【本】すべてが"挑戦"だった 『マダム、これが俺たちのメトロだ!』著者・阿部玲子氏に聞く | 建設通信新聞Digital

4月23日 火曜日

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【本】すべてが“挑戦”だった 『マダム、これが俺たちのメトロだ!』著者・阿部玲子氏に聞く

 「いままでエンジニアとして発展途上国で仕事をしてきて、自分がつくっているものを、その国の方々が誇ってくれることが一番うれしい」。こうした思いが本書のタイトルに込められている。タイトルは、インドの街で偶然聞いた一言だった。「この言葉が、いまのわたしを支えている」と話す。
 著者の阿部玲子さんは、オリエンタルコンサルタンツグローバル軌道交通事業部プロジェクト部長として、またインド現地法人の取締役社長も務める。日本のODA(政府開発援助)で整備されたインド初の地下鉄「デリーメトロ」の建設現場で、同国初の女性土木技術者として現場を指揮してきた。

オリエンタルコンサルタンツグローバル軌道交通事業部プロジェクト部長兼インド現地法人取締役社長 阿部玲子さん

 当初、国際協力機構(JICA)から執筆のオファーを受けた際には、インドのメトロ事業を書籍にするのなら自分よりも適した人がいると思い断った。プロジェクトの軌跡だけでなく、「人」に焦点を当てたものにしたいとJICA担当者に説得され執筆を決意した。
 「この仕事に携わらせていただくまでには紆余曲折があった」とこれまでの自身の道程を振り返る。総合職で女性技術者の採用枠がほとんどない時代。父親の反対を押し切って入った前職のゼネコン時代から、エンジニアとしての海外赴任など、すべてが“挑戦”であった。そうした、女性土木技術者になるまでの軌跡も書き込んだ。そこには、建設コンサルタントの魅力や未来を担う若者へのメッセージも込められている。
 本書の読みどころの1つは、「安全管理」への対応だ。安全管理に関して世界一を誇る日本でさえ、さまざまな事故が起きる。『安全』は永遠のテーマ。
 世界最古の職業と言われている土木技術者。ゼネコンでの経験も踏まえて、「われわれは、先人が積み上げてきた知恵や経験、技術をもとに仕事ができている。そして、次の世代に1つでも多くのプラスアルファを付加して伝えていくのが私たちの仕事。『安全』について、少しでも何かできないか、伝えることができないか」との思いは日増しに強くなっている。
 現在は、メトロの事業を離れ、インドの新幹線プロジェクトに参加している。「日本の技術をすべて使った新幹線をきちんとつくり上げることが、エンジニアとしてのわれわれの一番大きな目標」と、プロジェクトを見据える。自身にとって「経験工学と言われる技術を、次の世代に伝えることもこれからの役割」とし、「どのように伝えていくかはこれから考えていきたい」と語る。
 「カレーは百薬の長!?」「映画熱」「女性ならではの安全確保」「インドのお土産」「インドのお年玉」…。本書は、「ショート・ストーリー」と題した自身の経験にもとづく37編の“インドガイド”のコラムも興味深い。「本当は、これが書きたかったんです」と笑う。

『マダム、これが俺たちのメトロだ! インドで地下鉄整備に挑む女性土木技術者の奮闘記』(佐伯印刷出版事業部、1,500円+税)
 JICA事業の軌跡と成果を読み物としてまとめた「プロジェクト・ヒストリー」シリーズ。人口13億人を抱え、急速な経済成長を遂げるインド。日本のODAで整備された同国初の地下鉄「デリーメトロ」は、都市部と郊外を結ぶ新たな高速輸送システムで、1日に222万人が利用するなど、市民の重要な足として親しまれている。本書は「質の高いインフラ」の代表的事例として知られるインドの地下鉄整備を取り上げ、現場を指揮したインド初の女性土木技術者の奮闘を紹介している。

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