【グローバル視点で和の「美」を探る】明大ら「日本の伝統建築の魅力とその理由」シンポジウムを開催 | 建設通信新聞Digital

4月25日 木曜日

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【グローバル視点で和の「美」を探る】明大ら「日本の伝統建築の魅力とその理由」シンポジウムを開催

 明治大学と伝統を未来につなげる会によるシンポジウム「日本の伝統建築の魅力とその理由」が23日、東京都千代田区の明大アカデミーホールで開かれ、各分野の専門家がグローバルな目線から、自然との共生を価値観の根底に置く日本の文化や建築の魅力とともに持続可能な社会のあり方を語った。
 冒頭、伝統を未来につなげる会の川井徳子理事があいさつに立ち、5日に逝去した同会会長の中村昌生氏が日本の美意識として見いだした「庭屋一如」の思想と技術を次世代に継承していく重要性を強調。「生活文化の揺りかごである伝統的な空間が失われることは日本美が失われることだ。政府、民間が一丸となってこの危機を乗り越えなければいけない」と訴えた。
 「日本の面影:匠の美意識と建築」と題して基調講演した湿板光画家で日本文化研究家のエバレット・ケネディ・ブラウン氏は、「日本の伝統的な空間にいると時間の移ろい、繊細な変化がはっきりと感じられるようになる。暮らしも住まい方も自然と調和し一体化することで感性が磨かれ開かれていく」とし、こうした建築がブルーノ・タウトやフランク・ロイド・ライトを始めとする世界中の著名な建築家やデザイナーに「大きな感銘を与えてきた」と指摘した。

基調講演するブラウン氏

 伝統を引き継いできた職人の重要性にも言及。「優れた職人はただ空間をつくるだけではなく、その場の空気もつくっている。ものを特別にする。自分の魂をそこに吹き込む。それが匠の精神であり、千年後でもその魂、気配はずっと残る」とした上で、「縄文から続く匠の精神、自然との深い関わりの中で磨かれた繊細な感性を次の世代につなぐためには木、草、紙でつくられた自然に近い、自然を感じる空間が大切だ」と語った。
 パネルディスカッションでは、法隆寺宮大工棟梁西岡常一唯一の内弟子である、宮大工棟梁の小川三夫氏と、西岡棟梁に3年間密着取材した経験を持つ建築家で元金沢工大未来デザイン研究所長のアズビー・ブラウン氏、庭園デザイナー・コーディネーターの烏賀陽百合氏、それにエバレット氏の4人が、飯田泰之明大准教授のリードで議論した。
 このなかで小川氏は「努力に努力を重ね、修練に修練を重ねてようやく勘を得て、ちょっとした違いに気づく。正解があるわけではない。棟梁によってそれぞれの線があり、やってみて反省して、そうやって自分の仕事に自信が持てるようになって1300年前の声が聞こえてくるような気がしてくる。言い訳ができないし、しないのが職人の世界。魅力ある仕事を一度でも知ることで職人は増えていく」と力説した。
 アズビー氏も「西岡棟梁に出会い、千年つながるものをつくるのが棟梁の責任だと知ってとても驚いた」と振り返りながら「建物ができても完成しない。すき間は50年かけて締めてくれる。環境に応じて動けるようにしているのが日本の建築のつくり方の特徴だ。だから長くもつ。これは西洋にはない考えであり、日本の職人には環境についての知恵がたくさんある」と語った。
 エバレット氏は「伝統的な職人技術を次の世代に伝えるためには理解のある顧客が重要だ。海外では日本の家屋や庭園を求める人がかなりいる。職人さんを海外の顧客とつなぐ人材を育成する必要がある」と提言。烏賀陽氏は「長い歴史の中で培われてきた日本の美意識が現れている日本庭園の良さを、私たち自身が言葉にして正しく伝えていくことが大事であり、これからの課題だ」と呼びかけた。

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