていく」と次なる方向性を示す。
また、持続的な採用につなげるため、同社の強みであるPC(プレストレスト・コンクリート)技術を軸に、大学研究室とのアカデミックな連携強化も進める考えも明かす。
その上で山田部長は次のように語る。
「大成建設グループの中でも、常に独自の存在感を発揮する会社であり続けたい」
採用数の激減という厳しい局面に直面した同社。しかし、全社一丸となった採用活動と人への積極投資によって巻き返しを実現した。独自技術と人材力を武器に、次なる成長ステージへ歩みを進める。



