【奈良公園】鹿だけじゃない! 周辺の世界遺産も楽しむエリアづくりへ 隈研吾氏設計の施設も | 建設通信新聞Digital

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【奈良公園】鹿だけじゃない! 周辺の世界遺産も楽しむエリアづくりへ 隈研吾氏設計の施設も

平日でも観光客でにぎわう東大寺参道

 奈良市を観光する際の定番中の定番となる奈良公園と言えば何を連想するだろうか。ほとんどの人が第一声で「鹿!」と即答するはずだ。次に来るのは東大寺(大仏を含む)か。では、3番目は何?と聞かれた場合、何と答えたら良いだろう。特に他県の人は、すぐに思いつかないのではないか。春日大社や興福寺、元興寺など公園エリア内には世界遺産に登録されている建造物が数多くあるのだが、これが現状なのだ。そうした中、奈良県が宿泊施設誘致などの官民連携プロジェクトを公園内で始動させており、奈良県全体の観光産業活性化に期待が寄せられている。

人より鹿の方が多いと 言われた時期もあった

 奈良公園は、1880年に興福寺旧境内などの風致景観を守るため、その一画を公園としたことが始まり。明治期の拡張整備を経て現在の公園の姿を形成した。1922年には国の名勝に指定され、以降、文化財として保存されてきた。公園面積は正式には県が都市公園指定した約511ha(うち平坦部48ha)だが、寺社仏閣の史跡などを含めた660haの広大な敷地が公園エリアと見なされている。都心の中心部でこれだけの緑がある都市は他にない。
 県の公園活用に向けた取り組みの大きな動きは、2011年にまとめた「名勝奈良公園保存管理・活用計画」に始まる。計画では公園が持つ本質的価値を「古代からの優れた風致景観の地」「歴史的・文化的要素と自然的要素の融合する公園」「風致景観の充実と継承による『完善至美』の公園」とした。この価値に沿って適切に保存しながら、来訪者の便益を向上する施設整備などの方針が示された。

高畑町裁判所跡地活用事業イメージ

 翌年には、公園内における課題を解決し、「世界に誇れる奈良公園」にするための基本方針や重点的な取り組みを定めた「奈良公園基本戦略」がまとまった。基本方針では、施設を保存(維持)し、魅力を生かす(利活用)のほか、県が主体的に取り組むことが示された。
 この基本戦略に沿って現在、公園内では3つの大きな事業が動いている。
 先陣を切って工事に着手したのは、県庁に隣接する旧登大路駐車場の跡地で整備を進めている(仮称)登大路バスターミナルだ。外国人や修学旅行生などの観光客への「おもてなし環境」を向上して、アメニティー機能も充実した奈良公園の玄関口となる。公園中心部への観光バスの乗り入れを抑制することで、渋滞の緩和も同時に図る。
 規模は、S一部RC造地下1階地上3階建て延べ5942㎡。バス乗降場(5台分)のほか、展示施設やレクチャーホール(300席)、飲食・物販店舗を備える。
 設計はアール・アイ・エー、施工は奥村組・山上組JVが担当。昨年9月に起工した。18年度末の竣工を目指している。
 官民連携プロジェクトとして取り組んでいるのが、高畑町の裁判所跡地の保存管理・活用事業。跡地は室町時代から明治時代にかけては興福寺子院の松林院が所有し、明治以降は山口家南都別邸、最高裁判所(奈良家庭裁判所分室として使用)が所有した歴史薫る場所で05年に奈良県が土地1.3haを取得した。
 事業では、庭園を復元しつつ、宿泊施設と交流・飲食施設を整備する。ヒューリックを代表とする企業が事業者に選定されている。計画地全体を1つの庭と見立てた「庭屋一如」をテーマに、宿泊施設と飲食施設は建築家の隈研吾氏、庭は宮城俊作氏(プレイスメディア)が設計し、淺沼組が設計と施工を担当する。現在は設計作業を進めており、18年1月の着工、20年度の営業開始を予定している。

吉城園周辺地区活用事業のイメージ

 公園内のもうひとつの官民連携プロジェクトに、吉城園周辺地区の活用事業がある。事業は日本庭園の吉城園を中心とした登大路町の県有地など約3haが対象だ。
 事業地内で、宿泊施設を整備・運営し、既存建物の保存・維持・管理・解体撤去を担当する事業者は森トラストを代表とする企業グループが担当する。宿泊施設は最高級の外資系ホテルを誘致する。設計は高畑町の事業と同様、建築家の隈氏が手掛ける。
 現在は、日本庭園の吉城園や知事公舎(1922年竣工)、副知事公舎(32年竣工)、旧青少年会館(昭和初期竣工)、旧世尊院客殿(江戸末期竣工)などの既存建物がある。知事公舎は、古い建物であると同時に、昭和天皇がサンフランシスコ講和条約の批准書に署名したというエピソードもある。2020年春の開業を目指している。

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