シャンプーや食器・洗濯用の洗剤あるいはペットボトルなどの製造プロセスで副次的な生成物として排出される有害物質「1,4-ジオキサン」。化学メーカーにとって、この有害物質の分解・処理は悩ましい課題の1つとなっている。これを短期間かつ低コストで分解できる“キラーテクノロジー”として注目を集めているのが、大成建設のジオキサン分解菌「N23株」だ。
キラーテクノロジーとなる分解菌「N23株」は、界面活性剤などの製造プロセスで副産物として生成される有害物質「ジオキサン」を分析レベルで検出できないレベル(極低濃度)にまで浄化する高い分解能力と増殖性を持ちながら、一般的に微生物の活性が落ちるPH4-6のいわゆる酸性域であっても活性を維持できるという他の菌株にない異質な特徴を持つ。
これらの特徴を生かした「高速処理プロセス」の構築によって同社は、これまで一般的に用いられてきたオゾンや過酸化水素といった複数の強力な酸化剤を用いる競合技術「促進酸化法」に代わる、低コストかつ環境負荷の少ない新たな浄化技術を生み出した。
とはいえ、このキラーテクノロジーを確立するまでの道のりは決して平坦ではなかった。
分解菌「N23株」を発見した、いわば“育ての親”である技術センター都市基盤技術研究部環境研究室(微生物・化学チーム)の山本哲史主任研究員は、2005年3月までジオキサンの微生物分解などで先駆的な研究を進めている大阪大大学院工学研究科(環境工学専攻)に在籍。土壌の浄化や排水処理の研究を行っていた。
大成建設に入社した後、OJT研修でジオキサンの化学的分解手法の検討を行ったことで「(ジオキサンが)化学分解が難しい物質だということを思い知った」と明かす。
いったんはジオキサン分解の研究から離れるが、09年に環境基本法における「地下水の水質汚濁に係る環境基準」(地下水環境基準)に追加されるなど、国の法的規制が強化されたことで「ジオキサンがいまだに大きな課題になっている」ことに気づく。
分解・処理技術の市場や従来技術を徹底的に洗い出す中で「既存技術の処理性能に関する課題や(化学的な処理方法である促進酸化法が)多大なコストと環境負荷を要している」ことに着目。“時代にマッチした生物処理”の研究をスタートさせる。
当初は大阪大学が保有する分解菌「D17株」を用いて研究を進めていたが、オリジナリティーを追求する意味で新たな分解菌の探索にもチャレンジ。各地で採取した試料(菌)を培養して分解菌かどうか確認するという一連のサイクルを根気強く積み重ねた結果、特異な分解能力を持つ分解菌「N23株」を探し出す。
菌株の単離に成功してから約2年半。数々の失敗を繰り返しながら、大量培養の手法を確立したことで、N23株の特徴を最大限に発揮できる処理プロセスを実用化するところまでこぎ着けた。
いよいよ化学メーカーの課題を一手に解決するキラーテクノロジー「T-BioTreat」が市場投入される。
【ひと口メモ】
世界一とされる分解能力だけでなく、酸性域での活性を維持する点や優れた沈降性など“多才”な能力を持つ分解菌「N23株」の特徴を生かす処理プロセスは、ジオキサンを含有した工場からの排水とN23株をタンク(処理槽)で混合するところから始まる。
エアレーション(通気)によって、雑菌などが増えない状態(PH5.0程度の酸性域)に制御することで、分解菌「N23株」だけが活性を維持。N23株だけが持ち前の高い分解能力でジオキサンを分解していく仕組みだ。
通気を停止すれば、N23株は即座にタンクの下部に沈降するため、工場からの排水をターゲットにした「一律排水基準値(0.5mm/リットル)」以下の濃度にまで分解・処理されたタンク内部の上澄みを引き抜く(プロセスを繰り返す)ことで、安定的に分解・処理していくことができる。
装置の稼働状況や温度・PHなどの値を携帯電話などでリアルタイムに閲覧できるシステムも構築。数値から装置が安定的に運転できていることを現場に行かずとも確認できるというメリットもある。
競合技術である「促進酸化法」との比較でも、処理コストは約50%まで半減。CO2排出量は約90%も削減できるなど大きな優位性を持つ。
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