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4月28日 日曜日

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【空飛ぶクルマ】「高層建築の屋上に」離発着場が鍵/SkyDrive CHRO 佐藤剛裕氏

 2019年に日本で初めて空飛ぶクルマの有人飛行に成功した日本発のベンチャー「SkyDrive(スカイドライブ)」(愛知県豊田市、福澤知浩CEO)は、25年開催の大阪・関西万博で遊覧飛行サービスを開始し、30年以降の自動運転を目標に機体を開発している。同社設立時から参画し、離発着場のモデル作成を進める佐藤剛裕CHRO(最高人事責任者)は「将来的には高層建築の屋上に離発着場を設けることも考え、まちづくりの川上段階からデベロッパーなど幅広い事業者と協業していきたい」と語る。

設計開発中の空飛ぶクルマの商用機「SD-05」。新ジャンルの移動手段にふさわしい先駆性・先進性をキーワードにデザインした。空へ飛び立つ一対のプロペラのような美しいS字型のシルエットが表現されている

SkyDrive CHRO 佐藤氏

 空飛ぶクルマは、一般的に▽電動▽自動操縦▽垂直離着陸--の三つの要素を満たす次世代のモビリティーを指す。エンジンを備える車に比べて部品点数が少なく整備コストを抑えられるほか、将来的には操縦士が不要で、誰でも自由に扱うことができる。ヘリコプターのように垂直離着陸ができ、滑走路や空港が不要な次世代交通システムとなる。乗車地から目的地へドアツードアの移動を実現するには、ユーザーが使いやすい場所に離発着場を整備する必要がある。佐藤氏は「インフラ設備に左右されず、“点”から“点”へ移動できるメリットは大きい」と語る。
 前例のないモビリティーとなる空飛ぶクルマには、機体やライセンス、離発着場、飛行ルートなどの認証をつかさどる機関がない。このため、認証の枠組みを決めるところから議論を進めている。「航空ルートは、まずは川や海などに限定し、そこから徐々に飛行可能なエリアを拡大していく流れになるはずだ。25年以降に沿岸部や離島、過疎地の利用に加えて、市街地(ビル屋上を含む)の利用も段階的に始め、30年代には本格化するだろう。さらに将来には住宅地近隣への展開を目指す。まだまだ詰めることが山積みだ」と説明する。

◆川上から参画アイデア共有
 電動、垂直離着陸型の移動を実現する上で、鍵を握るのが離発着場だ。将来的に遠隔操縦や自動・自律飛行が可能になる空飛ぶクルマは、基本的にわずかなスペースがあれば離着陸できる。スマートフォンを使って近所のコンビニエンスストアに空飛ぶクルマを呼び、目的地周辺まで空を移動して目的地に着くことも、そう遠くない将来に実現する可能性が高い。それには「市街地のビルの屋上など、使いやすい場所に離発着場を整備することがポイントになる」
 例えば、空飛ぶクルマの離着陸を前提にした高層建築が増えれば、目的階に整備した離発着場に直接乗り付けることができ、エレベーターの移動時間を省略できる。自宅のベランダから目的地の窓までが一直線上につながり、窓から窓へ移動できる。こうした未来の移動手段を思い描くからこそ、「まちづくりの川上から参画し、新築段階から構想や設計に携わることで、デベロッパーとアイデアを共有することが重要だ」という。
 ただ、既存ビルについては「全てのビルの屋上が数tの機体の荷重に耐えられるわけではない。当然、機体の充電も必要になるが、その電源系統を上部まで引き込める建物ばかりではない」と課題も指摘する。
 そのため、長大や大林組と離発着場モデルの設計プロジェクトを共同で進めている。目標は日本版の離発着場の標準化で、スカイドライブが持つ機体情報や機体に関わる必要設備情報をもとに、長大と大林組が保有する環境や交通システム、設計施工の知見・技術を組み合わせ、モデルケースの作成に向けて検討している。そこで蓄積した知見は、経済産業省や国土交通省などによる「空の移動革命に向けた官民協議会離着陸場ワーキンググループ」を通じて提言する。

飛行をより安定させるために水平と垂直の尾翼を設置。機体の上部には12基のモーターとプロペラを配置する


◆都市部、地方部で社会課題を解決
 自動運転が実現すれば、生活はどう変わるか。第一に、人口が密集する首都圏エリアで満員電車や渋滞に悩まされることなく通勤できる可能性が高まる。「駅から近い方が便利という物件の立地の優位性が変わり、路線に制約されない都市構造が実現する。時間を有効に活用できるようにもなる」
 一方、公共交通網が手薄な地方自治体からの期待も大きい。山間部などの道路の先にある目的地にでも効率良く移動できるようになり、さまざまな波及効果が見込める。
 医療過疎地域にも、ドクターヘリに代わる手段として「どのような機体にすれば医療用に使えるかなど、活用法を議論している」。社会課題の解決に向けて、空飛ぶクルマの活用範囲は広がるだろう。
 そのためにも、安全性の向上は最も重要なポイントだ。墜落時の被害がドローンの比ではないため、ドローンの1000-1万倍もの安全性が求められる。航空機と同じ水準まで事故率を引き下げるため、実証実験を重ねている。
 米金融大手のモルガン・スタンレーは、空飛ぶクルマの全世界の市場規模が、40年に約1兆5000億ドル(約223兆円)になると予測している。足元では、コンピュータ制御のアシストで飛行を安定させる2人乗りの機体『SD-05』の開発を進めている。同社がコンパクトなプロペラ式の機体にこだわるのは、将来的に人口密集度が高い日本の住宅からの離発着を想定しているからだ。欧米をはじめ熾烈(しれつ)な開発競争が展開される中、わずかに先行する海外勢へ巻き返しを図る。


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