【動画ニュース・進化続ける渋谷の魅力(上)】田村昭和女子大教授と東急百貨店東横店南館の解体現場を見学 | 建設通信新聞Digital

5月3日 金曜日

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【動画ニュース・進化続ける渋谷の魅力(上)】田村昭和女子大教授と東急百貨店東横店南館の解体現場を見学

 

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 若者やオフィスワーカー、外国人など多様な人々が集まる、東京・渋谷。東急東横線渋谷駅の地下化が転機となり、100年に一度と言われる渋谷駅周辺再開発が始まった。2012年開業の渋谷ヒカリエを皮切りに、渋谷ストリームや渋谷スクランブルスクエア第I期(東棟)など、まちに魅力をもたらす新スポットが続々と誕生している。転換点にある渋谷を舞台に、渋谷の過去といま、未来を2回に分け深掘りする。今回は、渋谷駅研究の第一人者として知られる田村圭介昭和女子大教授とともに、解体工事中の東急百貨店東横店に潜入し、建物の秘密を解き明かした。

田村教授(左)と北村課長

◆昔の姿が想像できる貴重な体験
 東横店の歴史は1934年開業の東横百貨店(東横店東館)から始まった。その後、4階建てだった玉電ビルを東急会館(東横店西館)と改名の上、11階建てに増改築し、54年にオープン。百貨店の下に地下鉄銀座線や玉電(旧東急玉川線)ホームがある建物で、当時は日本一高いビルでもあった。70年にはランダムサイズの縦長窓ファサードが印象的な渋谷駅西口ビル(東横店南館)が開業する。
 東急会館と西口ビルを含め、渋谷駅周辺の数多くのビルの設計は建築家・坂倉準三が手掛けており、これまでの渋谷のまちの景色は坂倉が形づくったと言えるかもしれない。
 現在渋谷駅では、大規模再開発に伴い、2020年3月に閉店した東横店の西館と南館の解体工事が進められている。解体工事や駅周辺の都市基盤整備を担当する東急の北村健太郎渋谷開発事業部開発推進グループ都市基盤整備担当課長の案内のもと、南館の解体工事現場を見学した。

黒色になっている大階段の天井部

 南館2階の駅そば店「本家しぶそば」跡地からスタート。そのすぐ脇には3階のJR中央改札へとつながっていた大階段が見える。まず田村教授が注目したのが大階段の天井の色だ。どうして天井に黒い色が塗られているのか疑問に感じたという。解体前のこの場所には白い天井板が張られていたためだ。
 「もともとの内装塗装が黒色でした。当時は設備などを入れず、(天井板のない)むき出しの状態で使っていた時代があったようです」との北村課長の説明を受け、「インテリアとして黒色にしていたのだろうか」と田村教授。

 この後階段を上り、銀座線渋谷駅の改札に直結していた3階の文房具屋「伊東屋」跡地を見学した。窓にはまだ「ITO-YA」のマークも残っていた。その後4階フロアに移動。室内にはほとんど何もなく、坂倉の縦長の窓のデザインが際立つ。
 田村教授が見学中、「この建物は鉄骨鉄筋コンクリート造ですか」と口にすると、北村課長は「そうです。青焼きの古い図面には鉄骨が入っています」と答えた。

4階から見える縦長の窓


 それを聞いた田村教授は「近代建築資料館に残っている坂倉建築研究所が作成した(南館の)建築の図面は鉄筋コンクリート造なのです。しかし、建設中の当時の写真を見ると鉄骨が建っている。設計変更があり、鉄骨鉄筋コンクリート造になったのでしょう。実はそのことを坂倉建築研究所に指摘したことがあるのですが、研究所は『本当だ。どっちだろう』と話していました」と振り返る。
 実際に青焼きの図面を見て「これは貴重。素晴らしい。こんな資料があるとは」と喜びを隠せない様子だった。
 また、西館と南館の青焼きの図面を見比べながら、「南館の図面のほうが現在の図面体裁に近いです。西館から南館の約20年の時間の経過の中で、日本の建設業界も図面の表現の仕方が変化していったのですね」と思いを巡らせていた。

 解体により屋上化した5階へと向かう途中、躯体がむき出しになった階段踊り場のデッドスペースに目をとめた田村教授は「解体が進んでいて分かったのですが、化粧板でふかして(仕上げ面を前に出して)湾曲のデザインをつくっていたのです」と教えてくれた。
 たしかにその他の階の踊り場は湾曲したデザインとなっており、解体によって躯体が見えていたからこそ分かった発見だった。

屋上化した5階。奧に見えるのが資機材の搬入出用タワークレーン

 北村課長は解体の進捗状況について「南館は5階部分まで解体を終えました。一時的にここで作業を止めているのは、JR東日本の駅改良に使う資機材ヤードとして利用しているためです。南館の地下に基礎をつくり、組み立てたタワークレーンで資機材の搬入出が行われています。JR東日本は23年1月に線路を切り替え、島式ホームに改良します。南館寄りのホームは使われなくなるため、それと併せて南館も解体していくことになります」と説明する。
 西館は、銀座線部分を除く両サイドは地上までほぼ解体が終わっており、23年の春には銀座線の上部と両脇の躯体を取り除く予定だ。以降は、東京メトロの工事として23年の終わりごろをめどに線路を北側に移設した後、24年の秋には鉄骨で線路を受け替える。その後、銀座線下部の既存躯体を解体し、新しい橋を架ける。
 北村課長は「時間がかかる作業ですが、一つひとつ丁寧に順を追って進める必要があります」と気を引き締める。解体後の跡地では27年度の完成を目指し、渋谷スクランブルスクエア第II期(中央棟・西棟)が整備される。ハチ公広場も現在より拡張され、生まれ変わる予定だ。
 見学を終えた田村教授は「これまで使ってきた渋谷駅の工事現場を見ていると、昔の姿を想像できるので感慨深かったです。昔の風景がなくなっていく過程を目にできたのは貴重な体験です」と話した。

青焼きの図面

◆事業者間の連携図り推進

 東急渋谷開発事業部開発推進グループ都市基盤整備担当課長の北村健太郎氏

 東京メトロ銀座線やJR山手線、埼京線が走っているため、鉄道の安全運行を確保しながら慎重に進める必要があります。また、多くのお客さまが解体現場内の通路をご利用されていますので、安全という観点で特に気を遣いながら工事を進めています。
 解体現場の周辺はハチ公広場など多くの人が集まる場所であり、銀座線や山手線、埼京線の運行もあるため、解体工事中の防護を確実に行うとともに、電車の止まる夜間をメインに工事を行うなど事業者間の連携を密に図りながら工事を進めています。
 まちができあがったときに地元の皆さまをはじめ来街される方々、行政の皆さまなどから「良いまちになったね」と言ってもらえるように力を合わせて取り組んでいきたいです。

■渋谷スクランブルスクエア第II期(中央棟・西棟)

▽事業主体=東急、JR東日本、東京メトロ
▽規模=〈中央棟〉地下2階地上10階建て、高さ約61m〈西棟〉地下5階地上13階建て、約76m。2棟総延べ約9万5000㎡
▽開業予定時期=2027年度



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