【ABWの新たな視点・モビリティー】環境選びをしやすい仕組みへ 利用状況をリアルタイムに可視化 | 建設通信新聞Digital

4月28日 日曜日

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【ABWの新たな視点・モビリティー】環境選びをしやすい仕組みへ 利用状況をリアルタイムに可視化

 アクティビティ・ベースト・ワーキング(ABW)とは、「働く人が、自分の仕事内容に合わせて移動し、執務する環境・場所を選ぶ」働き方である。「ABWが仕事の生産性や就業意欲を高める」とする研究に基づいて、ABWを促すオフィス空間提案が盛んになっている。ABWのメリットと課題、浮上した新たな視点「モビリティー」について、オフィスづくりに携わる企業の動きから読み解く。
 ABWのメリットを示す研究の1つに、三井デザインテック、島津明人慶大総合政策学部教授(発表時は北里大一般教育部教授)、稲水伸行東大大学院経済学研究科准教授による「ABWに関する産学協同研究」がある。
 同研究の、東京23区で働く会社員・会社役員を対象とした調査では、ABWを促すオフィス環境(1人の作業に集中しやすいブースや、リラックスして交流などができるカフェテリアなど、オフィス内に多様なスペースがあり自由に選択できる)で働く人は、そうでない人よりストレスが低く、仕事への意欲・生産性・効率性が高い傾向が出た。
 この傾向について島津教授は、仕事内容に合わせて執務環境を選べることによる作業効率上昇のほか「自由に場所を選ぶことで、自分の仕事をコントロールできている感覚を得られて、ストレスを感じにくくなった」点に原因があると考察した。
 働く人が、各自の仕事に合わせてどれほどの頻度で能動的に場所を変えて働けているか自己評価した指標を、一部でモビリティーと呼ぶ。モビリティーをオフィス環境づくりで重視する姿勢を打ち出した企業の1社がイトーキである。
 同社はABWを取り入れた本社オフィスでの調査から「『モビリティー』の高い社員ほど仕事への愛着が高く、創造性を発揮できていると実感している」傾向を発見したことを「最も重要な成果」(平井嘉朗社長)として、11月の新製品展示会「ITOKI PRESENTATION130」で明らかにした。

ITOKI PRESENTATION130で発表する平井社長

 ただ、「従来のABW向けオフィスのように、いろいろな執務環境を選べるようにしただけでは、そのオフィスで働く人全員のモビリティーが上がるとは限らない」(川島紗恵子広報IR部部長)こともあり、同社はスマートフォンと連携してオフィスの利用状況を従来より詳しくリアルタイムに可視化するアプリなどで、環境を選びやすくする仕組みづくりにも取り組むとした。

オフィスの利用状況を示すアプリの参考展示(11月6日、ITOKI PRESENTATION130)

 同じくABWを推進するオカムラも「ABWでオフィス内を仕切る場合、エリアを透過性の低いパーティションなどで仕切ると、その区切り内のエリアが使用されているか一目で分からず使いにくい。一方で、エリアの区切りが分かりやすくないと、エリアを選びにくい」という顧客の声を踏まえ、細いフレームと棚で収納を兼ねつつ透過性が高いままオフィス空間を仕切れる「Lives シェルフ」を11月に発売した。

オカムラ「Lives シェルフ」(11月7日、オカムラグランドフェアでの展示)

 また同社はモビリティーの移動範囲にオフィス外も含めて実像を探っている。同社11月発行の『WORK MILL RESEARCH01』では、全国のオフィスで働く人を調査した結果、「仕事に合わせて、オフィスのさまざまなスペースを利用する」、または「定期的に主な職場で仕事をするが、基本的に別の場所で仕事をする」と自己評価した人が全体の8%を占めた、と発表した。
 同社は、オフィス外も含めてモビリティーの高い人の割合が、働き方改革が進むにつれて増えると予想する。
 調査では、モビリティーの高い人は、そうでない人と比べ「オフィス環境が経営課題に与える影響を、より大きいと考える」「1人で集中して作業できる環境とともに、他者と共同で集中して作業できる環境も重視する」など異なった傾向があることも指摘し、働き方改革の進捗によるオフィス需要の変化を示唆している。

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