【BIM/CIM改革者たち】「作る」と「使う」両面の人材育成 中央復建コンサルタンツ 森 博昭氏 | 建設通信新聞Digital

5月4日 土曜日

B・C・I 未来図

【BIM/CIM改革者たち】「作る」と「使う」両面の人材育成 中央復建コンサルタンツ 森 博昭氏

 「一歩ずつ着実に人材を育てるしかない」。中央復建コンサルタンツの森博昭ICT戦略室長は、国土交通省が掲げる2023年度のBIM/CIM原則適用に向け、決意をのぞかせる。09年度からスタートした社内の3次元CAD研修は新入社員教育に組み入れ、既に全社員の半数が受講済み。BIM/CIM一般化の流れはいずれ地方自治体や民間インフラ事業分野にも広がる。「当社だけでなく業界にとってもBIM/CIMへの重要課題は人材育成に尽きる」と言い切る。

中央復建コンサルタンツの森博昭ICT戦略室長

 入社以来、下水道や河川の計画・設計を担当してきた森氏に転機が訪れたのは06年のことだ。新規事業グループに配属となり、社を挙げて将来的に取り組むべきBOP(ブルーオーシャンプロジェクト)の1つとして3次元設計が位置付けられ、そのリーダーを任命された。同業他社に先駆けて3次元ツールの導入にも踏み切り、自らも率先して使い始めた。その時の高揚感はいまも忘れられない。

◆変化を楽しむ意識が大切
 「それまでは、ただがむしゃらに図面を書き、数量を計算し、変更点が生じれば、その対応に追われる日々だった。図面を書くのが趣味と言えるぐらい好きで、いつもせわしなく描いていた。3次元設計との出会いにより、考え方は大きく変わった。イメージを形にしていく流れは直感的であり、ミスも防げる。まさにエンジニアのツールであると実感した」

 BOPの発足を機に、社内で選抜された約20人が集まり、3次元設計の勉強会を持つようになった。実プロジェクトのモデリングやシミュレーションも試み、何ができるか、何をすべきか、意見を交わした。この勉強会が人材育成の核となっている現在のCIM系技術ミーティングに発展した。作る(テクニカル)と使う(マネジメント)の両面で人材を育成しており、現在は社内のリーダー役となるCIM担当者17人、3次元CADインストラクター32人の体制で運営している。

3次元CAD研修は全社員の半数が受講済み


 日常化する社内3次元CAD研修では3次元CADインストラクターが講師を務め、テキストも自前で作成している。「社内では目の前にある業務上の困りごとを考え、そこに使うよう呼び掛けている。身近なところから出発することが近道」と考えている。橋梁部門でスマートフォンを使った現地の補足測量を効率化する試みを始めたように「自ら考え挑戦する」姿勢も、人材育成のポイントの1つだ。

 「何ごとも変化には労力を伴う。伝統的に築いてきたプロセスを変え、新しいことに挑戦するには覚悟を持たないといけない。当然、変化へのストレスは発生するだろうが、それを苦痛と捉えるのではなく、前向きに変化を楽しむ意識で取り組んでほしい」。中心的な役割を担っていたCIM推進室が21年4月からICT戦略室に移行したように、組織体制も進化し続けている。森氏が「社内のステージは変わった」というように、同社はBIM/CIMを軸に、さまざまな場面でICTを利活用する流れを形作ろうとしている。

◆自分で考え、デザインする楽しさが活用のきかっけに
 「これまでは業務をこなすことが中心だった。生産性や設計品質の向上を目的としたBIM/CIMの活用が“守り”の戦略だとすれば、これからは新たな領域に踏み込み、BIM/CIMを基盤にインフラDX(デジタルトランスフォーメーション)への進化を目指す“攻め”の戦略にも打って出る」。人材育成も兼ねて若手社員を中心に本社のある新大阪エリアをモチーフに構築したデジタルツイン提案も「社員に考えデザインしていく楽しさを知ってもらい、新たなBIM/CIM活用を考えるきっかけになれば」との思いを持っている。

若手社員が中心になり構築した新大阪のデジタルツイン

 23年度のBIM/CIM原則導入を前に、設計段階では22年度から完全実施の波が到来する。国交省ではインフラDXセンターを配置し、人材育成への支援体制も構築した。建設コンサルタンツ協会近畿支部ではICT研究委員会の委員長も務める森氏。「まず手を動かし、業界全体がBIM/CIMに慣れていくしかない。それが建設コンサルタントの魅力向上にもつながる」と前を向く。


建設通信新聞電子版購読をご希望の方はこちら