【男女共同参画学会シンポジウム】女性活躍をリードする建築界から働き方を紹介・方策を話し合う 建築学会 | 建設通信新聞Digital

4月29日 月曜日

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【男女共同参画学会シンポジウム】女性活躍をリードする建築界から働き方を紹介・方策を話し合う 建築学会

 日本建築学会(古谷誠章会長)が第16期幹事学会を務めた男女共同参画学協会連絡会(委員長・寺田宏清水建設建築営業本部副本部長)によるシンポジウム「今なお男女共同参画をはばむもの-新たな次のステップへ」が、東京都港区の建築会館で開かれた。他の理工系分野に比べて女性建築家や研究者、技術者を多く輩出し、現場でも女性が活躍するための制度や仕組みづくりを進めている建築界を代表して、それぞれの働き方を通じて、男女共同参画の実効性をより高めるための方策を話し合った。
 基調講演では、前国土交通省住宅局長の伊藤明子内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局地方創生総括官補が「女性就業者等の現状と地方創生から考える」と題して講演。受注型産業の建設業において男女共同参画を「個社の話だけでは解決しない。団体や組織を始め、社会全体を考えていく必要がある」とした。

伊藤氏

 また、女性の高学歴化が進む一方、地方に適職がないため、「地方から東京に就職するのは圧倒的に女子学生が多い」と指摘。さらに保育など地域の環境で住む場所が選ばれることもあり、「現在の地域社会の構造は父親だけが働いていたままだ」とし、勤務時間や就労場所のフレキシブル化が浸透する中、新たなまちづくりの必要性も訴えた。
 女性の立場からも「自分自身を縛っている考え方を脱ぎ捨てるべきだ」とし、「住宅局長時代に女性でメインテーブルに座る人がいないと実感した。本当に仕組みを変えるためには、真ん中に座ることも必要ではないか」と、より女性が発言権を持つことの重要性を示した。
 元大林組の服部道江さんは、「働き方改革の時代に」と題して講演。総労働時間が制限される中、「生産性を上げるためには管理職も積極的に手伝う必要がある」と管理職受難の時代を示唆。真の男女共同参画には、育児や介護休暇の取得者に配慮することに加えて、「それを周りで支える未婚の女性や男性陣へのフォローが足りない」と、組織のマネジメント能力の重要性を説いた。

服部さん

 さらに自身が最後に担当したプロジェクトで、聴覚障害の女性が配属された経験を紹介。「会社から了解と予算を確保したものの、現場に常駐できる手話通訳士の確保が難しく、重要な会議のみにとどまった」と後悔の念を示した上で、多様な働き方とそれを支えるシステムや人材の整備の必要性を訴えた。
 所員全員が女性という構造設計事務所を主宰する枡田洋子桃李舎代表は、「ワークライフフュージョンの実践の場」と題して自社の取り組みを紹介した。当初は5年程度の徒弟制度を考えていたものの、女子大学生をリクルートした結果、女性が働きやすい事務所というイメージが定着。さらに結婚・出産しても継続して働きたいという所員と、長く働いてほしい自分との考えが一致した。

枡田氏

 「所員の勤続年数が増えると、スキルも上がり、コンペの勝率も高まった」という。自分も含めて所員それぞれ異なる事情を抱え、フレックス制度や在宅勤務、子連れ勤務など働くスタイルも異なるが、「すぐそばにさまざまなロールモデル(お手本)があることで安心して働いている。そうした場所を提供することが自分の役割」と強調。徒弟制度から始めたが、「最近は経営状態を開示し、全員が経営に参加することで、師匠と弟子から仲間に関係が変化した」と、新たな経営のあり方を示した。
 パネルディスカッションでは、女性活躍を応援するコンサル・リスペクトイーチアザーを主宰する天野妙さんが、マンションディベロッパー、コンサルタントの自らの会社員時代について、「当時は自分の能力が足りないと勘違いしていたが、最初から男性社員とは違う道を走らされていた」と、必ずしも男女平等ではない状況を紹介。その一方、「男性社員が歩むのも荒野の一本道であり、育児休暇の取得など男性側の選択肢もできればもっと幸せになるのではないか」と語った。

パネルディスカッションではそれぞれの経験から意見が出された

 家庭で主夫の役割を担うため時短勤務を9年間続けている池添大氏(徳島県県土整備部東部県土整備局徳島庁舎河川・砂防管理担当主任主事)は、「子どもと過ごす時間が長い一方、給料が半減し、急な残業などの困りごともある」とし、育児と家事、仕事のバランスの取り方を紹介した。
 厚生労働省から「イクメンの星」に認定された井上竜太竹中工務店技術研究所建築環境部電磁・振動環境グループ長は、男性の家庭進出について紹介。「家庭における取り組みは多くの女性と同じ」とはいうものの「後輩がより働きやすい環境をつくるためには、男性が子育て経験を語ること」が重要とし、フランスにおける“男の産休”など国や行政に一歩踏み込んだ対応も求めた。
 「人生のハードルとその乗り越え方」と題して阿部順子椙山女学園大准教授は、高齢出産と第二子の病気による休職の経験を振り返り、「子どものことがあって人生観が変わった。楽しいことに貪欲に、人生の積み残しを減らそうとしている」と語った。その上で、「女性のプレゼンスを確保することが次の世代へのバトンになる」と、自分にしかできないことを模索しつつ、さまざまな立場から発信する姿勢を示した。

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