【アルミニウムの魅力】風土に馴染み表情豊かな素材 北川原温氏が作品を語る | 建設通信新聞Digital

4月26日 金曜日

公式ブログ

【アルミニウムの魅力】風土に馴染み表情豊かな素材 北川原温氏が作品を語る

北川原温氏

 「アルミニウムは日本の風土にすごく合う材料」と話すのは建築家で東京芸術大学教授の北川原温氏(北川原温建築都市研究所主宰)。講師として招かれたアルミニウム建築構造協議会の年次講演会では「アルミニウムの表情」と題して講演。鮮烈なインパクトをもってわが国の建築シーンに躍り出た初期の代表作『ライズ(RISE)』から最新作のナカニシ新本社R&Dセンター『RD1』まで、建築活動の軌跡とともに、素材としてのアルミニウムの魅力を語った。

「RD1」の全景。四季折々に豊かな表情を見せる鹿沼の景観との新たな調和を目指し、世界最先端の研究開発に資する環境と空間の創出を試みた

 1986年、北川原氏が35歳のときに竣工したライズは、映画館と店舗の複合施設で、ドレープカーテンのような独創的な外装が大きな話題を呼んだ。「アルミダイキャスト、鋳物のアルミニウムでつくられている」という、その内外装は、「一番大きなもので6mぐらい。そのほか3×4mのパーツに分けて12tトラックで運んで組み立てた。形がすべて違うから効率が悪い。アルミは厚くて重く施工は大変だった」と振り返る。アルミの製作は富山県を本拠とする長柄製作所(現ナガエ)。「この長さをやれる会社はここしかなかった」という。
 昨年1月、“ミニシアターの本丸”として映画ファンに長年親しまれてきた映画館シネマライズが閉館したが、ビル自体は「いまも渋谷の雑踏の中にある」
 2000年の日本建築学会賞作品賞を射止めた『ビッグパレットふくしま』(福島県郡山市)は、「アルミニウムも使ってはいるが、新素材のCFRP(炭素繊維強化樹脂)の使い方が大きな特徴」と語る。人工的なエネルギーを燃焼して空気を切り裂く「ジェット機」ではなく、風に乗り大気の揚力を利用して軽やかに飛ぶ「グライダー」のような建築を心掛けた。楕円形の大屋根も「風の影響を受けにくい形状」から導きだした。張弦梁構造の採用など合理的な構造を追求した多目的展示場と国際会議場からなる、この大規模複合コンベンション施設は「エキスパンションを入れず一体構造として力が分散するように設計した」結果、2011年の東日本大震災での強震にも耐え、川内村や富岡町からの住民3000人の避難所ともなった。

「RD1」のディテール。Σパネル内には外断熱層や自然換気装置なども設置され、建物内外の環境を制御し快適な内部環境を守っている

 「コンペのときに、都市のような建築をつくるというコンセプトを考えたが、『3・11』では人と人との助け合いやコミュニティーを生みだしていく上で空間のあり方が大事であることを改めて実感した」とも。
 日本芸術院賞やJIA建築大賞、村野藤吾賞など数多くの賞に輝いた『中村キース・ヘリング美術館』(山梨県北杜市)も第1期ではアルミを使わず、展示室などを増築・拡張した第2期でヘリング自身も彫刻に使っているアルマイト処理したアルミニウムをスカイライトに使用した。
 「アルミは周囲の緑や自然、空にすごく馴染む。コンクリートより自然環境によく馴染む素材であることをここでも感じる」という。

世界各地から訪れる客をもてなす最上階のVIPルーム。空を切り取るようにカーブする軽快な庇の先には深岩山や大芦川流域の雄大なパノラマが広がる

 日光連山や深岩山、大芦川の美しい緑と水に恵まれた敷地に約70m四方の矩形のオフィスが軽快に立ち上がる。歯科医療器具の世界トップブランド、NSKのブランド名で知られるナカニシの新本社R&Dセンター『RD1』(栃木県鹿沼市)は、14カ国に拠点を持ち、130カ国以上の国々に輸出する同社の世界戦略の一環として計画された。
 「この会社が何を目指しているのか、世界戦略を私たちなりに理解して空間的に実現しよう」と密接に打ち合わせしながら設計を進め、建物の中心に4層吹き抜けのアトリウム「センターコート」を配置。螺旋形のスロープが全フロアをシームレスにつなぎ、上方に向かうほど直径が広がっていく空間は「ナカニシ社のスローガンである『美しい進歩と創造』を想起させる上昇感や爽快感を演出」するとともに、世界最高水準の超高速回転技術もシンボライズしている。社員の多様なコミュニケーションを促すさまざまな建築的仕掛けは「社員の一体感が生まれ、動きもスピーディーになった。まさに建築の力だ」と中西英一社長から激賞されたという。
 柔らかな陰影が時刻や天候、季節によってさまざまな光の表情を映し出す外壁は、特注アルミ押出成形材によるΣ(シグマ)と呼ぶ環境制御パネルで覆われ、構造躯体を保護している。
 このΣパネルの曲線断面は「何度もスタディを繰り返し、雨仕舞いや光の反射なども検証しながら形状を決めた」という。「夏冬の暑さ、寒さによる膨張や収縮も織り込みながら非常に精度良く仕上げてくれた」と元請けの前田建設工業を始め、サブコンやメーカーなど施工関係者に謝意を示しながら、「アルミは表情がすごく豊か。日本の気候、環境にあう質感があり、柔らかく日本の風土に溶け込む」と、手応えを口にする。

建設通信新聞の見本紙をご希望の方はこちら