【JIA日本建築大賞】建築をつくることは"風景をつくること" 原田真宏氏・麻魚氏に聞く | 建設通信新聞Digital

4月19日 金曜日

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【JIA日本建築大賞】建築をつくることは“風景をつくること” 原田真宏氏・麻魚氏に聞く

原田麻魚氏(左)、原田真宏氏

 敷地から目に映る風景の中に形と材料を求めた「道の駅ましこ」で原田真宏氏・麻魚氏(MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO)が日本建築家協会(JIA)の「2017年度JIA日本建築大賞」を受賞した。「社会の要請に基づきながら、自然の理(ことわり)に適う建築をつくり、それを介して自然と社会を再びつなぐことが建築家の使命」(真宏氏)と語る2人に設計活動に込める思いと、これからの展開について聞いた。
 学生時代から「自然と社会のための建築のあり方を考えてきた」と語る真宏氏。麻魚氏も「建築は社会の中では長い時間軸を持つ。みんながずっとそこに居たくなるような地形のような建築をつくりたい」と話す。
 周囲の山並みになぞらえた地場産の八溝杉による屋根架構と、土地との連なりを示す益子土を使った左官の手による壁が空間に安定感と程良い変化を与える「道の駅ましこ」も将来的に用途変更に対応できる空間を備える。「社会からの要請は移ろいやすく、刹那的にもなる」(麻魚氏)ものであり、「1つのファンクション(機能)への瞬間最適は御法度だ。ある種のおう揚さ、機能を許容してくれる大らかさが必要となる」(真宏氏)からだ。

北側外観(撮影・北田英治)

 それは「なりわいまで考える対象であり、つくるだけではなく、使っていくプロセスも含めてその建築をより良くしていく」(真宏氏)ことにあり、自然の合理性から導くデザインが構造・材料・つくり方・コストすべての問題を同時に解くことで「最初期の提案から完成まで一気通貫する」(真宏氏)建築を生み出す。
 その原点は20年ほど前の真宏氏の修士論文「場所とモダニズム~その連続可能性について」に見られる。ある地域の竹と土でシェルターをつくり、地面に還すプロセスは、「よく知っている場所に、よく知っている材料とよく知っているつくり方で、よく知らない自分のための家をつくる。作り上げられたその家は、自分の似姿になる」(真宏氏)というもの。
 「コンセプトはいまもあまり変わらない」という真宏氏。麻魚氏も「外から持ってきた様式で解こうとせずに、翻訳する前の生の情報にそのまま接しながらつくることが大切」と同意する。「生の世界と付き合い、概念や言葉を導く詩人たちの姿勢こそ建築家のあるべき姿」(真宏氏)であり、麻魚氏も「知っているふりをしてつくってはいけない。自分でその場所を感じ取れるまで無心で待つことが大切。知識をブレンドするのではなく、抽出することが建築の面白さ」と語る。

内観(撮影・吉田誠/日経 アーキテクチュア)

 設計プロセスの多くは徹底したリサーチに費やされる。「言葉にできるもの、できないものを含めて条件を集め終わるまでは考えない。一定量の条件が集まれば結晶化する瞬間がある」(真宏氏)、「まわりの環境と対話しながら、すべてを受け入れて一発で解を見つける。どこまで正直になれるのか自分が試されるプロセス」(麻魚氏)という。
 麻魚氏は、セルフビルドや小さなものづくりを繰り返してきた過去を振り返り、「生きる時間の中でリアルな経験を少しずつ獲得し、それを次にアウトプットしてきた」と連続性を強調する。「それでも環境・状況を変換しているのは自分たち。そのどこかに残るフレーバーが作家性であり一貫性」(真宏氏)と語るように、理想の建築を発信しながら14年度に「Shore House」でJIA新人賞も受賞した。「作品を出すごとに建築のメジャーが少しずつ変化している」(真宏氏)という姿勢が強みであり凄みでもある。
 今後は、高層建築や空港・港などの設計にも意欲を示す。「風景に不満を持って始めた仕事。やらなければならないことは多い」(真宏氏)という2人にとって、建築をつくることは“風景をつくること”と同義だ。「環境になる建築は投げかけられた問を小さく切り分けてはいけない。背景を含めてすべて見た上で単純に応えつつも、それがあることで美しく見える、良く見える建築を考えたい」(真宏氏)と、自然と社会が調和する理想の景色を追い求める。

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