【かわいい感性デザイン賞】最優秀賞は中野こども病院 「子どもにとっての大切」を設計に反映 | 建設通信新聞Digital

5月4日 土曜日

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【かわいい感性デザイン賞】最優秀賞は中野こども病院 「子どもにとっての大切」を設計に反映

 大成建設が設計施工を担当した真美会『中野こども病院』が、日本感性工学会の「かわいい感性デザイン最優秀賞」に選ばれた。気持ちが明るくなる“光の塔”を中心に、安全と安心、安らぎを散りばめ、治癒力と教育力を兼ね備えるサインなど、すべてが「何が子どもにとって一番大切か」という病院のポリシーを具現化し、来院者の感性に訴える病院を設計した建築設計第一部設計室プロジェクト・アーキテクトの大塚隆光氏と、綿密な事前ワーキングとなる「こども元気会議」を主導したライフサイクルケア推進部FM推進室次長の丸山玄氏に話を聞いた。

光の塔

 大阪市の住宅街にある中野こども病院は1966年に全国初の民間小児病院として開院。以来、半世紀以上にわたり無休で診療を継続してきたが、老朽化で50年が経過する前に建て替えを計画した。当時、入社間もなかった大塚氏は、配属された病院チームでコンペ案を担当。「同じような規模の病院に入院していた」自らの体験をもとに、スケール感やスタッフの動線を考えつつ、「既成概念を払拭することで怖くない病院、また行きたくなる病院を目指した」と、当初のコンセプトを振り返る。
 これまで担当したプロジェクトでは、「必ずエレベーターホール前に光を採り込んできた」と語る大塚氏。「患者やスタッフの気持ちが明るくなる病院」を実現するため、建物中央には「どこでも自然を感じられる」3層吹き抜けの“光の塔”を配した。手狭な敷地の内部に外部空間を取り込む提案は、「動線重視ではあり得ないが、これだけは譲れなかった」という。
 待合機能は光の塔を囲むように会話やスキンシップ、読み聞かせなど親子が自然に居場所を選べる“広場”としての仕掛けを提示。 子どもが利用する部屋の壁はすべて丸みをつけるなど、「細部まで安全を徹底した」という。「病院スタッフが積極的に表に出てきて患者とコミュニケーションを図る看守 (みまも)るスタイル」が、「病院は病気を治す修理工場ではない」という木野稔理事長兼院長のポリシーと共鳴し、高く評価された。

待合ひろば

 また、外観を特徴付けるガラスボックスの内部は、退院を控える子どもたちのプレイルームになる。プライバシーを確保しつつ、動物が動いて見えるスリットアニメーションを施し、「楽しそうな雰囲気を外部に見せる」ため、あえて道路に面した場所に配置。3次曲面で構成する雲形のひさしも柔らかな雰囲気づくりに一役を買っている。

プレイルーム


立面(東)夜景

 こうしたユーザーの本音が的確に反映された設計の前段には、定例会議とは別の「こども元気会議」による綿密な調査が奏功した。病院スタッフの本音を聞くための会合は、2011年3月から2年にわたり延べ15回行われ、10分野81項目にまとめられた。「単なる要望を羅列した“議事録”ではなく、誰もがその世界観に入りやすい“ストーリー”」が丸山氏の手によって仕立てられ、浮かび上がった課題に対する病院側、設計側それぞれの役割も明示。「共通概念を通じて、関係者の方向性が一致した」(丸山氏)と、設計者との役割分担による相乗効果を強調する。

大塚氏(左)と丸山氏

 全15回のうち、4回がサイン計画の検討に充てられた。地名の新森から光の塔を木に見立てた「新しい森」をコンセプトに1階(地上の木調、大きな動物)、2階(葉の緑・木の黄、小さな動物)、3階(空の青・太陽の赤、鳥)それぞれに色彩とモチーフを設定。子どもが嫌がる診療室や検査室の入り口には動物の後半身、室内に全身を描くことで「好奇心と創造性」を誘う。部屋が暗くなるエコー室には、暗闇で発光する蓄光石でアートをつくるなど、教育力と治癒力を包含した「一つひとつの空間が意味のあるもの」(大塚氏)として成立している。
 設計に当たって「当時はあまり普及していなかった」(大塚氏)BIMを積極的に活用した。大人と子どもそれぞれの視点を示したり、その場でプランを修正して見せることで、「常にイメージが共有され、間違いの未然の防止につながった」と、見える化と即応という設計者としての基本姿勢が、施主との信頼関係をより強固なものとした。
 また、工事は「新館新築」「本館+連絡通路新築」「新館改修+連絡通路新築」の3期に分けて診療を継続して行いつつ、これを逆手に「健児と病児が混在する交差感染の防止」という小児医療が抱える課題の解決にもつなげた。
 病院が実施した患者満足度調査では、次も「ぜひ受診したい」「受診したい」が97%、さらに「ぜひ紹介したい」「紹介したい」も93%に上る。「利用した人がもう一度行きたい病院という評判が一番うれしい」と語る大塚氏。丸山氏は「かわいいには、マーケティング的なものがある一方、日本の文化に欠かせない感性でもある。合理性だけを考えればいらないものだが、何かが起こるような期待感がそこにあるのではないか」と、感性に訴える設計と、それを具現化する上で欠かせない事前ワーキングの重要性を強調する。

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