【省エネ+快適性】WELL認証に向けて ハード面・ソフト面でゆとりのあるオフィスを実現 | 建設通信新聞Digital

4月28日 日曜日

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【省エネ+快適性】WELL認証に向けて ハード面・ソフト面でゆとりのあるオフィスを実現

 健康で快適に仕事ができる就労環境を従業員に提供し、知的生産性を向上させることを企業経営者が考える際に、1つの指標となるのが評価ツールだ。その代表となっているのが、米国の公益企業・国際ウェルビルディング協会(IWBI)が運営する「WELL Building Standard」WELL)だ。2014年に正式公開され、わが国でも10件の建築物がWELL認証に登録するなど、関心が高まっている。
 18年5月にIWBIが公開したバージョン2では、空気、水、食物、光、活動、温熱快適性、音、材料、こころ、コミュニティーの10コンセプトを評価することになった。WELLが登場するまでは省エネルギーの性能評価があったものの、「企業経営の費用のうち、エネルギー(光熱費)にかけるのは、全体の1%程度で、賃料が9%。残りの90%は人件費や福利厚生など“人”にかかる」(平松宏城グリーンビルディングジャパン共同代表)。知的生産性向上には、摂取する食物や精神状態、社会とのつながりといった要素が大きく影響する。WELLは、これらの要素を評価する点が大きな特徴で、空気の質を向上する換気フィルターや作業特性に応じた照明、温熱環境を整える空調、快適さを感じられる空間設計といったハード面だけでなく、ビル内の食堂で提供する食物や水の質も評価対象となる。

平松共同代表

 19年秋のWELL認証を目指し、健康的な環境を実現する「健築」の観点で本社を改修した竹中工務店も、コミュニケーションエリアの設定などだけでなく、食堂のメニューの見直しといったソフト面も整えた。
 省エネ評価ではないため、エネルギーの消費を減らすだけで点数が上がるわけではなく、例えば照明の使用量を極力減らすようにすれば執務室の暗さが快適性を阻害する。省エネを追求した結果、快適性・健康を阻害するといういわば“トレードオフ”の関係になる部分もある。
 国内で初めてWELL認証を取得した大林組が、快適性に着目し始めたきっかけもこの点だった。1982年に建設した技術研究所は当時、注目され始めていた“省エネ”を前面に押し出し、「世界一の省エネビルと呼ばれ、各方面から評価された」(吉野攝津子技術本部技術研究所都市環境技術研究部主任研究員)。ところが、「頑張りすぎて、天井が低く、換気量を絞るなど、“我慢の省エネ”という側面があった」(同)。そこで現技術研究所の整備の際に目指したのが「高い省エネ性能と高い知的生産性・快適さを両立する空間」だった。これが結果的にWELL認証につながった。

大林組の技術研究所。国内で初めてWELL認証を取得した

 こうした“我慢の省エネ”から脱却する考え方は、米国の環境性能評価システムとして国内でも普及している「LEED」にも反映されている。16年に公開されたバージョン4で、「温熱環境や照明、音など、快適性、生産性に影響する評価項目や、周囲のコミュニティーといった社会的項目への配点を大きくした」(平松共同代表)。省エネと快適性の両立こそが世界の潮流となっている。
 竹中工務店の石川敦雄技術本部技術企画部副部長企画担当は、省エネと快適性の関係性について、「人の多様さや健康を考えると、空間そのもののつくり方が変わってくる。場所を選択するワークスタイルや個人差に応じて必要なエネルギーを必要なところに使うなど、上手にワークスタイルとサービスを組み合わせ、ハードだけでなく、人事や総務の制度も含めてゆとりを持って選択できるオフィスになれば両立できる」と見通す。

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