【BIM/CIM改革者たち】プロセス可視化で関係者全員がひとつに 大林組 杉浦 伸哉氏 | 建設通信新聞Digital

4月29日 月曜日

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【BIM/CIM改革者たち】プロセス可視化で関係者全員がひとつに 大林組 杉浦 伸哉氏

 「最高の舞台をつくろう」と呼びかけるのは、大林組でビジネスイノベーション室副部長を務める杉浦伸哉氏だ。2023年度から国土交通省の直轄事業でBIM/CIMが原則導入となる中、完全実施の舞台上で「技術を駆使して突き進むことが、企業としても、業界としても、次へのステージにつながる一歩」と考えている。

大林組の杉浦伸哉ビジネスイノベーション室副部長


 脳裏に浮かぶのは、国交省がCIM試行に乗り出した12年当時だ。土木本部本部長室情報企画課長として土木現場への3次元データ活用を技術支援していた杉浦氏は「施工管理のツールとして使うのは難しい」と考えていた。翌年には日本建設業連合会の代表メンバーとして国交省の海外CIM視察に参加し、米国や英国で最新のBIM導入インフラプロジェクトに触れ、その考えを一変させた。

◆「カイゼン」で従来のやり方を変え、生産改革
 海外では各プロセスをつなぐように3次元データが流れていく。日本では“点”である現場の成果が“線”としてつながらない。各プロセスをつなぐ情報共有の重要性を知った瞬間でもあった。そこには目的をひとつにしてプロジェクトの成功に突き進む関係者(事業者、設計者、施工者)の姿があった。「従来のやり方を変えなければ、生産改革は成功しない」と確信した。

 国交省は15年度にi-Constructionを掲げ、現場の生産性向上にかじを切った。ICT活用の流れは現場からの要望として高まりを見せる中で、基準が現場の足かせにならないよう示した『カイゼン(改訂・新設)』方針が「分岐点となった」と振り返る。たとえばドローン測量は写真を連続して撮影するため、写真の重なる範囲のラップ比率が当時90%に設定されていた。これを80%に下げれば測量時間を10分の1に短縮できる自社のカイゼン案が受け入れられ、1年後には新基準として位置付けられた。

 「こうした現場からのカイゼンをひとつずつ形にしていく今のBIM/CIMの流れは、全体最適に向かっている。重要なのはしっかりとプロセスに落とし込むこと。その流れを細かく可視化すれば、プロジェクト関係者全員がひとつになれる。“点”の成果を“線”としてつなげる仕組みを整えることで、BIM/CIM完全実施の効果を業界として得ることができるだろう」

据付け作業時間を48%削減した取り組み


◆ECI方式の登場も、新たな枠組みとして期待
 杉浦氏は日本建設業連合会インフラ再生委員会技術部会の幹事メンバーとして、BIM/CIM推進ワーキングリーダーや土木情報部会の情報共有部会長も務める。「企業の枠を超え、プロセスの視点から本当のBIM/CIMの価値とは何かを考える時、業界として競争領域と協調領域を明確に区分けした議論が必要になる。そうすれば各社の創意工夫が技術革新につながることは間違いない」

 たとえば内閣府の官民研究開発投資拡大プログラム(PRISM)は協調領域の確立につながる動きのひとつ。設計与条件が複雑で、課題解決に向けて早い段階から施工者を参加させるECI(施工予定技術者事前協議)方式の登場も新たな生産の枠組みとして期待されている。それらプロジェクトでは関係者の情報共有ツールとしてBIM/CIMを有効活用し、プロセスを通してデータを活用しながら最適な方策を見いだしている。この流れは、まさにDX(デジタルトランスフォーメーション)にもつながる。

 協調領域の確立は、業界として共通化できる部分の環境整備を指す。BIM/CIMが原則適用される23年度をきっかけに「新しい舞台が整えば、ひとつ上のステージで技術を競い合えるだけでなく、DXに向かう建設生産のプロセス改革にも踏み込むことができる」と力を込める。既存ルールの枠を越え、業界構造を劇的に変化させる破壊的イノベーションの視点に立てば、ある一定ラインを越えると、カイゼン効果は一気に上昇カーブを描く。BIM/CIMの完全実施は「企業を、そして業界を成長へと導く」と期待してやまない。

破壊的イノベーションの視点では一定ラインを越えると、カイゼン効果が上昇カーブを描く



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