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超高層ビルの少なかった渋谷は再開発により、路面店と高層ビル、自然が溶け合ったダイナミックな空間へとめざましい変貌を遂げている。渋谷の再開発事業を統括する東急の嶋田貴司渋谷開発事業部開発計画グループ総括担当課長は、「いまの渋谷は“競争と共創”によって生み出されている」と新たなまちづくりの在り方を説明する。嶋田課長と田村圭介昭和女子大教授、渋谷スクランブルスクエアの施設計画を担当する東急の榎本直信渋谷開発事業部開発推進グループ施設計画担当主査の3人に、「常に進化し続ける渋谷の魅力」を語ってもらった。
--渋谷のまちの魅力とは
榎本 ダイナミックな景観と言えば、“見上げている人”が多いまちだなと感じています。普通、まちを歩くときは漠然と前を見ている人や携帯を見ながら下を見ている人が多いと思いますが、渋谷のまちではなんとなく立ち止まって見上げていたり、まちや建物の写真を撮っていたりする人が多い気がします。
渋谷ヒカリエをはじめ、渋谷スクランブルスクエアなどの建物群のデザインにそれぞれ特徴があることはもちろんですが、サイネージに囲まれていたり、そのサイネージとビルの隙間からきれいな夕焼け空が見えていたりと、近未来的な光景と自然が絶妙に絡まり合って魅力的な空間になっているからこそ、立ち止まって見上げるのだと思います。
--渋谷駅周辺再開発で既に完成した施設が数多くありますが、利用者の姿を見て感じることはありますか
嶋田 例えば、渋谷ストリームの開業後は大きく人の流れが変わりました。昔は高架下の薄暗い空間で、特に夜の人通りはほとんどありませんでした。渋谷ストリームの開業後は広場と渋谷川沿いの遊歩道「渋谷リバーストリート」が整備され、憩いの水辺空間としてにぎわいが生まれました。
田村 ただ、それは難しいところです。過去を知らない人たちもいます。僕らは過去と比較できるから素晴らしいと言える。しかし、いまの若い人は比較できない。いまを見て判断する。利用者はできたところからがスタートで、それを考えることは設計の難しさでもあります。
渋谷の歴史を考えると、いまは新しいフェーズにあると思います。これまでほとんどなかった超高層ビルが生まれてきたことを考えると、いままでなかったものが生まれてきてもいいと思います。例えば、異なるビルのオフィスの人同士のつながりが生まれていくなど、立体的なつながりが生まれると良いかもしれません。
--渋谷の再開発を進めていく上でチャレンジングなことを数々行っていると聞きました。具体例を教えてください
榎本 渋谷スクランブルスクエアの展望施設「渋谷スカイ」は挑戦の連続でした。高層ビルの屋上にあれだけ大規模な屋外型展望施設をつくるというのは前例がなかったのです。
嶋田 これまで東急が渋谷で手掛ける開発には文化的な魅力付けがなされてきました。例えば、渋谷ヒカリエであれば大劇場「東急シアターオーブ」、セルリアンタワーであれば「能楽堂」というように、渋谷に少なかった文化的な施設を入れているのです。しかし、渋谷スクランブルスクエアは駅の真上かつ共同事業ということもあり、そうした特徴的な施設は計画していませんでした。
榎本 通常の高層ビルと同じ、人が出られない普通の屋上でした。
嶋田 そこで皆で知恵を集め、渋谷のど真ん中で面白いことをやってやろうと。
榎本 屋上に展望施設をつくることは決まりましたが、それを形に落としていく作業は本当に大変でした。そこでどんな体験をしてもらいたいか、そのためにはどんな空間が必要か、安全対策やオペレーションはどうするかなど。渋谷のまちの地上230m、360度開放的な空間で風を感じながら寝転がって自然を見られる空間をつくりたいと考えました。
建築的にも前例のない施設だったため、数えきれないほどクリアしなければならない課題がありました。しかし、関係者で何度も何度も議論を重ね、いろいろな方からアドバイスをいただいて、何とかまとめることができました。
嶋田 普通こんなに大変なことはやりません。しかし「より良いものをつくりたい」という思いが皆の中にありました。われわれのDNAだと思います。渋谷の新たな観光地として喜んでいただけて、チャレンジしたかいがありました。
--この流れで、渋谷スクランブルスクエア第II期(中央棟・西棟)の未来像を教えてください
榎本 実はまだ決まっていないのです。あえて決めていないと言った方が正しいかもしれません。渋谷はこれからどんどん変わっていく場所なので、いま考えたものが完成したときに最旬かと言われればそうではないはず。そのため、“世界最旬宣言”や“ASOVIVA”といった共通のビジョンやコンセプトはありますが、その時の最旬、“最高に楽しいもの”を入れていきたいと考えています。
嶋田 できるだけ可変性を持たせたいと思っています。床を抜いて2層で大空間を設けても良いですし、今の段階で用途を決めきる必要はない。
田村 フレキシブルな空間にするということですね。
嶋田 はい。昔、東急百貨店東横店の上階は「ひばり号」があって、増築後は大劇場「東横ホール」ができて、レストラン街に改装されてとさまざまな姿に変わってきました。時代に合わせて変わっていくというのが渋谷の駅ビルの歴史です。これだと決めず時代に合わせて変えられるようにしていきたいです。
通常は用途を決めてから設計して工事に入ります。しかし、渋谷駅のど真ん中でやるので、それくらいの覚悟で僕らがやらなきゃどうするのって。完全に東急のDNAですね。毎日のように担当者同士で何が良いか意見をぶつけ合っています。
--どのような渋谷を目指していくべきだと思いますか
嶋田 少し前まで、渋谷駅前の大型商業施設は東急と西武くらいでした。しかし、ここ数年で大手デベロッパーも渋谷に魅力を感じ、参画している状況です。複数のデベロッパーが渋谷のフィールドでせめぎ合うからこそ競争が生まれ、お互いに刺激になっています。
田村 競争というお話を聞いて、1960-80年代の東急グループVS西武・セゾングループという構図を思い出しました。競争がなければ良いものは出てこないので、わくわくします。
嶋田 当時と少し異なるのは、VSだけではないことです。もちろん競合ではあるのですが、さまざまなプレーヤーが混在する中、一部のプロジェクトでは共創することでさらに渋谷の魅力を高めています。ほかのエリアではあまり聞かないかもしれません。それは、皆が渋谷らしいかっこいい空間をつくりたいから。渋谷の魅力がそう思わせてくれるのかもしれません。日々、競争しながら共創しています。
田村 重要なことだと思います。
嶋田 さまざまな人が思い描いたものが重なり合って、「やっぱり渋谷っていろいろなものを受け入れてくれるよね」となるのだと思います。渋谷って単調じゃない。おしゃれな若者、スーツのビジネスマン、学生、観光客など、いろいろな人が混ざり合っている日常が渋谷なのです。
それぞれが「こういう渋谷を育てていきたい」という思いはエリアごとにはあるかもしれませんが、オール渋谷で見たらいろいろな人の思惑でいろいろな渋谷ができ、一つに合わさって渋谷ができていくのかな。
榎本 いまの若者が60、70、80歳になってもずっと渋谷に来たいと思えるようなものを提供し続けられる場所にしたいです。一人の人にずっと来てもらえるまちができたら、渋谷の新たな一面が見えてくるはずです。
田村 ずっと変化し続けてほしいです。渋谷はこれまでずっと変化し続けていて、それが一つの大きなDNA。変化し続けているからこそ魅力が生まれているのだと思います。つくり変えたところからが渋谷の新しいスタート。いまは、次のステップを考えていくタイミングでもあります。
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